第4話(累計 第49話) 僕、ティナに言い負ける。
「あ! レオン、女男爵として聞きますの。冒険者パーティに仕事を頼むのは、必ず冒険者ギルドを通す必要があるのかしら?」
僕達がティナの出陣をやめさせようとするが、ティナは突然変わった事を言い出した。
「いいえ。臨時や現地での依頼を受ける場合がありますので、問題はございません。ただ、どの様な依頼だったのかは、事後報告をする必要は有りますね。依頼内容と金額金次第では上納金も発生しますし」
レオンが言うには、冒険者に仕事を依頼するのは全部冒険者ギルドを通す必要は無いとの事。
小さい頼み事くらいなら、いつ誰から受けても問題はないらしい。
ただ大きな案件、ギルドにも政治的な問題が派生しそうな場合は事後で構わないから話を通した方が良いとの事。
上納金が発生するが、冒険者の立場をギルドが守ってくれるらしい。
……普通はギルドに支払われた依頼金の一部がギルド上納金になっているんだそうな。冒険者ギルドも無給じゃ職員を養えないしね。あれ? この聞き方だとティナ、何か思いついたな……。嫌な予感しかしないけれど?
「わかりましたわ、レオン。では、筆頭騎士では無くA級冒険者パーティ『紅蓮』リーダー、レオン様にパンフィリア女男爵フローレンティナ・デル・アイレンベルクが依頼をします! パンフィリア領内を荒らす冒険者の討伐をしてください。なお、冒険者は殺さない事、更にパーティ全員で当たってくださいませ。さあ、レオンお兄様、初心者魔法戦士の女の子も一緒にお願いしますね」
依頼時には貴族らしい笑みを浮かべて宣言するティナ。
その後は年相応の可愛い笑顔に変わって、レオンに自分も連れてけと頼み込んだ。
「はぁぁ。レオン、どうしますか? こう言われたら拒否権は無いですよね。お貴族様からの依頼ですもの」
「だな、カイト。しょうがないか。はい、女男爵様。その依頼をお受けいたします。ティナちゃん、絶対に無茶はするなよ?」
「もー。皆ティナちゃんに甘いんだからぁ。マルテお姉ちゃんは、絶対にティナちゃんを危ない目になんて合わせないからね」
「ん」
僕もレオンもしょうがないとティナの依頼を受けた。
マルテは妹の様にティナを抱っこして、頭を撫でている。
「はぁ。あたし、『不幸』ねぇ。あたしは留守番してるわ。貴方達のご飯にベットメイクもあるし」
「ネリーお姉さま、今日中に片づけて帰ってきますので、美味しい晩御飯をお願いしますわ。ルークス、お姉さまを守ってあげてね」
<了解しました。防御システムにワタクシの端末は接続済み。どんな族が来ても一撃必殺でございます。皆様の御武運をお祈りいたします>
そんなこんなで僕達は出陣の準備を始めた。
「あ、ネリーお姉さま、マルテお姉さま。わたしの着替えお手伝い願えますか? 簡単な執務服とはいえドレスを脱ぐのは一人では無理なのぉ!」
「はいはい」
「うん、任せてね」
……ティナの戦衣装、久しぶりだね。
僕は、どこかワクワクしながら武器を準備した。
◆ ◇ ◆ ◇
「姫男爵様ぁ!」
「姫おねえちゃーん!」
「はーい」
僕達は、途中でグローア姉さんを回収して冒険者が暴れている村に向かっている。
街道を高機動車で走るのだが、歩行者や馬車がいるので自動車の天井に付けたパトライトを回しサイレンを流しながら走る。
もちろんそれだけじゃ、ただの暴走車だから「パンフィリア女男爵・公用車」と書いた看板も高機動車の横や背後に付けている。
……文字読める人は、そんなに多くは無いけどね。
「姫男爵様、お仕事お疲れ様です!」
「ありがとう!」
そういう訳で、車内にティナが乗っているのが街頭の人々には分かると、誰もが手を振ってくれる。
そうなれば、僕も急いで自動車を走らせるわけにもいかず、ティナは街頭の人々に手を振り返していた。
「ティナちゃん、大人気だねぇ。流石は姫男爵様」
「もう、恥ずかしいです、グローアお姉さま。わたし、只のティナ、カイトのお嫁さんで良いのに、世の中が許してくれないの」
ティナ自身は普通の娘、僕の婚約者で居たいのだけれども、社会がティナを有名人、貴族社会におけるアイドルとしている。
「僕としてはティナが人気者なのは嬉しいけど、自分を大事にしてほしいな。だから、今回は本当に辞めて欲しかったんだよ」
「まだわたしが出陣するのを怒ってるの、カイト?」
「ううん、怒っていないよ。心配なだけさ。大好きなティナを危険にさらしたくないだけだもの」
「嬉しい! カイトぉ、だーいすき!」
<ティナ様、カイト様。今は皆様がご一緒の公務車中。更には周囲の領民様には丸見えでございます。皆が赤面するようなラブシーンはお控えくださいませ。ああ、ワタクシのスピーカーが甘すぎてお砂糖ダバダバ漏れそうですぅ>
僕達がつい、公務中なのに甘い話をしてしまうのでルークスからツッコミが飛ぶ。
周囲の皆の顔を見ると、なんともいえない感じ。
「あ、皆。ごめんなさい」
「すいません。わたし、つい甘えちゃったのぉ」
「ま、まあ。今のは姫男爵様が私的に婚約者様に甘えたという事で、聞き流します。では、フローレンティナ様。街頭の皆がご挨拶をなさっていますよ」
「はい! レオン、警備監視宜しくですの」
これから戦いに行くはずの車中であるが、僕達は楽しく賑やかに街道を進んだ。
<ティナ様とカイト様、油断すればイチャコラしてしまうので、ワタクシも困ります>
まあ、そこは許してあげましょう、ルークス君。
一応、公私の区別はつけていますし。
では、明日の更新をお楽しみに!




