第6話(累計 第51話) 僕、その気は無いけど弱いもの虐めしてしまう。
「おいおい。俺の相手は坊やか?」
「貴方様、本気ですか? 私が女男爵様の婚約者だと、もちろん知っているのですよね?」
僕の前には馬鹿男、カールのお供、馬鹿その2がいる。
見た感じ軽薄そう、一応そこそこの装備をした魔法戦士という感じではある。
しかしながら僕も決闘対象になってしまったのは、理解不能ではある。
おそらく向こうとしては邪魔者の口封じなつもりでは無いか?
ただ、ティナを悩ます馬鹿を直接潰せるのなら、僕は構わない。
……問題は殺さないで、どうやって無力化させるかだよね。
「ふん。聞けばオマエはチキュー人、スキルも持っていないそうじゃないか。俺は運が良いな。いや、あっちの女魔術師相手の方が良いか。結構可愛い感じだから、後で味見させてもらおうかねぇ」
「舐めていたら困るのはアンタだよ。あれ? 向こうでは全員勝負が終わったみたいだね」
僕とティナの戦いだけが始まっていないようで、他は既に終わっている。
もちろん僕等の完全勝利。
今、他の馬鹿仲間達は捕縛された上で姉さんから死なない程度の治癒魔法を受けている。
「え?? 目を離した隙に何が!? カール様、これは?」
「あ、ああ。一体どうして……?」
「君たち、敵の戦力把握・情報収集もしないでケンカ売ったらダメだよ。特にグローア姉さんは辺境最強の異名持ちだからね」
捕縛されたヤツラ、四人全員手足が曲がってはならない方向に曲がっている。
また、マルテの相手は髪の毛がチリチリになっている。
更に全員ズボンが「何か」で濡れている様で、僕が目を離していた隙に「虐殺」ゲームが行われたらしい。
「カイト、ティナちゃん! マルテお姉ちゃんやったよー!」
「フローレンティナ様。筆頭騎士、任務完了です」
「ん!」
「坊や、負けるんじゃないよ」
既に戦勝雰囲気の皆。
僕とティナの戦いを観戦モードだ。
「さあ、戦おうか。僕も婚約者様に良いところ見せたいしね」
「ち、ちきしょぉ。お、お前なんて切り刻んで殺してやる!」
僕は、馬鹿冒険者その2を睨む。
そして二本の剣を抜いた。
……早く勝負を終わらせて、ティナの戦いを見なきゃね。
「さあ、いくよ!」
僕は、身体強化魔法を起動。
馬鹿その2に向かって一気に踏み込んだ。
「この死にやがれ!」
馬鹿その2、馬鹿正直(?)に片手直剣を大上段から振り下ろしてくる。
スキルオーラも見えるし、パンプアップしているので身体強化もしているのだろうが。
僕は二本の剣、左手の高周波ナイフ、右手の単分子小太刀を交差させ、こちらから馬鹿その2の剣を受け止めに行った。
「え?」
パキンと簡単に折れる馬鹿その2の剣。
僕は両手の剣を手放し、そのまま馬鹿その2に体当たりする勢いで密着。
馬鹿の右手を、僕は両手で掴む。
そして馬鹿の足を勢いよく足で刈った。
後は宙に浮かんだ馬鹿を背負い、僕は変形背負い投げで馬鹿を地面に叩きつけた。
「ぐはぁ!」
頭を打たないように引き手を話さなかったけれども、地面に叩きつけるのは手加減無し。
馬鹿その2は完全にダウンした。
「ふぅ。これで完全勝利。スキルの性能を生かせぬまま倒せてよかったよ」
……変に強いスキル持ち出されちゃうと困るからね。相手が舐めているうちに完全勝利。獲物前に舌なめずりなんて、もうしないよ!
いくら身体強化しようともヒトで有れば二足歩行からは逃れられない。
バランス崩させて地面に叩きつければ、確実に倒せる。
手加減無しに頭から落とせば、殺す事も容易。
「カイト、カッコいいよぉ。お姉ちゃんは、ちゃんと見てたよぉ」
「うん、カイト。腕を上げたな」
「ん!」
「お見事、坊や。さあ、後はティナちゃんだけだね」
僕は、馬鹿その2の呼吸が問題無いのを確認し、仲間達の声援を受けながら馬鹿を引きずって姉さんのところへ向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ど、どうして……」
「あら、勝負前に怖気付いたのかしら? 貴方達からの提案でしたよね、決闘は。さあ、わたくし達も始めませんか?」
どうやら僕等が全滅した後にティナをイジメるつもりだったカール。
その思惑が完全に壊れてうろたえている様だが、もう遅い。
「そちら様から始めないのなら、わたくしの不戦勝で宜しいですか? 情けない伯爵ご子息様は、女の子相手に勝負をして戦う前から負けちゃうのね」
ティナは純白の騎士服、上下とも丈夫な布で作られている豪華な服を見事に纏い、カールを挑発する。
……ティナ、パンツスタイルもカッコいいね。腰のラインがとっても綺麗!
<あの騎士服、地球科学をも随所に取り込んだ高性能服。拳銃弾や普通の斬撃程度ではびくともしません。弓矢すらも背後のマントで弾けるでしょう>
……ティナの為なら、僕も一切手加減しないからね。新調したティアラ風サークレットも可愛いよぉ。
「ち、ちきしょぉ!? このメスガキがぁ。命乞いさせてから、犯して泣かしてやる!」
カール、スキルを使ったのか分身体を生み出して、本体と一緒にティナに切りつけた。
「ティナ、危ない!」
僕は、分身体がティナの背後から襲うのを見て思わず悲鳴を上げてしまったが、分身攻撃を完全に見切っていたティナ。
高速歩法で残像のみ残し、カールの攻撃範囲外へ逃げる。
「ナニぃ?」
「いくら分身攻撃でも単調じゃあ簡単に避けられますわよ、おほほ!」
「凄い! ティナ、あれを見切ってる!?」
「坊や、今のティナちゃんなら、アタシも苦戦するくらい強くなってるよ」
姉さんの言うように、ティナの動きは見事。
吠えるカールであったが、元気だったのはここまで。
そこから先は、はっきり言って虐殺ゲーだった。
残像を利用しての分身攻撃を逆にカールへ仕掛け、後は語るべくもなく快勝。
ズタボロになったカール、最後はこめかみへの剣柄による一撃で昏倒した。
「カイトぉ! わたし、勝ったよぉ!」
「うん、ティナ。凄いよぉ」
汗で顔を濡らすティナのキラキラとした笑顔に、僕も精一杯の笑顔で微笑み返した。
<さて、これで大人しくなってくれればいいのですが>
では、明日の更新をお楽しみにです。




