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第7話 ティナ、カイトを待つ。

「カイト……。生きててくれたのね。良かったわ」


 わたし(フローレンティナ)は、領主にあてがわれた品の悪い薄暗い部屋に1人居る。

 金色ばかりで変に豪華すぎ、柔らかすぎて身体が沈み込む寝心地の悪い天蓋付きベットの中で昼間の事、カイトの事を思い出していた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 わたしがカイトと出会ったのは、五歳になった直ぐくらい。

 地球の高官として来られたカイトのお父様が、わたしに面会する際に同じくらいの子供として息子のカイトを紹介してくれた。

 その時、カイトは確か七歳。


 わたしよりも二歳ほど年上なのに、小さく華奢で女の子みたいな可愛い顔。

 王国では、あまり見ない黒檀色(エボニー)の髪と瞳。

 同じく珍しい象牙色の肌は、すべすべと柔らかそうで可愛らしい表情にぴったり。


 わたしは、可愛いカイトに一目惚れしてしまったのだ。


「あの頃から、わたし男の好みが周囲と違っていたのよね」


 こちら(異世界)では、カイトのような優男は女性に好かれない。

 どちらかといえば目鼻立ちがしっかり濃いめ、そして筋骨隆々な男がモテる傾向にあるらしい。


 ……それでも毛深い男は、好かれないよね。男女ともに貴族では脱毛、肌のお手入れは習慣だもん。


 大人になったカイト。

 今日始めて見たが、あの頃のまま、いやもっと可愛く、そしてかっこよくなっていた。

 身長も成人男性としてはやや低めとはいえ、細めで意外と筋肉質。

 象牙色の柔らかそうな肌には髭も無く、声も少し低くなったが、まだ顔つきが何処か子供っぽくてとっても可愛い。

 それに表情と目の輝きが、幼い頃のまま。


「カイト。あたち、貴方のお嫁さんになるの!」

「うん、ティナ!」


 わたし達に悲劇が訪れる直前、わたしは日本語でカイトに一生懸命プロポーズをした。

 そしてカイトは、わたしを抱きしめ応じてくれた。


「もぉぉ! カイト、わたしぃ大好きぃぃ!」


 わたしは、プロポーズの日の事を思い出し、獣油ランプの灯りの元、ベットの中で枕を抱きしめて悶えてしまった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 わたしがカイトにプロポーズをした直後、王国を襲った政変でわたしの、そしてカイトの生活は大きく変貌した。

 隣国、ルシアン帝国と手を組んだエルヴェン大公【ジークベルト・デル・リヒテンベルガー】は、大軍を率い王都を強襲した。

 そして王族を全て断頭台へと送り、わたし達王族に近い貴族らも同じ運命をたどった。


「お父様、お母様、エルマー……」


 公爵であった父、母、そして生まれたばかりだった弟は、大公によって無残に殺された。

 男であれば、いつか己の首を狩りに来ると、どんな幼子でも殺されたのだ。

 そして子供を守ろうとした既婚女性も皆殺された。


 ……あの時、カイトのお父様も公開処刑なされたのよね。よく、カイトは生き延びてくれたわ。


 残る未婚の女性、少女達は殺されはしなかったものの、彼女達には「生き地獄」が待っていた。

 その一人、王族にも繋がる高貴な血筋として、わたしはただ一人家族と引き離されて生き残った。


 王都に急遽作られた王立貴族孤児院、そこにはわたしと同じ様な境遇の貴族令嬢ら、美幼女、美少女達が集められた。

 そこで成人、十五歳になるまで厳しい躾けと教育を受け、大半の子らは大公派閥の貴族や騎士達に貢物として下げ渡されていった。


 ……孤児院での生活、自分で家事全般が出来るようになったのは、良かったけどね。カイトのお嫁さんになるのに、ご飯くらい作ってあげたいもん。


「あんな男のところに行くのなら、死んでやる!」


 そういって、城の屋上から身を投げたお姉さま。


「お母様、ごめんなさい!」


 そう言って舌を噛み、口から血を流して窒息し死んだ子。

 大公によって運命を狂わされた子達、己の純潔を守るべく半分は自ら死を選んだ。


 そして残る半分は、生きていた方がまだマシと男達の元へと嫁いでいった。

 だが、彼女達も大半が妾、性奴隷、エロ貴族の遊び道具として、命を終えていった。


 わたしに輿入れの順番が回ってきたのは、予定よりも一年近く前。

 なんでも、政変で多数の功績を得た元男爵が伯爵へと昇格した際の記念品として、大公に未成年なわたしの身柄を望んだらしい。


 お父様との約束、最後まで希望を失わず、高貴さと優雅さを忘れずに生きろという思いを抱き、わたしは王都からシェレンベルクへと来た。


 そして出会った領主テオバルトは、下品で醜悪であった。

 まるで、ヒキガエル。

 貴族らしい気品も気概も全くない。


「ふむ。その気位いが高く、かつ幼げな表情が実に良い。その上に豊満な胸などたまらん。早く奴隷紋を彫り込んで、性奴隷にするのだ!」


 わたしを、じろじろと下品な眼で舐めまわすように見るテオバルト。

 わたしは、テオバルトの醜悪(しゅうあく)な表情に生きる希望を無くした。


 ……絶望しちゃったのは、この時。カイト、貴方の奥さんになれなくてゴメンねって思ったの。


 両の目から涙をこぼして、わたしはこの時カイトに謝った。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「エロオヤジにも、今なら少しは感謝かしら。カイトと再び出会えたんだもの。わたし、生きてて良かったわ。もう大丈夫。だってカイトがわたしを助けに来てくれるもん!」


 カイトに昔聞いた地球の童話、そこには姫を助けに来る白馬に乗った王子様が居た。

 わたしにとっては、カイトこそが「王子様」。

 今の「地獄」から救ってくれる救世主。


「早く助けに来てね、カイト」


「夜分遅く申し訳ありません。姫様、領主様がお呼びになられています」


 わたしがベットで悶えていた時、夜半なのにメイドがわたしを呼びに来た。


「はい、分かりましたわ」


 ……一体何かしら? 婚約の儀は明後日以降ですし?


 わたしは、身支度をメイドに整えてもらい、領主の私室へと向かった。


「よくぞ、来てくれた、フローレンティナ。少々早いとは思ったが、お前の魅力的な身体が俺は欲しい。もう辛抱ならぬ。それに婚約の儀で変な事を言われても困る。今夜、お前に奴隷紋を彫り込む。そして俺の愛玩人形にするのだ!」


 暗い部屋の中、二名の騎士と魔術師を背後に従えるテオバルト。

 イヤらしい笑みを浮かべて、わたしを舐めるように見てきた。


 ……カイト! カイト! 助けてぇ!!


  ◆ ◇ ◆ ◇


 わたしは騎士二人に抑え込まれ、ソバカス顔のメイドにより衣服を剥がれてしまった。

 下着姿にされたわたしは、騎士たちによって強引に作業台の上に押さえつけられる。

 そして口には自害防止にだろう口枷もされてしまった。


「ほう、脇や手足だけでなく、下腹部も綺麗にしておるな。流石は元公爵令嬢だな」


 ……令嬢の嗜みで綺麗にしていたのを、変態伯爵に見られるなんてぇ。ホントならわたしの裸は一番に見るのはカイトのはずだったのに。一体何をわたしにするの!?


 わたしは、辱めを受ける恥ずかしさとカイトに対する申し訳なさで涙をこぼしてしまう。


 ショーツも引き下ろされ、鼠径部までめくりあげられたわたしのお腹に、魔術師らしい人が何かをしている。

 冷たい感触が肌の上を走り、わたしから見えた範囲では不思議な色、虹色のインクを付けた筆でわたしのお腹に何かを書いているみたいだ。


「ぐ、ぐぅぅ」


 わたしは、突然お腹の下の方にとても熱いモノを感じて、恐怖から叫ぼうとしてしまう。

 しかし涎を口の端から仕方なく垂れ流しても、口枷の為にくぐもった声しか出せなくて、更に泣いてしまった。


「ははは、誰も助けには来ぬぞ。何やら神殿の小僧と仲良くしていたらしいが、あんな子供が好みか? まあ、紋章が掘りこまれた後に俺と『事』を成せば、お前は俺の傀儡となる。反発する気も起きなくなり、いつでも従順に股を開くようになるのだ!」


「テオバルト様。紋章が彫り込めました。後はテオバルト様の精を授ければ、術は完成です」


 メイドの持つ蠟燭だけの明かりの中、わたしのお腹から虹色の光が浮かぶ。

 そして何か書かれたらしいお腹から熱いモノが、どんどん体中に広がっていくのを感じ、わたしは怯える。


 ……カイト! カイト! わたし、とても怖いの! わたし、どうなっちゃうのぉ! 神様、お母様、お父様、カイト、助けてぇ!


 わたしは、テオバルトのイヤらしい視線を感じながら恐怖で叫ぶも、口枷で声にもならない。


「さて、姫をベットに運ぶのだ。そして縛り付けたのちに抵抗できぬように足を抑え込め。姫よ、なに最初は少々痛むが次第に良くなる。最後は天に昇る快楽の中で何もかも忘れ、俺のモノとなるのだ!」


 わたしは下着すらも全てはぎ取られ、全裸にされてしまう。

 そしてベットに運ばれ、騎士たちによって両腕と足首をベットに縛りつけられた。


 わたしは舌を噛んで自害することも出来ず、お腹から広がるイヤな熱で自分が作り替えられていくような感覚に恐怖を感じながら、カイトの事を思った。


 ……カイト! 貴方のお嫁さんになれなくて、ごめんなさい。最後に貴方に逢えて良かった!


「肌も綺麗で、幼げな顔に似合わぬ見事な乳房。これは良い拾い物だったな」


 わたしは、もう何も見たくないと思い目を閉じる。


 ……わたしをイヤらしい目で見て喜ぶガマガエルの顔なんて見たくないの! もう何もかもイヤなのぉ。わたしを助けてくれる神様なんて何処にもいないのね……。お父様、お母さま、エルマも助けてくれなかったんだもの。


 テオバルトは、わたしの胸を強く揉むが、もう何も感じないし見たくもない。

 身体を負いつくす熱は頭にも広がり、ボォっとしてきた。

 恐怖も感じなくなった代わりに、何もかもがどうでもよくなった。


 そして股の間に何か硬いものが迫ってくるのを感じるけれど、もうどうでもいい。

 身体を覆いつくす熱に身体だけでなく心も侵され、わたしはすべてを諦めた。


「ん? ごほ、ごほ。一体何が起こった? 火事か」


 そんな時、急にテオバルトが咳込み大声をだした。

 わたしは匂いが気になって目を開けると、部屋の中は先が見通せないくらい濃い白い煙で充満していた。


 ……火事? でも急にこんなに濃い煙は起きないわ。もしかして?


 わたしの心は「何か」を感じた。

 そう、何故か希望を感じたのだ。

 それはなぜだか分からない、でもぼやけていた頭は急にはっきりとなり、わたしは「灯」を予感した。


「ティナに、何やってるんだぁ! このエロジジイめぇ!」


 わたしの予感、それは早速的中した。

 わたしが一番聞きたかった声と共に何か、いや誰かが天上から落ちてきてテオバルトを蹴り倒した。

 そして彼、今度はわたしの足を抑え込んで広げていた騎士を蹴り転がして、手に持った棒を押し付けていた。


 ……まさか! カイト、カイトなの!?


「ティナ! 約束通り、助けに来たよ!」


 わたしは信じられない思いで、煙でいっぱいの部屋の中に助けに来た男の子の背中を見た。


 ……やっぱりカイトは、わたしの王子様なのね! ああ、神様。ありがとう……。


 昔、カイトに教えてもらった地球の童話、そこに描かれていた女の子を助けに来る白馬の王子様。

 わたしにとって、白馬の王子様はカイトだった。

 わたしを蝕んでいた奇妙な熱は、カイトと出会えたことで別の熱、カイトを愛する思いによってすっかり拭われていった。

<カイト様、カッコいいです! お姫様の危機に颯爽と登場するヒーローですものね>


 ルークス君、君までここに来ちゃダメだって。


「そうじゃな、ここはワシの指定席じゃからのぉ」


 チエちゃんも勘弁してよぉ。


<と、言う事で初日公開は、ここまでとします。明日は二話公開。それ以降は毎日一話、正午過ぎに公開と致しますので、宜しくお願い致します>


 ルークス君に台詞を取られてしまいましたが、そういう事ですので、明日以降も宜しくお願い致しますね。

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