第25話(累計 第70話) 僕、砲撃を命じる。
<カイト様。偵察機の準備出来ました。攻撃開始命令をお願い致します>
早朝、僕等は男爵公館の会議室、いや臨時戦闘指揮所に待機している。
公館から南東方向にある村、パラタに終結している敵集団を攻撃する準備をしている。
指揮所のテレビには、ルークスが操縦するドローンからの空撮熱映像の白黒画面が映っている。
画面上では、白い人型のものがテントから出てくる様子が見える。
「カイト。一緒に罪は背負うの。だから……」
「うん、ティナ。僕も手を血に濡らす覚悟が出来ているから。レオン、榴弾砲ですが砲撃準備出来ていますか?」
ティナが僕の手をぎゅっと握ってくれる。
暖かくて、少し湿った小さい手。
柔らかいだけでなく、ところどころが硬くなっている。
剣を握って戦う以上、掌が柔らかいままではいられないだろう。
……でも、そんなティナ。僕は大好きだよ。
僕はぎゅっとティナの手を握り返して、榴弾砲のところに居るレオンにルークス経由で状況を聞く。
「こっちは準備……出来ているんだろうな? ルークスの言うように方角や角度とか固定したぞ。砲弾も突っ込んで蓋をしたし」
「分かりました。では、合図をしたら発射してください。第一射が問題無いのなら、二号砲も発射。着弾が目標に当たっていたのなら、連続砲撃をお願いします」
……倉庫にあった榴弾砲を使う事になるなんてね。
公館からは10キロ以上は離れたパラタ、その方向に二台の榴弾砲の砲口が向いている。
<カイト様、いつでもどうぞ。『泥』はワタクシも一緒に被ります>
「うん、ありがと。では、攻撃開始!」
ルークスにまで心配される僕であるが、攻撃の開始命令を送った。
なぜなら、僕が敵を見逃せば領内の多くの人々が死ぬことになるのだから。
ドスンという衝撃音が、榴弾砲から少し離れた公館にも重く響く。
<着弾まで後5、4、3、2、1。着弾、今!>
FLIR画面の真ん中に、真っ白な閃光がいくつも見えた。
そして二秒ほど遅れて轟音がドローンのマイクにも響いた。
……一番大きな天幕を狙っていたけど、アソコに居たのは指揮官のはず。
「カイト……。あの閃光の中に居た人達は……」
「うん、ティナ。僕は彼らを殺した。そしてこれから、村の中に居る兵を全員殺すんだ。ルークス、初弾の誤差は?」
<カイト様。GPS衛星及びドローンによるレーザー照準により、誤差は2メートル以内。クラスター自己鍛造弾により、いかな装甲を持とうとも、効果範囲内で生きているものはいないでしょう。第二射行きますか?>
「うん、頼むよ。第二射発射!」
僕の指示で155ミリ榴弾砲からスマート弾が発射された。
それは制御羽を動かし、GPS衛星からの情報とターゲットにドローンから照射されたレーザーを目標にして飛び、目標上空で数十個の子爆弾をまき散らす。
<第二射、着弾。今度は小型天幕の集結か所に当たりました>
ドローンからの白黒映像では、真っ白な人型が這いずりながら逃げているのが見える。
カラー映像ではない分、凄惨さは分からないが確実に人が破壊される様子が分かる。
……ぐぅぅ。辛抱するんだ。ティナも頑張っているのに、僕だけ逃げるわけにはいかないんだ。
僕は、口の中に充満する逆流してきた胃液を無理やり飲み込んで、命令を下した。
<次弾装填。照準修正。行けます!>
「レオン、ルークスの指示通り発射!」
「おう!」
レオンは手伝ってくれているドワーフ族や獣族の人達と一緒になって50キログラム近くある砲弾を炸薬と一緒に榴弾砲に装填してくれている。
「発射!」
そして再び、敵の頭上で炸裂した。
「カイト。まだ……」
「うん。こいつらを殲滅しなきゃ、残敵は何をするか分からないからね。ルークス、仕掛けたIEDは?」
僕の手を握ったティナの掌が熱い。
白黒映像とはいえ、自分が起こした虐殺を見るのは心を抉るに違いない。
……ティナ、ごめんね。僕は、彼らがティナやティナが大事に思う人々を傷つけるのは許せないんだ。だから、僕が彼らを殺すんだ。
<IEDですが、焼夷弾を主にして村を囲むように設置済みです。ふむ、敵の指揮系統が完全に混乱してますね。では、そろそろ村から逃がさないようにしましょうか>
「うん、爆破を」
初撃で敵の指揮官は、何も分からないまま死んでいる筈。
指揮官も居らず、いきなり空から降ってくる鉄の雨。
敵兵らの悲惨な状況に同情をしないまでも無い。
だがリヒャルト様からの情報では、彼らは略奪を楽しむような無法者。
生かしておいて良い訳は無い。
白黒映像では、逃げうろたえる兵士らの姿が見える。
しかし、突如として村の家々が爆発し炎上する。
そして村は炎によって囲まれた。
「殲滅砲撃を……」
<はい。カイト様>
画面越しの戦闘。
逃げる場所もなく吹き飛んでいく敵兵。
僕は胃液が上がってくるのを辛抱して、白い人型が吹き飛んでいくのを見た。
◆ ◇ ◆ ◇
「い、一体何があったのだ?」
爆炎と破片が飛び交う村の中。
指揮官であったエッカルトは、ふらふらと歩く。
初弾が着弾時、略奪の為にたまたま天幕を離れていたから生き残った。
しかし既に村は火炎に覆われ、ひっきりなしに頭上から「死の雨」が降ってきている。
「残念です。即死なさらなかったのですか? せっかく痛みを感じる事も無く亡くなられると思っていましたのに……」
「お、オマエ! リヒャルト、オマエは俺や大公様を裏切ったのかぁ!」
エッカルトは、背後からの声に気が付き振り返る。
すると、そこには涼しい顔をしたリヒャルトが居た。
「裏切ったとは失敬。最初から貴方方の味方なぞしておりません」
「どうして小娘の味方などする? あんな愚か者の……」
砲弾が降り注ぐ中、リヒャルトは爆風に揺らされもせずに、淡々と話す。
その様子にエッカルトは怒りを抑えきれなかった。
「愚かなのは古き貴族、貴方方です。何の義務も果たさず、民を踏み躙り喜ぶ愚か者。新たなる変化を忌み嫌い、いつまでも古くて愚かなモノたちは滅ぶべきなのです。そして若くとも愚かな貴方も……」
「ち、ちきしょぉ!」
怒りのまま腰の剣を抜き、リヒャルトに切りかかったエッカルト。
しかし、斬りつけられてもリヒャルトの姿は揺らぐだけ。
「こんな死地に直接来るはずも無いでしょう。こんな事も分からないとは、貴方様は哀れです。では、さようなら」
「そ、そんなぁ」
消えていくリヒャルトを前に腰を抜かすエッカルト。
無情にも彼の頭上に砲弾が降り注ぐ。
彼が痛みを感じる間もなく消え去ったのは、不幸中の幸いなのだろうか。
◆ ◇ ◆ ◇
「哀れなわが友よ。次は賢く生まれるのを望みます」
村から遠く離れた宿営地にて、爆炎を見ながらリヒャルトは呟いた。
<現代の戦争はハイテク機器を利用した一方的虐殺でございます。血なまぐさい近接戦闘などしなくても良いのです>
ルークス君、これは極端例ですからね。
あらかじめ敵を準備していたキルゾーンに追い込んでの砲撃。
いかな魔法があっても前近代の軍隊では勝てる筈もないです。
現実のウクライナでは、第一次大戦でも行われた塹壕戦が今も行われていますし。
<カイト様、お優しすぎてお心を痛めない事を祈るばかりです>
そこは、作者心配しちゃいますね、
では、明日の更新を!




