第2話(累計 第47話) 僕、姉さんに相談に行く。
「そうか。ティナちゃんは、立派に領主様をしようと思っているんだね」
「ですが、ティナはあまりに責任感が強くて、僕じゃないですけれど抱え込み過ぎにならないと良いなと心配してます。ティナ、自分よりも他人を大事にしがちなので」
僕は、グローア姉さんにティナの事を相談に来ている。
姉さん、ティナが貰った領地の村の外れに神殿を設立した。
神殿と言っても小さな家ではあるけれども。
「坊やがソレ言っちまうかねぇ。坊やも自分を大事にしなよ。まあ、ティナちゃんの事は坊やがフォローしてやんな。アタシも助けてやるさ。若者の悩みを解決するのは神官の勤めだものね。それにルークスには、いつも説法の話題で助けてもらってるしね」
<えっへん! ワタクシ、地球の古今東西の経典が全てライブラリーにありますから>
姉さんには、通信機の代わりにルークスの端末を持ってもらっている。
……ルークスのライブラリー。僕も全貌を知らないけど、どれだけ凄いのかな?
「では、またご迷惑をお掛けしますが宜しくお願いします、姉さん」
「あいよ。そういえば、カイトの『目標』の方はどうなんだい?」
「今は屋敷にした基地の倉庫漁りで忙しいですね。流石は元米軍の施設。面白いものが沢山ありましたから、ティナを助ける事も出来ると思います。大公様との対決もいずれ来るでしょうし」
<確かに倉庫の中身は、ワタクシもワクワクするものばかりですね。最新の現代兵器なぞ中々お目に掛かれないですから。リンクできる車両などたまりませんです>
ティナが貰った領地内に、放置された米軍の資材・弾薬集積場があった。
政変時に人員は撤退したものの、物資はそのまま放棄されていた。
これは偶然なのか、大公派の目論みなのか。
僕は何か裏があるとは思いつつも、ティナに頼んで街から少し離れた場所にある米軍集積場の管理棟を女男爵家の屋敷にしてもらった。
……プレハブ形式とはいえ断熱材も多く使っているし、電気さえあれば冷暖房や水にも困らないしね。窓ガラスも一部壊れていたのは交換してるし、自家発電用の燃料さえあれば後は万全さ。
小型のガスタービン機関が発電ユニットだったので、高機動車に使っているバイオディーゼル燃料を大学経由で貰っている。
因みに今回の移動も、大学から借りたままの高機動車だ。
「坊やの願いが叶い、ティナちゃんと地球へ新婚旅行に行けるのをアタシも祈ってるよ」
「はい、ありがとうございます!」
僕は姉さんに頭を下げた。
◆ ◇ ◆ ◇
僕は姉さんに挨拶をしたついでに領内最大の街パンフィリアに向かった。
パンフィリアは帝都と学都の中間付近にある宿場町。
人口千人規模の「ひなびた」街だ。
「今回は、領主様にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。ましては『あの』姫男爵様のお手を煩わせるとは……」
「いえいえ。領内の治安を守るのも領主の役目ですから。さて、例の冒険者たちは今どうしていますか?」
僕は町長さんにアポを取って面会している。
僕の立場は、ティナの婚約者兼護衛・相談役といったところ。
こういう内政・外交事案も僕の仕事だ。
……まだ貴族作法に詳しくないレオンに外交を頼むのは無理だものね。でも彼がティナを守ってくれているから、僕も安心して外で仕事出来るよ。
「最近は時折、冒険者ギルドで仕事を受けては難癖つけて大目に報酬を得ている様です。貴族子息の言う事が聞けないのかと言って……」
「そうですか。被害とかありましたら纏めておいてください。パーティリーダーの実家に請求をしますので。人的被害が出る様なら急ぎ馬で構わないのでご連絡ください。当方で対応しますから」
「あ、ありがとうございます。やはり姫男爵様を元伯爵から奪い返した方は凄いですね。カイト様のお噂、吟遊詩人たちの歌で良く聞きますよ」
……は、恥ずかしいぞぉ。僕とティナの噂は何処まで大きくなっているんだろうか?
<これはワタクシも噂を収集せねば! カイト様とティナ様の晴れ姿ですものね>
帝都にも僕達の噂が広まっているらしいのは、姉さん経由で聞いている。
先日赴いた学都では、ひっきりなしに学生たちからティナとの馴れ初めなんかを聞かれたものだ。
……ルークスまで調子に乗らないで欲しいなぁ。僕はティナと幸せになりたいだけだから。
「ぼ、僕の事はお気になさらずに。では、また来ますね」
僕は頬や耳が熱くなるのを思いながら、町長の屋敷から出た。
◆ ◇ ◆ ◇
「お前、伯爵家次男の俺の言う事が聞けないのか? この店で売っているので一番上等な酒をくれと言っているんだ!」
「申し訳ありません。これは領主様の家に卸すものでして。こちらのものならお代は要りませんから、お許しを」
街の様子を観察していると、商店が並ぶ辺りで騒ぎが聞こえる。
聞き耳を立てると、ウチへお酒や食品を卸してくれているお店の前で、問題の冒険者パーティリーダーが無理難題を言っている。
……お店の店長さんも律儀だよねぇ。僕等はそんなに高級なお酒飲まないから、こいつに渡して一般品を僕らに卸しても良いのに。
僕は聞き捨てならないので、足を前に進めた。
「すいません。パンフィリア女男爵家の者です。何かありましたか?」
「あ、カイト様!」
僕が声を掛けると、店長さんは助かったという風な顔をした。
「ん? ガキが何言っている? そうか、お前が噂のボウズか」
そして僕よりも幾分年上に見える身長の高い男が、上から僕を蔑むように見てきた。
「どうやら当家の領民に御無体をなさっていらっしゃるご様子。出来れば穏便に済ませたいので、今回はそこのお酒をお譲ります。それで退散願えますか?」
「カイト様、それでは姫男爵様に悪いです」
「大丈夫、フローレンティナ様は寛大ですよ?」
僕は恐縮する店長さんをなだめつつ、問題のパーティリーダーの機嫌を取る。
「ふん、意気地なしだな。聞いていた噂とは大きく違うぞ。伯爵にケンカを売って勝った男とは思えぬ」
「なんとでもお言い下さいませ。今の私はフローレンティナ様の名代。不要な争いは望んでおりませんので」
<この程度の挑発、カイト様に効く筈もないでしょう。殺気も薄いですしね>
挑発してくるリーダーに対し、僕は軽く受け流す。
この程度の嫌味など僕には効かない。
それに殺気や身体の捌き方を見るに、戦士としてのレベルも最大で見積もっても僕と同程度までだろう。
「……まあ、今日のところはこれで許してやる。カイトとやら。次はこれで済むと思うなよ!」
リーダーは店長さんから奪い取る様に酒瓶を取り、僕に向かって捨て台詞を吐いて去っていった。
……はぁ。これ、後からティナに謝らないとだね。絶対に大変な事になっちゃうよ。
僕は、平謝りな店長さんの相手をしながら何か起こるのを予感した。
さて、この放蕩な貴族子息が何を仕出かすのか?
明日以降のお話をお楽しみに!




