第11話(累計 第56話) 僕、真の敵に出会う。
「ティナ、足元大丈夫?」
「うん、カイトこそ気を付けて」
暗い城内の廊下。
夜遅くまで皇帝陛下と話し込んでいた僕達。
陛下専属側仕えのコレットさんの先導で歩く。
コレットさんは蝋燭を灯した燭台を手に持ち、僕達を仲間たちがいる控え室まで案内してくれている。
……遅くなった事情は、ルークス経由で皆には既に知らせてあるんだけどね。
「コレットさん、今日は陛下のお時間を費やしてしまい申し訳ありません。貴方様も夜遅くまで引っ張ってしまい、ごめんなさい」
「コレットお姉さま、本当にごめんなさい」
僕とティナ、共にコレットさんに謝るが、彼女は僕達の方を振り返り笑みで返すだけ。
いくら話せないとしても、その表情からは何か嬉しそうな感じがした。
無言のコレットさんに案内してもらい城内を歩く僕達。
まるで迷宮の様、更に夜となり暗い城内を歩いた。
いつ何時、襲われても対応できる様、拳銃の安全装置は解除済み。
初弾もチャンバーに給弾しているので、後はホルスターから抜いて引き金を引けば撃てる。
一切の油断なく、僕はティナの手を握って歩いた。
「ほう。これは珍しいところ珍しい時間にで、姫男爵様にお会いしましたね」
前方から若い男性の声が聞こえた。
「あ、名乗らずに先にお話ししてしまいました。私は大公様付の事務官をしております、イーチェンと申します。パンフィリア女男爵様に置かれましては、ご機嫌如何でしょうか? 夜分遅い中、何をなさられていましたか?」
蝋燭灯りの中、黒髪・黒い眼の男性がティナに話しかける。
コレットさんも顔色を変えないので、見知った顔なのだろう。
異世界ではあまり見ない風貌。
僕の感覚が間違いなければ、彼は地球東洋系の人だ。
「イーチェン様。ご丁寧に、ご挨拶をありがとう存じます。わたくしの事はご存じの様子。では、夜分ゆえ自己紹介は省略させて頂きますの。わたくし、婚約者のカイトと共に陛下と会談を致しておりましたわ」
「そうでしたか。陛下もまだまだ幼い御子。貴方様のような可憐で若き女性とのお話を、さぞ喜ばれる事でしょうな」
イーチェン、どこか嫌味な感じでティナを見る。
また、陛下すら下に見ているのではないかという言葉すら放つ。
「あら、イーチェン様ったら。陛下はお賢い方でしたの。今日は実に興味深いお話を出来ましたのよ、おほほ。あ、申し訳ありません。帰りの馬車を待たせておりますので、失礼いたしますわ」
「そうですか。少しお話したいと思っていましたが残念。では、またの機会に」
ティナも悪意に気が付いたのか、イーチェンとの話を早々に引き上げる。
僕は彼に頭を下げつつ、ティナの背後に付き彼の横を通った。
「坊や。先だっては上手く行ったかもしれないが、次はこうもいかないよ。姫様共々楽しみにしていてね」
すれ違いざまに、ぼそりとイーチェンは呟く。
『日本語』ではっきりと。
「え?」
「カイト、今の言葉は?」
僕とティナが慌てて振りかえるが、真っ暗な廊下には誰も居ない。
闇がまるで僕達を襲う様に佇んでいた。
◆ ◇ ◆ ◇
「カイト、イーチェンさんが話していた言葉って日本語だったよね」
「うん、間違いないよ。それに彼はどう見ても地球人の東洋系に見えたし」
<ワタクシも日本語と確認しています。また、お名前からして中国系に思えます。奕辰と漢字でなら書きますし>
僕とティナは、側仕え室に待機していたレオン、マルテ、ヴィリバルト、グローア姉さん、そしてネリーと共に夜の街道を走っている。
今回の用事は終わったので、安全を期し領地に帰るのだ。
……まあ、二時間くらい走ったら、完全防備の屋敷に帰れるからね
「カイト、詳しい事は移動中に話すって言ってたけど、どういう事だ? 随分と長く城内に居たんだが……」
「そうよ。マルテお姉ちゃんにも、ちゃんと話してね」
「ルークスに聞いた限りでは、陛下とお話ししていた様だね。アタシも詳しい事聞きたい」
「皇帝陛下と直接お話しなさったの!? あたし、また『不幸』になりそう……」
仲間たちは僕らに事情を聞く。
長時間待っていたのもあって、心配してくれていた事だろう。
「カイトは運転が大変だから、わたしが話すわ」
<足りない部分はワタクシが補足説明しますね。では、ティナ様宜しくです>
ティナは、陛下の様子を事細かに仲間たちに話した。
「そうか。陛下自身は今の状況を嫌がっているんだな」
「可哀そう、陛下」
「そうかい。陛下は気をつけておかないと危ないねぇ」
「陛下、『不幸』なのね」
「そうなの。わたし、だから陛下も救ってあげたいの。この嫌な階級社会から」
「僕も同意見です。今回、会ったイーチェンという大公付の事務官。コイツが実に怪しいです。魔神とは思いませんでしたが、何か裏にある様に思いました。おそらくですが地球、日本に住んでいた華僑の方の様です」
僕達は、高機動車の中で話し合う。
陛下が敵では無い、逆に救うべき対象であるのは分かった。
しかし大公をどうやって倒すのかが、まだ見えない。
彼を暗殺しても、別の混乱と戦乱を招くだけだろうから。
……アイツ、怪し過ぎるな。何考えて僕らに接触してきたんだろうか?
どうも今回出会ったイーチェンが、大公に情報を流して方向性をコントロールしている気がする。
しかし、たかが事務官がどこまで影響を与えているのか。
更に魔神共の動きも全く見えない。
エドモンの言動を見るに、明らかに大公の近くに魔神は居る。
「カイト、どうしたら良いと思う?」
「うーん。とりあえず、しばらくはティナは社交界、何処かの晩さん会なりサロンに参加してもらい、貴族界隈の情報を集めてもらおうかな。後は、定期的に陛下に会うくらい。でも、大公派の動きは要注意」
<その線で行くのが無難でしょう。向こうがどう動いてくるのか、そこを見て判断しましょう。幸い、イーチェンという敵が姿を見せてきましたし>
僕は、思い付きをティナに話す。
「俺もそれで良いと思うぞ。ティナちゃんとカイトの警護は俺頑張るからな」
「もー、レオン。ティナちゃんは領主様なんだから、ちゃんとしてあげてね。あ、あたしもティナちゃんって言っちゃった」
「ん……」
「坊や、しっかりとティナちゃんを守るんだよ。晩さん会場には、あたしらは入れないんだからね」
「アタシ、『不幸』ねぇ。ティナちゃんの着替え一人でするの大変なのよ? 坊や、ティナちゃんにあまり無理させないでよ」
「はい。皆さん、ご心配ありがとうございます。絶対にティナを守って見せます」
「あーん、カイトぉ。わたし、だーいすき」
<ティナ様。運転中なので、カイト様に抱きつきませぬ様に>
僕達は、車内でわいわい言いながら帰路についた。
<妙な敵が出てきましたね。あ! 前の章の最後の……>
ルークスさん、第四の壁超えのネタバレはダメですよ?
では、明日の更新をお楽しみにです。




