第44話 僕、完全勝利する。
「ど、どうしてぇ。どうしてワレは負けたのだぁ……?」
「そりゃ、アンタが正体を明かした時から勝負はついていたんだよ。正体を明かさないまま動いていれば、僕達もここまで手荒な行動を堂々とできなかったからね。悪魔退治は大義名分使えるんだよ」
僕等は、倒れ伏す魔神を囲んで見下ろしている。
もはや虫の息、手足を全て切断され芋虫状態の上級魔神エドモン。
俗にいうドヤ・ザマァタイムという訳だ。
……姉さんも『スキル』全開で活躍したものね。一撃で魔神の脚を切り飛ばすんだもん。スゴイよ。
「さて、このまま死ぬまで放置でも良いけど、謎吐かせたら介錯しますか、皆さん」
「そうだねぇ。アタシらは弱いもの虐めは嫌いだしね」
「魔神には、情け掛ける必要も義理もないからな」
「あたしの『不幸』も全部コイツが原因。早く殺しちゃって!」
<皆様。容赦する必要は、全くございません!>
皆、好き勝手言ってくれるが、僕とてコイツは生かしては置けない。
しかし、ティナの呪いの解呪方法は絶対に知りたい。
呪いを掛けた魔術師は大したレベルじゃ無かったから、おそらくコイツが術を魔術師に授けた上に魔術を発動させるキーの可能性が高い。
「わたしは、いーっぱいコイツには恨みあるの。裸も見られちゃったし、変な呪いも掛けられちゃったの。アンタ、早くわたしの呪いを解除しなさーい! わたし、早くカイトとイチャイチャ、エッチしたいんだもん」
「ぐぅぅ。ワレは小娘の裸なぞ見ておらぬぞ? 確かに小娘の下腹にある呪詛はワレのモノだがな」
ティナはビシっと魔神を指さして文句を言うが、呪詛はさておき裸は関係ないと魔神は言う。
……確かに呪詛術式の時には、コイツは居なかったね。もし居たら、僕はティナを救えなかった可能性も高かったよ。コイツは遠隔で魔法を使ったのかな?
「くぅぅ。もー、細かい事はどーでも良いの! 早く、わたしに掛けた呪いを解除しなさーい、三下魔神!」
「残念ながらそれは不可能だ、小娘よ。元のままな形であればワレが解除できていたが、そんな中途半端に解呪してしまえばワレでは最早解除できぬ。精々、困り果ててあがくのだな、小娘、小僧よ。ははは!」
魔神は倒された悔し紛れか、ティナの呪いは自分ではもう解除できないと嘲笑する。
……こいつ、最初から解呪するつもりはなさそう。でも、どうして呪いが中途半端って分かるのかな?
「あれ? どうして今の呪いの状況、オマエが知っているんだい? もしかしてティナを石化して奪ったとき、オマエがティナを剥いたんじゃ?」
しかし、ティナの呪いが不完全状態であるのをエドモンがどうやって知ったのか、僕は不思議に思い疑問をぶつけてみた。
「えー! やっぱり、わたしの裸見たんだ、コイツ! わたしの裸を見て良いのは男ならカイトだけなの、このエッチでロリコンな三下魔神! 呪いを解くつもりも無いなら、モー関係ないわ! アンタは女の敵、ココで滅びなさーい!」
「ま、待て。それは誤解だ、小娘。呪詛のフィードバックで分かっただけで、ワレが小娘を剥いたのでは決して無い! 今更、小娘の裸なぞ見てどうするのだ、ワレは?」
先程までの尊大な姿はどこに行ったのやら、怒り狂うティナに恐怖し大汗をかいて言い訳し出す魔神。
どうやら怒らせてはいけない人が誰だったのか、今際の際になって気がついた様だ。
「着替えはメイドに頼んで、間違っても男手はワレも含めて一切借りておらぬ。ちょっと待てぇぇ! ワレ、戦って亡ぼされるのは納得するが、女子の誤解な怒りで理不尽に滅びるのは想定外だぁぁ!」
「もんどーむよー! 悪よ、滅べぇ! 必殺氷結千手斬!」
「ひぃぃ!」
僕の疑問の一言がキッカケとなり、頭に血が昇ったティナ。
僕が知らぬ間に凍結系魔法を覚えており、逃げる事も身動きも出来ない上級魔神を無数の氷の刃で襲った。
「ぎゃ! た、たとえワレを滅ぼそうとも更に上位の魔神がこ、この国に……」
「そ、そんなの知らないよぉ。わたしの邪魔をしないでぇ!」
「……。おい、カイト。流石にアレは魔神も可哀そうじゃね?」
「……そうですね、レオン。誤解されたまま、無数の氷で削り殺されるなんて……」
「……ん」
「ティナ様、怒りに燃えるお姿もビューティフルです」
「あたし、ティナちゃんに不味い魔法、沢山教えすぎちゃったかなぁ?」
「あたしの『不幸』、ティナちゃんは敵討ちしてくれるのね」
「はぁぁ。こりゃ坊やは、ますます大変だね。夫婦ケンカで世界が大変さ」
<カイト様、今後はティナ様にはお言葉にも更にご注意を>
「女の敵は、早くしにさらせー!」
「ぎゃぁぁ!」
僕は、ティナの怒りが落ち着くのを待つことにした。
……まあ、これでエドモンに殺された人々の無念は晴らせた……よね? うん、そういう事にしよう。そうしよう! ホントは、コイツにもっと聞きたいこともあったんだけど。今のセリフだと国内に魔神が存在するようだし、どうも他の貴族の中に魔神が潜んでいそうな気がするんだよね。例えば大公様のところとか。
僕は南無南無と、細切れにされていく魔神に対して手を合わせた。
「成仏するんだよ、魔神さん。そして、今度は女の子を怒らせないような優しい生き物に生まれ変われれば良いよね」
そして心に深く誓う。
絶対にティナとはケンカをしない事を。
……僕、もう絶対にティナには勝てないよぉ。
◆ ◇ ◆ ◇
「今回はフローレンティナ様の機転により魔神の暗躍が阻止できました。秩序側の光神神官として感謝致します」
「王国としましても、大公様の派閥に混沌なる魔神に操られた者が居たのは大問題です。フローレンティナ様のご活躍があればこそ。ありがとうございました」
「……はいぃ」
戦いが終わって後、ティナは今回の事案における最大功労者という立場、また高貴である貴族令嬢であることも影響し、面会や会談が多い。
僕らが描いた今回の事件の表向きシナリオ。
シェレンベルク伯爵テオバルトは魔神エドモンによって長年精神支配されており、それをティナが看破。
領民の安寧と王国を守る為に、僕等の助力を頼み魔神を撃破。
哀れなテオバルトを救ったという形になっている。
……まあ、エドモンが自爆したから貴族たちに説明する手間は省けたのは確か。おかげでシナリオ通りになったんだけどね。
僕の行った犯罪、兵士虐殺とか領主館破壊、ティナの誘拐等はティナの依頼による行為と認定。
魔神討伐という大義名分の元での行為とされ無罪放免、表向きは大公派閥や秩序側神殿サイドからも睨まれずに終わっている。
しかしながら、それなりに被害も出ているので各方面への説明は必要。
ということで、ティナはお疲れ気味ではあるけれども、貴族らしい微笑をしたまま毎日会合をこなす。
領主館を破壊してしまったので、今は姉さんの実家な鍛治神殿で僕らは滞在している。
「カイトぉ。わたし、疲れたのぉ。今晩もイチャイチャ抱っこさせてぇ」
「はいはい。でも言っておくけど、ストリップはもう無しだからね。淑女らしくお上品に」
今日もお疲れなティナ。
お付きで会合に立ち会った僕に甘えてくる。
<カイト様。今晩もお疲れ様です>
まだまだ僕にとって「蛇の生殺し」の日々は続くのだ。
無事、戦いが終わりました。
後はエピローグ。
明日の更新をお楽しみにです!




