第7話(累計 第52話) 僕、ティナの社交界デビューを祝福する。
「父上、カールの件。あれで本当に宜しかったのですか? あまりにカールが哀れです。どうして伯爵家が男爵なんぞに踏みにじられねばならんのですか? 当家としてあの小娘に何か報復、仕返しを出来ないのですか?」
「しょうがあるまい。カールは自分から小娘に決闘を申し出て負けて帰ってきた。それも、当家秘術スキル『ドッペルゲンガー』を使ってだぞ? その上、他領での横暴な行動。あそこまで証拠付きで提示されればな。生かして返してもらえた分、まだマシだよ。まあ、カールが戦死してくれていれば、それを口実に女男爵様を公的に批判も出来たのだがな」
カールの実家、フィエル伯爵家。
そこでは、次期当主、カールの兄【エッカルト】が父親の伯爵、【ミヒェル】に直談判をしている。
弟が酷い目にあったので憤慨しているエッカルトであるが、父ミヒェルは冷たい表情のままだ。
乱暴であるが可愛い弟がティナに負け、すっかり傷心して帰宅。
カールは自室に閉じこもり、時折奇声をあげるのを見ていれば、兄としてエッカルトは怒りを隠せない。
「くそぉ。あんな平民人気で貴族に返り咲いた小娘が偉そうにしているのは気に食いません。父上、何か出来ないのですか? 大公様派閥の当家としても、前皇帝派の小娘が成り上がるのは黙っていられません」
「そうだな……。近日中に今年の社交界が開かれる。小娘は皇帝陛下への謁見もまだだから、地球人の婚約者共々に確実に顔を出すであろう。そこを狙って恥をかかせばよいのではないか? ただ、当家が動いたという証拠は残すなよ? ワシは何も見なかったし、聞かなかった事とする」
「はい、父上。伯爵家を舐めるなよ、小娘め。いずれは追い落として両親の跡を追わせてやる!」
エッカルトは暗い笑みを浮かべて、ティナに復讐する事を誓った。
◆ ◇ ◆ ◇
今日は僕とティナ、二人だけの執務室。
他の人達は別の仕事中だ。
「ティナ。本当に帝都に行くの? ティナの社交界デビューは喜ばしい事なんだけど」
「決まっているわ、カイト。だって、皇帝陛下に堂々と謁見出来るのよ? わたしには結婚相手を探す必要は無いけど、幼い頃から社交界に参加するのは夢だったわ」
<カイト様。貴族令嬢として社交界デビューは大事ですよ? 女の子の気持ちくらいは学習なさってくださいませ>
キラキラとした笑顔で社交界への夢を語るティナ。
貴族社会において成人した女の子は、社交界デビューをする。
貴族たちに自分を売り込み、将来の結婚相手を決める。
また、舞踏会やお茶会に参加することで、知人友人を作り関係を深める。
更に情報収集もするのが社交界へ参加する意味と、僕はティナに教えてもらった。
……きらびやかな女の子達の集まる社交界。ルークスに言われるまでも無く、確かに少女達の夢の場所だよね。
「確かに大公様は、ティナをある程度認めてもらっているけど、貴族内には敵は多いと思うよ。この間のバカの実家、フィエル伯爵家。後、代替わりで生き延びたシェレンベルク伯爵家。味方なんていないと思っていた方が間違いないよね」
……ティナ、事前調査で馬鹿カールのスキルまで調べていたんだって。
フィエル伯爵家は独自スキル『ドッペルゲンガー』を代々遺伝所有していて、僕は知らなかったけれど、貴族界隈ではそこそこは有名だったらしい。
なので、事前に知っていたティナはカールの分身攻撃も避けられたそうだ。
「だからこそ、わたしは堂々とお城に乗り込んでやるの! 大公様にケンカを売るわ。お父様達、カイトのお父様の仇、そして帝国を乗っ取って自分の思い通りにしている奴らに、正々堂々と宣戦布告するの! わたしがカイトと一緒に、いつかアンタ達を倒すってね。今回はその前準備なの」
……ティナ、僕の父さんの事まで敵討ちしてくれるつもりは嬉しいけど、危ないよぉ。
僕達が魔神を倒したことで、自らの罪を公衆の面前で自白したテオバルト。
彼は伯爵位を息子に譲る事、そして蟄居することで罪を許され、家名も残った。
なので、新しくシェレンベルク伯爵となった者から恨まれていても不思議ではない。
「もう危なすぎるって。ティナを守る僕らの事も考えてね。まあ、でもいつかは皇帝陛下や大公様と対峙する事もあるんだし、今回は良い機会かな。まさか陛下のいらっしゃる社交界会場で女の子を襲ったり毒を盛る馬鹿も居ないだろうし?」
「そう願いたいですわね。さあ、今から着ていくドレスを考えなきゃ。カイトもエスコートとして行くんだから衣装もきちんとね」
「もちろんだよ。可愛いティナの姿が見られるのは僕も嬉しいよ。そんなティナのエスコートだもん。僕も気合入れるよ。となると結局、グローア姉さん以外の『紅蓮』全員で帝都行きだね。衣装はネリー、警備はレオン、マルテ、ヴィリバルトになるかな」
<先程、グローア様に一報を入れましたら、同行したいとの事。グローア様も過保護ですね>
どうやら、今度も僕達はフルメンバーでケンカを売りに行くことになる。
社交界に潜む貴族社会の闇、それとティナは戦う事になる。
僕は、今まで以上に気を引き締めて戦わなければいけない。
ティナと添い遂げる為に。
……大公様周辺に魔神とか、黒幕が別に存在しそうなんだよね。
「ねえ、カイト。今晩はいつも以上に抱っこさせてね」
「しょうがないなぁ。じゃあ、僕もぎゅーってするね。もちろん変な事は無しだよ? 僕の可愛いお嫁さん、ティナ。ちゅ!」
<ティナ様、カイト様。くれぐれも節度をお守りくださいね。今作はR15ですし、ティナ様の呪詛はまだ解呪出来ておりませんので>
今日も僕の受難は続く。
ル―クスの意味不明な戯言を無視して、僕達はキスをした。
<心配ですが、ティナ様とカイト様なら大丈夫……ですよね、作者様?>
ルークス君、作者に聞いてきても困りますよ。
では、明日正午の更新をお楽しみに!




