第41話 僕、上級魔神と対峙する。
「これでは私、正体を見せるしかありません」
驚愕し怯えるテオバルトを他所に、彼に抱き止められた状態から立ち上がるエドモン。
ライフル弾が身体を貫通した際に背中と後頭部が大きく弾け裂け、どう見ても生きていないはずの姿なのに本人はケロッとしている。
彼は、身体中に空いた弾痕から血を一滴も流さずに嘲笑する。
「きゃぁぁ!!」
会場にいる貴族令嬢たちが、更に大きな悲鳴を上げる。
「エドモン。お、オマエは一体?」
「テオバルト様、まだ気が付かれないのですか? 人間がここまで破壊されれば生きているはずはないでしょう? それに、私が四十年近くお仕えになっているのに姿が変わらないのは疑問に思わなかったのですか?」
淡々とテオバルトにネタ晴らしをしていくエドモン。
実に悪質ではあるが、これで僕の「シナリオ」通りには話を進められる。
<テオバルト様は騙されていたと、これでエドモン様自ら自白なされましたね。悪質ではありますが、助かります>
「そんな、そんなまさか……。では、これまでの助言は……? 父上と兄上を事故死に見せかけて暗殺した事や領民を見捨てさせた事、妻の実家を破滅に追い込んだことも、他の悪事も全部……」
「はい、私は貴方様を愚鈍な領主、腐った人間に育てるために魔界から来ました、テオバルト様。そうすることで、より多くの人々が腐るように。まだまだ腐り方が足りませんですが、こうもやられてしまってはしょうがありません。貴方の怨嗟と絶望は美味でしたよ」
「う、うわぁぁぁ!」
テオバルトは頭を抱え、くず折れて大声で叫ぶ。
自分がやってきた事、それが全て自らと周囲が破滅していくためにエドモンに操られていた事を後悔して。
横に立っているご婦人、ものすごく冷たい表情でうずくまるテオバルトを見下ろしていた。
「ははは! 実に美味美味!」
ザクロのように弾けた頭を振りながら大笑いをするエドモン。
<ここまで見事なザマァは中々無いですねぇ、カイト様?>
「僕、テオバルトには恨みはあったし、殺したいとも思った事もあったよ。生かしておいた方が簡単に殺すよりも酷い目に合わせられるとも思ってたんだ。でも、……。でもね、ルークス。これは違うよ。絶対に違う!」
僕は、テオバルトがとても哀れに思えた。
エドモンという邪悪に唆され、多くの人々を不幸にし、そして自らも破滅していく。
例え、今日生き残れたとしても多くの貴族の前で自らの犯罪、親殺しを自白したのだから、もう貴族としては生きていけまい。
大公からも切り捨てられるだろう。
そして苦しむテオバルトを嘲笑するエドモンに、僕は激しいムカつきと怒りが湧いてきた。
「いい加減にしなさい、このド外道がぁ!」
僕が悲しみと怒りに襲われていた時、幼くも凛とした少女の声が宴会場に響いた。
「黙って聞いていれば、どんだけ邪悪なのかしら。ああ、そうでしたわね。貴方は地獄でも最下層、底辺にいらっしゃる上級魔神様。人の心なんてあるはずもない、最低最悪で下品な三下でしたわ、おほほ」
「ほう、ワレを三下というのか、姫よ。一度はなすすべもなくワレに捕まった小娘が吠えるわい」
急に口調を変え、尊大な感じをさせだしたエドモン。
その姿は人から徐々に異形へと姿を変えていく。
しかしティナは怖がる事もなくドヤ顔で舌戦を仕掛けて行く。
「小娘で結構! だってわたくし、まだまだピチピチで若いんですもの。一滴も血を流さない誰かさんみたいに頭の中まで干上がっていませんですわ」
「ぐぬぬ!」
……あ、今なら避難できるかも!
「フュルヒテゴットさん、ネリー! 急いで皆さんをここから避難させて下さい。今ならまだ間に合います」
「は、はい。テオバルト様、奥様。こちらにどうぞ」
「お貴族様方、こちらから順番にお逃げ下さいませ。兵士、騎士の方は避難お手伝いお願いします!」
恐怖に固まっていた人々、僕の指示と騎士団長さんが動いたことで避難を開始する。
騎士団長さんは、くず折れたままのテオバルトを抱える様にして運ぶ。
普通パニックを起こしそうなのだが、貴族の方々は案外落ち着いて避難をしている。
……こういうところが貴族なのかな? 逃げる際にでも優雅で気品あるね。
「坊や、アタシもこっちに来るよ。もう兵士らはアタシらを襲わないだろうしね」
グローア姉さん、避難民を宴会場入り口に通してから僕の元に来てくれた。
「姉さん。今、ティナの挑発で魔神が変身しているから、避難完了次第倒しに行くよ!」
「あいよ。銃は効果薄いからネリーにでも預けておくよ」
◆ ◇ ◆ ◇
避難が続く中、ティナと魔神の舌戦は続いている。
「わたくしのような子供相手に、本気出してやっと捕まえられた恥ずかしい魔神さまなのね。それをご自慢とは小心者かしら?」
「何を言う! ワレは魔神王様、直属の配下であるのだぞ! この世界を我ら魔神のものにするべくワレは遣わされてきたのだ!」
「へー。じゃあやっぱり三下ね、貴方。というか哀れな中間管理職かしら? 偉そうに言っても上がいらっしゃるようですし」
「く。くそう。このガキが言いたいこと言いやがって! もう一切手加減なぞせぬ。この場に居るもの全てを皆殺しにしてやる!」
ティナとの舌戦に乗せられた上に、負けてお怒りの魔神。
青い肌の顔を真っ赤にしているのが、愚か。
ティナにばかり集中して視界が狭くなっているから、人質に出来そうな人達は全員避難済みなのだ。
……古今東西、女の子と口喧嘩して勝てる男はいないんだぞ。それは魔神でも同じだと思うね。さて、魔神退治終わったらご褒美にティナを存分に可愛がってあげないとね。
僕と姉さんは、避難手伝いが終わったネリーに銃を渡す。
そして僕は愛用の小太刀と高周波ナイフを抜いた。
「坊や……。アイツ、絶対に倒して! あたしの『不幸』は全部アイツが……」
「ネリー、任せておいてください。本当のザマァでアイツを後悔させますからね」
ネリーは僕らに自らの敵討ちを頼んでくる。
僕は、強張った顔のネリーに微笑んで快諾した。
「貴方、馬鹿ねぇ。わたくしに気を取られて、人質は皆逃げてしまいましたわ。さあ、今度はわたくし達と戦いましょうか」
「このクソメスガキがぁ!」
ティナはネリーから愛刀、優美な曲刀を渡してもらい、鞘から抜く。
そして魔神を挑発するような笑顔で微笑んだ。
……ウエディングドレス姿で戦うティナ、カッコいい!
<ウェディングドレス風な衣装で少女が戦うアニメは過去あったようですね。あのプリティでキュアキュアな子達もそういう感じでしょうか?>
僕の思考を読むのか、ルークスは妙なウンチクを言う。
「ティナ、僕も一緒に戦うよ!」
「もちろんお願いね、カイト。 だーい好き!」
身長三メートルを越える、青黒い肌の巨人。
エドモンは、すっかり魔神に変化している。
「ぐぅぅ! ワレをバカにするなぁ! このバカップルがぁ」
「だって貴方ってバカなんだもん」
「そーだねぇ、ティナ」
ティナは桃色のスキルオーラで美しく輝くウエディングドレス姿のまま、魔神に切り付けに行く。
「行くよ。ティナ」
「うん、カイト!」
僕はティナの動きに合わせて攻撃を開始した。
明日の更新をお楽しみにです!




