第43話 僕、魔神を罠に掛ける。
「ははは! オマエらの絶望に満ちた顔がワレには甘露である。さあ、絶望したまま死ね!」
「それはどうかな、三下魔神さん。僕らは、そう簡単に諦めたりしないよ!」
上級魔神エドモンは多数の配下な下級魔神を従え、牙だらけの口を開きドヤ顔で僕達を言葉でなぶってくる。
しかし、僕も彼を煽る。
僕は負けない、ティナの前では簡単に膝を屈したりはしない。
<ティナ様居る限り、カイト様は無敵なのです>
「何をぉ!」
「そうやって、エモノを前に舌なめずりしたのが間違いなんだよ!」
僕は、注意を僕に引くために魔神へ話しかける。
時間稼ぎと作戦を成功させるために。
「今!」
「うん!」
僕の掛け声で、皆は円筒形の物を投げた。
そして投げられた筒は床に落ちると、モクモクと真緑の濃い煙を吐き出した。
「これは!?」
エドモンは驚愕するが、もう遅い。
あっという間に発煙手榴弾は、宴会場を緑の煙で覆いつくした。
「じゃあ、手筈通りお願いします」
「うん!」
「あいよ!」
「おう!」
僕達は、作戦を開始する。
僕は、超音波型暗視装置を装備し、煙の中走った。
ワイヤーをところどころに固定しつつ、ルークスが指定する場所に破片手榴弾を設置する。
……本当はC4爆弾の方が良いんだけど、手持ちには無いからね。
「さあ、大盤振る舞いだよ!」
僕は、手持ちの地球製兵器の在庫を全部使うつもりでばらまく。
「くそう、何も見えぬ。しもべ共よ、何か見えたら撃て!」
「ぐるる!」
視界が完全に防がれたのに慌てている魔神エドモン。
配下の低級魔神共に攻撃を命じている。
……いまのところ、ティナも問題無く動けている様だね。
「鈍間な魔神さん達ね!」
僕は、ティナが魔神達を挑発する声を聴きながら走る。
<ティナ様にワタクシのエコー装備な高機能端末をお渡ししておいて良かったですね。あれなら、ワタクシも詳細情報を逐次ティナ様に指示できますので>
僕とティナは、ルークスの端末を交換した。
そして二人で宴会場を走りまわって、罠を仕掛けているのだ。
僕には暗視装置があるが、ティナはルークスの音声指示だけで動いている。
高機能端末の探査能力を使用した音声ナビゲーションだけで、目を閉じたティナは濃い煙の中を走り飛ぶ。
椅子や机、柱など障害物など気にせずに、ティナは走り飛ぶ。
それは、『天才』スキル持ち、宴会場の配置を暗記している様なティナだから出来る事。
凡人な僕には、とても出来やしない。
……でも僕はもう、ティナには嫉妬なんてしないよ。ティナが凄いのは僕も助かるし、大好きなティナが凄いのは嬉しい事だからね。
近くに着弾する火球を避けながら、僕は煙の中を走る。
……さあ、大詰めだよ!
「くそぉ。これでは全く見えぬ! 風よ、ワレの敵を薙ぎ払え!」
魔神エドモン、風で煙を吹き飛ばす事をようやく思いつく。
しかし、換気が良くない部屋で魔法による風を起こしても、煙が余計に舞い上がるだけ。
魔神がなんとかして視界を確保しようとしている間に、僕は最後の仕掛けを終える。
そして最初の予定通り、宴会の入口を背後にして立ち止まった。
「さて、準備OK。ティナ、そっちはどう?」
「カイト! ちゃんとルークスに教えてもらった通りできたわ!」
煙がようやく薄らいできた頃、僕とティナは魔神の集団を挟んで立っていた。
ティナも宴会所の裏扉を背後にしているので、安心だ。
「お前ら、ちょこまかと何をしていた? まあ、ワレらにはチキューの武器は効かぬ。小僧と小娘の悪あがき、何も効かずに後悔しながら死ぬが良い!」
なおも尊大な表情を崩さない魔神エドモン。
しかし、僕は恐怖もせずにティナに向かって微笑む。
「ティナ!」
「うん!」
僕達は撃ち合わせていた行動を行う。
二人で手に持っていたワイヤーを引っ張る。
そしてワイヤーの先につながっていたピンが全て抜けたのを確認して、避難行動を開始した。
「オマエら、今更逃げるのか? うん? そういえば、他の奴らも居らぬ。ま、まさか!?」
僕とティナが引き抜いたのは、手榴弾のピン。
その手榴弾はルークスによって指定された場所、柱や壁に接着していた。
そして手榴弾はピンが抜かれた三秒後に炸裂した、領主館の構造体を破壊して。
……図面などから構造的に弱い部分をルークスに教えてもらっていたんだ。皆、避難しているから建物少々壊しても問題無いよね。テオバルトにも、これでティナをイジメた事の仕返し出来るし。
「ぐをぉぉ!」
魔神達がドカドカと落ちてくる瓦礫に埋まっていく音を聞きながら、僕は急ぎ屋敷から逃亡した。
◆ ◇ ◆ ◇
「坊や、少しやり過ぎじゃないかい? 屋敷が半壊だよ」
「ま、まあ、今回は魔神退治という大義名分もありますし、皆様避難してましたからね」
<やってしまった事は仕方が無いです。緊急避難、正当防衛ということで>
僕等は半壊した屋敷の外から、様子を見ている。
崩壊した屋敷の躯体に押しつぶされていった魔神達。
いかな魔法を関与しない物理攻撃には無敵でも、身体を重量物で押しつぶされてしまえばどうにもなるまい。
「ぶるわぁぁ! ワレをどこまで愚弄するのかぁ!」
そんな中でも瓦礫をドンと吹き飛ばして顔を出す魔神エドモン。
「愚かな魔神よ! ボクの『豪華』な魔法により滅びるのだ! <凍結地獄>!」
「あたしも! <永久凍土>」
しかし、魔神の埋まった場所を探していたコチラとしては好都合。
二人の義姉弟魔術師からの凍結魔法が、魔神に飛んだ。
「ぎゃぁぁ!」
蒼い華が咲くように魔神達の頭上で効果を発動する魔法。
それは効果範囲の全てを凍り付かせる。
身動きできない状態で上級凍結魔法を喰らった魔神達。
低級魔神達は、全て氷像になって砕け散る。
上級魔神なエドモンすら尻尾や右手、角や羽が氷結後、ちぎれ落ちて砕けた。
「トビアスって魔法もド派手だけど、威力は凄いねぇ」
「教えてもらっているからネリーお姉さまが魔法が多芸なのは知ってたけど、トビアスお兄様も口だけじゃなかったのね」
魔法の影響でちらほらと小雪が舞う中、僕はティナの肩を抱く。
そしてティナの頭を軽く撫でてから、視線を魔神に向けた。
「さあ、最終決着にしようかエドモン! お前が犯してきた罪を後悔しながら滅べ!」
「カイト、カッコいいのぉ!」
「ティナ様、ボクの方がかっこよかったのでは無いですかぁ?」
「さて、英雄候補の俺としては、トドメは俺がやりたいねぇ」
「レオン、無茶はしないでね。トビアスは前に行っちゃ危ないって」
「……ん」
「坊や、嬢ちゃん達。気を抜くんじゃないよ!」
「あー、こんなオバカなパーティに入ってあたし『不幸』なのぉ!」
<カイト様、発言狙いましたね。元ネタはワタクシのライブラリー中の特撮からですか?>
僕の見え切り発言に反応してくれる仲間達。
自分で言ってしまった台詞ながら、とても恥ずかしい。
「このガキ共がぁぁ!」
瓦礫の中、凍り付いた右肩を左手で押さえながら、僕達を睨むエドモン。
「いくよ!」
「おう!」
僕達は、再びフォーメーションを組んで魔神に立ち向かった。
<後はタコ殴りで魔神を亡ぼすだけですね。これにて一件落着>
ルークス君、まだ終わっていないって。
では、明日の更新をお楽しみに!
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