第6話 僕、ティナにもう一度惚れる!
「そうなのですか、グローア様。鍛冶神様は、鍛冶だけでなく若者の育成、幸せを願っていらっしゃるのですね?」
「ええ、フローレンティナ様。ですので、わたくし直接姫様に今回の婚約についてのお話をお聞きしたいと思っておりました」
応接室にて、グローア姉さんとにこやかに話すティナ。
その姿は、幼少期のまま、イヤ、更に美しく可憐だ。
大きくて宝石のような翡翠色の瞳、その輝きはやや憂いを帯びているものの、幼い時のまま。
幼い頃よりも、やや釣り目にはなっているが、それでもまだ子供っぽく愛らしい目元。
桜色のしっとりした唇、まるで白桃のように白い頬にも薄い桜色が艶やか。
白磁、アラバスタの肌に右目元の泣き黒子。
窓から入る日の光に照らされた絹糸のような栗色髪は、腰下まで伸びて輝くようで、緩やかにうねる。
ころころと鈴の音のような、可愛らしく幼げで少々舌足らずな声も、昔のままだ。
……公爵夫人様って、記憶では胸大きく無かったよね?
<成長シミュレートでは、かのような水蜜桃は想定外でした!>
そして豪華な淡いピンクなドレスが、はち切れそうな胸元。
ルークスも驚愕しているが、コルセットで締めていると思われる細い腰との落差が凄い。
<ロリ巨乳とは、このルークス想像もできませぬでした!! おそらくですが、身長150代前半、バストGからF65、ウエスト50代前半、ヒップ80半ば。体重は……言わない方が宜しいですよね>
先程から、ルークスがぶつぶつと驚きの声をイヤホン越しに話しているが、ティナの姿はそれだけ美しく可憐。
デコルテは日の光を弾いて眩しく輝き、ほんのすこし見せる谷間。
あまり高くない身長・童顔を合わせて、実に麗しく、触るのが怖い。
簡単に手折れてしまいそうなつぼみ、触れれば壊れそうな砂糖菓子な美少女。
<完成直前、咲き誇る前のつぼみ、未完成なる少女の美ですね、カイト様。なお、胸の谷間は解剖学では、乳房間溝というのだそうです>
ルークスが、何かウンチクしているが、僕はそれどころではない。
姉さんとにこやかに話しているティナから、僕は一切目が離せないのだ。
「…さん。カイトさん。何ボケていますか? 早く、姫様にお渡しする書類を出して下さい」
「は、はい!」
ソファーに座る姉さんの背後に立ち、ぼーっとティナを眺めていた僕は、姉さんに怒られて急いでカバンから植物紙を取り出す。
「どうぞ、姫様」
「……あ。はい!」
僕が紙を差し出すと、ティナは大きな瞳を更に大きく見開き、僕の顔を見上げた。
そして一瞬躊躇してから、紙を受け取った。
……あ! もしかしてティナ、僕の事を覚えてくれてたの!?
「姫様、如何なされましたか?」
「い、いえ。何でもありませんですの……」
一瞬、視線を僕に向けてから、明らかに動揺を見せるティナ。
しかし、背後に立つメイドを警戒してか、それ以上の隙を見せない。
……間違いなく、このメイドは領主のしもべ。巨乳でソバカスがチャーミングな美人さんだから、性奴隷化して従わせているのかもね。うかつな発言や行動は領主に筒抜けだろう。でも、流石にこれは想定外でしょ?
「そうですか? では、追加の資料をカイトさん、姫様にお渡しください」
「はい!」
僕は、あらかじめ用意していた紙をティナに渡した。
そこには、日本語で一言書いてある。
「ティナ、たすけにきたよ!」と。
「あ! ……、ありがとう存じます、カイト様」
渡した紙を一瞥し、今まで以上、本当に心からの笑みを浮かべてくれたティナ。
その笑みは、僕にとって最上級、これからの一生を掛けても後悔しない笑みだった。
「では、こちらからの質問にいくつかお答え願いますか、姫様?」
「はい、グローア様」
ウインクを軽くして、ティナに合図してくれる姉さん。
それを察し、ティナは更に微笑んでくれた。
◆ ◇ ◆ ◇
「ほんとうにカイトなの?」
「うん、ぼく、カイトだよ!」
「いきててくれたのね、よかった」
「それは、ぼくもおなじだよ」
僕とティナは、メイドに読まれないように日本語「ひらがな・カタカナ」で文通をしている。
グローア姉さんが、婚約式の決め事について質問・回答をするように植物紙を渡し、書き込んでもらっている。
解答用紙の端っこに、僕とティナはイタズラ書きっぽく文通をしているのだ。
……ティナに、ひらがなとカタカナだけとはいえ、日本語の読み書きを教えていて良かったよ。
僕は幼少期、出会ったティナに一目惚れし、彼女と仲良くなりたいと異世界語を必死に勉強した。
それを見たティナ、今度は僕と仲良くなりたいと対抗して日本語を学んだ。
お互いに言葉を教え合い、僕たちは更に仲良くなり、そしてお互いに恋心を覚えた。
「カイト。あたち、貴方のお嫁さんになるの!」
「うん、ティナ!」
あの幼い誓いから八年程。
今こそ僕はティナを救って、彼女を幸せにするのだ。
「りょうしゅと、けっこんしたいの?」
「ぜったいにいや! でも、にげるほうほうもないの」
やはりティナは、領主との婚約を望んではいない。
しかし、もはや逃げる家も無いティナには、今まで絶望の底に居たのだろう。
「カイト、わたしをたすけて!」
「うん、ぜったいにたすけるよ! まってて」
「ありがとぉ。まってるわ」
だが今、ティナは絶望を捨てた。
どこか憂いの有った瞳は、今や希望に満ち溢れている。
「そうですか、分かりましたわ。では、神殿に一旦持ち帰り『対応』致したいと思います。姫様、しばし『お待ち』くださいませ」
「はい! この度は、誠にありがとう存じます」
ティナは一旦立ち上がり、カテーシで僕と姉さんに礼を示した。
その様子に背後のメイドは一瞬怪訝な顔をしたが、直ぐに仮面のような無表情に戻った。
◆ ◇ ◆ ◇
「坊や、良かったな。姫様は坊やの事も覚えていてくれたし、坊やと一緒に逃げたいって言ってくれたしね」
「若者がお互いの思いあうのは素晴らしい事です。さあ、これから忙しくなりますね」
「姉さん、神殿長様。きょうは、ありがとうございました。おかげでティナにもう一度会えたし、あの子を救いたいと更に思いました」
神殿に帰って、僕は姉さんや神殿長様に頭を下げた。
僕だけではティナに逢うどころか、彼女の無事さえも確認できなかったから。
そして直接話が出来、ティナ自身が僕と逃げる事を求めてくれた。
だったら、後は領主からティナを救うだけだ。
今日最後の更新、続きは20分後。
カイト君、ここからが正念場だぞ!