第28話(累計 第73話) ティナ、立ち上がる。僕はティナを絶対に守り抜くことを決心した。
「大公、皇帝なんてなるなぁ!」
「姫男爵様に負けたのに、恥ずかしいぞぉ」
「暗殺に関係ない姫様を巻き込むなぁ!」
王城の中庭、集まった民衆達が好き勝手騒ぐ。
今日、大公から通達が出るという事で人々が集まっている。
しかし噂では大公が皇帝に就任するという話が既に広がっており、大公に文句を言いに来ている人々が大半だ。
「帝都の皆の衆、今日は態々集まり頂き、ありがとう。先だっての陛下暗殺以降、帝国は乱れておる。諸侯共も好き勝手しており、このままでは他国から攻められてくる危険性も高い」
大公は城のベランダに顔を出し、民衆、城内の貴族、側仕え相手に演説を開始した。
「このままでは帝国はバラバラになる。誰かがまとめ役になるしか無い。そこで……」
「大公! お前は自分が権力を持ちたいだけだ! お前には皇帝になれる資格なぞ無い!」
大公が発言する途中、民衆の中から大声で大公を非難する者が出た。
「誰だ! 兵、騎士よ。今発言した者を捕らえよ。殺しても構わぬ!」
「は! 何処だ。今言った奴を匿う者も同じく捕まえるぞ」
「逃げろー! 大公の言いなりな兵士になんて捕まるかよぉ。皆、スキル使うぞ!」
兵士や騎士達が群衆の中に突撃していく。
そんな中、戦闘向きではないスキルを民衆たちが使い、兵士らが足止めされていく。
そして更に混乱が酷くなり、群衆は蜘蛛の子を散らす様に逃げ回っていった。
「おい、ワシの話を聞け! 聞くんだぁ!」
大公の声が魔法により寂しく帝都内に広まっていった。
◆ ◇ ◆ ◇
「大公閣下、皇帝になる宣言を公式発表したかったそうなのですが、群衆が大騒ぎになってしばらく延期になってしまいました」
「そうですか。情報ありがとう存じます、リヒャルト様」
「いえいえ。姫男爵様」
僕とティナは、ルークス経由でリヒャルト様から情報を得ている。
とうとう大公様は、自ら皇帝になる事を決めた。
こうなれば、残り時間もそう余裕は無い。
「では、わ、わたくしも動く時が来たのですね」
「決心がつかれましたか、フローレンティナ様?」
「ええ、リヒャルト様。わたくし、本当はカイトの御嫁さんになって二人で質素でも幸せに暮らしたかったです。ですが、その夢はしばし置いておきます」
ティナは、真剣な顔でルークス越しにリヒャルト様に宣言をする。
自らが「立ち上がる」と。
……この間までは、やりたくない、やりたくないってずっと言ってたんだよね、ティナ。僕のお嫁さんになるのが難しくなるどころか、僕とも気軽に話せない関係になるかもしれないから……。
「カイト、ごめんね。わたし、貴方と一緒になりたかったの。でも今の帝国を守りたい、沢山の人々が不幸になるのは見ていられないわ!」
「ううん。良いよ、ティナ。ティナが一生懸命考えて決めた事なんだからね。でも、無理はしないでね。いつでも辞めて良いんだから……」
僕は、震えるティナをそっと抱きしめる。
小さくて細くて華奢で、柔らかくて暖かいティナ。
彼女がこれから立ち向かう巨大な物に対し、僕では彼女の背中を守るのが精一杯。
本当は臆病で泣き虫なティナ。
でも、その身に流れる高貴な血が彼女を立ち上がらせる。
僕はティナの震える背中を支え、流れる涙をぬぐう事しかできない。
「辞めるなんて、皇帝に一度なってしまったら無理だよぉ。そんな事をしちゃったら、また帝国に混乱が起きちゃう」
涙目で僕を見上げながらも、心変わりは無いティナ。
僕は、彼女をぎゅっと抱きしめる。
「僕じゃティナの代わりは出来ない。ティナの前に立って守ることが出来ない。ごめん……」
「カイト。わたし、貴方が背中を守ってくれるから、立っていられるの。振るえる手を握ってくれるから、前に進めるの。そして、涙を拭ってくれるから笑顔になれるの!」
キラキラとした笑顔で涙をこぼすティナ。
僕は、そんなティナを、更にさらにぎゅっと抱きしめた。
「カイト、もう痛いよぉ。そんな悪いカイトには、こーだ!」
「ティナ……」
ティナは背伸びをして唇を僕に差し出す。
そして、涙を尚もこぼす眼を閉じた。
僕は、ティナの唇に自分の唇を触れさせた。
キスは涙の味がした。
<カイト様。ワタクシ、なんとしてもティナ様を守ります。二人でティナ様を女帝様に致しましょう!>
……絶対、ティナを守る。その為にはどんな手でも使ってやる! 魔神だろうが、大公だろうか知るか! 邪魔をする奴らは、全部叩き潰してやる!!
◆ ◇ ◆ ◇
「なにぃ! ワシより先に、小娘が皇帝になると宣言しただとぉ!」
「はい、大公閣下。宣言が学都カールスブルグにて行われました。なんとマインツベルク元辺境伯様の他、数多くの中立派、皇帝派でした有力諸侯がパンフィリア女男爵様側に付きました。また民衆は皆、早くも姫皇帝様と呼び喜んでおります」
大公は事務官イーチェンより予想外の急報を受け、狼狽していた。
民衆や諸侯の反発を受け、己が就任できなかった皇帝の座。
それを、あろうことかフローレンティナが先になると宣言してきたのだ。
「あの小娘に、そんな権利も資格もあるまい? 何を根拠にこんな馬鹿な事を宣言したのだ!?」
「女男爵様ですが、元キッツビューラー公爵家。五代ほど前に王家から分家したもので、薄いながらも王家の血を継いでおります。大公閣下よりも血が薄いとは言え、王家の末裔ではありますので根拠はあります」
大公は、フローレンティナに皇帝となる権利が無いと叫ぶ。
しかし、薄いとはいえ大公同様に王家と遠縁なので根拠はあるとイーチェンに説明され、更に怒る。
「で、なんで王家の血が濃いワシが馬鹿にされ、血の薄い小娘が諸侯共にも認められるんだぁ!」
叫ぶ大公を見て、背後に立っているアードルフは黒い笑みを浮かべる。
またイーチェンも大公に顔が見えないように頭を下げ、彼を嘲笑した。
<いよいよ、ティナ様が立志します。皆様、応援宜しくお願い致します>
では、明日の更新をどうぞ!




