第40話 僕、ティナと感動の再会をする。
「あれからは、すっかり大人しい……訳でもないですか」
「そーだね、坊や。よいしょっと」
領主館の廊下を進む僕達。
先程玄関ロビーで見せつけた銃撃戦のおかげで、怖がる兵士や騎士達は遠巻きに僕と姉さんを見ているだけ。
しかし、テオバルトや執事子飼いの暗殺者は、隙を見ては僕らを襲ってくる。
彼ら相手なら情けを掛ける必要も無いし良心も痛まないので、僕らは淡々と「処理」していく。
天井から物陰、曲がり角からと襲ってくるのだが、そんな攻撃もルークスの動体サーチ能力もあって、僕や姉さんは怖くない。
<カイト様、グローア様。ここから三メートル先の天井、五メートル先の曲がり角に敵兵アリです>
容赦なく銃口を向け、引き金を引くだけ。
接近してきても銃剣で喉を引き裂くのみ。
……こいつら、完全に殺気が消せていないぞ。刺客としては二流以下。もはや、このくらいのザコしか、テオバルトには従っていないのかな。
そんな「処理」を見て、更に兵士らは怖がって僕達から距離を取っていった。
そして僕は、堂々と廊下の真ん中を進む。
「すいません、そちらの扉の向こうに用事があるのですか、通してて頂けませんか?」
「は、はいぃぃ! どーぞー」
僕が銃口を向けると、大広間の前で門番をしていた兵士さんは悲鳴じみた声を出しながら逃げて行った。
……こんな感じで逃げてくれたら、僕。誰も殺さなくても済むのにね。
「ティナ! 迎えに来たよ!」
僕はバーンと豪華な扉を蹴り開ける。
会場の中には警備の騎士の他、多くの貴族達。
奥の檀上には、テオバルト、そして純白のドレスに身を着飾った美少女が居た。
「カイト! 来てくれたのね」
「うん、迎えに来たよ。ティナぁ! もうちょっとだけ待っててね」
僕の顔を見て、一番の笑顔を見せてくれるティナ。
この笑顔を守るためなら、僕はいくらでも戦える。
「うん! カイト、だーいすきぃ!」
「僕も大好きだよ、ティナ! 花嫁姿も素敵だね」
<ああ、今日もスピーカーが甘くてたまりませんです。これは嬉しい甘さですね。しかし、映画『卒業』、そのままになってしまったのは伏線だったのでしょうか、カイト様?>
薄いべール越しに薄化粧をしたティナの顔が見える。
豪華な刺繍をされたドレスも美しいのだが、それを身にまとうティナも負けていない。
まるで、自分から輝くように美貌を周囲に振りまいていた。
……うわぁ、ティナ。ものすごく綺麗だよぉ! 僕との結婚式でも、こんなの着て欲しいなぁ。ルークスの愚痴は聞き流しておくとして。
「お、オマエはどうして、ここにいる!? つい一昨日まで遠く離れたカールスブルグに居たはずだろう? それにエドモンの話では、死んだとも聞いていたが?」
「テオバルト様。私、今日は色々とお話を致したく、急遽参りました。少々暴れてしまいましたが、これもテオバルト様とフローレンティナ様の事を思えばでございます」
<ネタバレすれば、大学に放置されていた地球の自動車を修理してかっとんできたんですよ>
驚きの顔のテオバルトであるが、ネタバレなんてするつもりは僕には無い。
ルークスが僕の胸元で愚痴るが、テオバルトには聞かせる気も無い。
今回、僕の襲撃には魔神退治という大義名分がある。
慌てて自らの「正体」を僕らにバラしてしまった執事エドモンのミスなのだ。
<テオバルト様がデーモンに騙されていたという設定で、今回話を進めるのです。ワタクシの前で正体を見せたのがミスなのですよ、エドモン様>
「な、何を言う!? お前は俺からフローレンティナを一度奪っておいて、今度は結婚式を台無しにしにきたのだろう? 何処が俺の事を思うのだ!?」
「以前の件ですが、私はティナ、フローレンティナ様からの依頼を受けて共に逃亡、駆け落ちをしました。そして今回もフローレンティナ様からの依頼です。望まぬ結婚、それも魔神に操られてしまった悲しいテオバルト様との結婚を阻止して欲しいと」
<ティナ様が助けを求めていらっしゃったのは、事実ですものね>
僕の発言で、貴族たちがザワザワとしだす。
最初の駆け落ちについては、既に盗賊ギルドが流した噂話が概ね真実なので、反応はそこまでは無い。
しかし、僕が魔神と言うとざわめきが大きくなる。
当のテオバルトも何を言い出したのかと、驚いたままだ。
「坊や、廊下からの敵は食い止めるから、アンタは中で存分に暴れな!」
「ありがと、姉さん」
<グローア様、お気をつけて>
僕は背後を姉さんに任せ、銃口を上に向けて大広間の中を歩く。
僕の様子に気圧されたのか、貴族、騎士たちは左右に広がって僕の進む先に道が出来てゆく。
まるで、聖書の中でモーゼが紅海を割ったときのように。
「魔神? でたらめを言うのにも困って、今度は魔神とな? ははは、冗談はソノくらいにしておけ! モノども、この愚か者を摘まみだせ! 殺してもかまわん」
「テオバルト様! そちらの坊や、カイト様の言う事は真実でございます。私はこの目で見ました。共に姫様をお迎えに参りました騎士や魔術師が、そこなる執事エドモンによって魔神の苗床にされてしまったのです!」
テオバルトが狼狽しつつも、時代劇のお約束「モノ共、出会え!」を言ったとき、大広間の裏口からレオン達が飛び出し、騎士団長さんもいっしょに出てきてテオバルトに訴えた。
……無事、時間通りのタイミング。上手く屋敷内に侵入できていたんだね、レオン。
<レオン様にも簡易端末を持って頂きましたので、タイミング合わせは完璧でございます>
良く見ると、Vサインをティナに向けているニコニコ顔のマルテと恥ずかしそうな顔のネリーがいる。
「なにぃ! フュルヒテゴットよ、生きておったのか? エドモン、話が違うぞ!? これは一体どういう事か?」
「お話が行われた大学内では魔神の目撃者も多く存在しますし、映像記録もありますが、簡単に証明致しましょう。こういう事です、テオバルト様」
僕は上げていた自動小銃の銃口を下ろし、関係無さそうな顔をしていたエドモンを容赦なく撃った。
「きゃー!」
エドモンの頭蓋が弾けるのを見て、貴族令嬢たちの悲鳴が聞こえる。
幾人かが気絶するのも見えた。
警護をしていた騎士達も、僕を睨んで剣を抜いた。
「皆様、御安心を。僕、いえ私は襲われない限り、これ以上人は撃ちません。僕が敢えて撃ったのは、彼が魔神だからです。執事エドモンの正体は上級魔神です!」
「一体何を言うのだ。エドモン、しっかりしろ。司祭殿、早く治癒魔法を……。え!?」
「ふぅ。油断してはなりませんねぇ。カイトさん、貴方策士ですね。これでは私、正体を見せるしかありません」
被弾して崩れ落ちたエドモンを抱えて、泣きながら司祭様に助けを求めるテオバルト。
しかし、エドモンは血も流さずに起き上がる。
エドモンは額や胸に大穴を穴を開けながらも、僕の方を見て嘲笑を浮かべた。
いよいよ戦いは大詰め。
明日の正午をお楽しみにです!




