第36話 ティナは、カイトを待つ。
わたしが意識を取り戻した時、以前テオバルトの元で閉じ込められていた部屋のベットの中に居た。
衣服が着替えさせられていたので、身体を確認したが怪我も無い上に下腹部に違和感も無い。
鼠径部に残る紋章も、マルテの師匠先生達に一部解呪された時点から様子が変わっていない。
……わたし、まだ乙女なのね。良かったわ。
首に感触があるので、確かめるとカイトから貰ったペンダントはまだ残っていた。
魔法発動用の指輪は取り上げられていたから、魔法関係や武器になりそうな物が奪われたけれど、ペンダントはただの無骨なアクセサリーだと判断され放置されていたらしい。
「周囲に監視は無しかな? ルークス、聞こえる? わたし、ティナよ?」
わたしは部屋の中を見回した後、念の為にベットに潜り込み、布団の中でペンダントに話しかけた。
<はい、聞こえております。ティナ様、とりあえずご無事で何よりです。ワタクシも姫様が『乙女』なのは確認済み。後はカイト様の救援を待つだけでございます>
「ルークスのエッチ! わたしの身体を監視してたの? だったら、助けて……は、身体の無い貴方には無理よね。ごめんなさい。そういえば、カイトやみんなは無事なの? ネリーお姉さまが胸を引き裂かれて……」
わたしはルークスと話せたことで一安心をし、涙をこぼしてしまった。
<ご安心を、ティナ様。皆様ご無事、魔神達を返り討ちにしております。ネリー様も『偽乳』、補正下着が再び身代わりになって助かっております>
「ぷ! それは良かったわ」
わたしは、皆が無事。
特にネリーが、またまた補正下着で命拾いしたのがおかしくて泣きながら笑ってしまった。
「お姉さまの事だから、『不幸』って愚痴っているのが見えるわ。でも、カイトが助けに来るのにしても遠いのに、どうやって来るの? 変態伯爵は我慢しないから、近いうちにわたしに何かしてきそうだけれど?」
<そこは、今カイト様が色々と準備なさっていますので、お楽しみを。今の予定なら明日中にはお迎えに上がれますよ>
カイトが、わたしを迎えに来てくれる。
その一言を聞けただけで、わたしは勇気が出てきた。
ガマガエルだろうが魔神だろうがカイトならぶち倒して、またわたしをギュっと抱きしめてくれるに違いない。
「うふふ。じゃあ、今晩は楽しみにして待ってるわね。ルークス、ありがとね」
<いえいえ、ティナ様。ワタクシもカイト様同様にティナ様の笑顔が大好きですので。では、御褒美にカイト様と通信を繋ぎましょう>
「え! カイトとお話しできるの?」
<ティナ! 聞こえる? 僕、カイトだよ?>
「カイト! カイトなの!? わたし、怖かったよぉ」
ペンダントから、少し籠ってはいるけれどもカイトの声が聞こえた。
わたしは声を潜めて、しばしカイトとルークス経由でお話した。
<必ず迎えに行くから待っててね>
「うん。待ってる!」
わたしはピンチなはずなのに、嬉しくて楽しくてたまらなかった。
大好きなカイトが、わたしを助けに来てくれるのだから。
◆ ◇ ◆ ◇
わたしが意識を取り戻してから、数時間後。
領主テオバルトは執事エドモンを連れて、わたしを幽閉している部屋を訪れた。
エドモンがテオバルトに語った話では、カイトらの抵抗が激しく騎士団長他三名の者が犠牲になるも、カイト達も殺された。
激しい戦いの中、エドモンは秘術の巻物を使用してわたしを奪う事に成功。
命からがらテオバルトの元へと連れ帰ったのという筋書らしい。
……全部、嘘っぱちなのにね。カイトが魔神なんかに負けるはずないもん。さっきもカイトと直接お話したしね。
「姫様。今しばらくは、このお部屋でお寛ぎくださいませ。明日の夜には周辺貴族様を集めまして、結婚の儀を行いたいと思いますので」
「フローレンティナよ。そろそろ観念するのだ。もはやお前を助けに来るものなど何処にも居ない。カイトは魔術師と相打ちになり死んだと聞いたぞ? 例え生きていたとしても、遠い学都からここまでは明日の儀式までには到着できないさ、ははは!」
「ふん! 今に見てなさい、絶対にカイトがわたしを助けに来るわ。その時、泣きわめいても絶対に許さないんだから!」
わたしに、執事とテオバルトは絶望を言い渡すのだけれども、わたしは「真実」を既に知っているから気になんてしない。
わたしは、強気で反論する。
「ははは! 幼い顔での生意気さが、また良いのぉ。そそられるわい! その希望を壊して絶望の中、姫を犯すのが楽しみだ。奴隷紋は半分壊されたそうだが、快楽呪縛部分は健在との事。姫の顔が快楽で蕩けるのを見るのが、今から楽しみだよ」
「ふーんだ。わたし、絶対に貴方なんかには抱かれないわ。わたしを抱いて良いのはカイトだけ! それにしても自分の配下の正体を知らないとは哀れね、操り人形な伯爵様?」
下品な顔をしつつ、更に下品な言葉をわたしに呟くテオバルト。
しかし、わたしも負けずに見下す様にテオバルトを言い返してやった。
自分の配下に潜む「邪悪」を知らないのねと。
「一体何を言う、小娘が? まあ良い。今日のところはゆっくりと休むが良い」
テオバルトは、わたしの肢体を上から下までイヤらしく舐めまわすようにして見た後に、執事を連れて部屋を出て行った。
「はあ、アイツ馬鹿ね。これまでも魔神に良いように操られていたのかしら?」
<おそらくはそうでしょうね、ティナ様。では、カイト様にタイムリミットの連絡をしておきます>
わたしは、一人になった部屋でぼそりと呟く。
それに応じて電子音声が答えてくれた。
「お願い。カイトにも宜しくね」
◆ ◇ ◆ ◇
<カイト様。先程ティナ様からの情報で、明日の夜がタイムリミットと判明しました>
「ありがとね、ルークス。ティナの無事が確認できたし、タイムリミットも分かったのは幸いだよ。さあ、急いで仕上げるよ。コイツ、借りるのに大学やら冒険者ギルド、ジークムント先生に大きな借り作っちゃったからね」
<借りを作れるのも資産でございますよ、カイト様。無事、ティナ様を奪還した後に、皆様にお返しすれば良いだけですので>
僕はルークスを経由して、ティナの情報を入手できた。
ティナに渡していた端末が魔法効果も無いペンダントだったので、テオバルトや魔神はただのアクセサリーだと思ったのだろう。
ティナの声も先程聞けたので、僕は力がより湧いてきた。
「うん。じゃあ、この部分のメンテナンス情報提示たのむね。僕、こういうのにはあんまり詳しくないから」
<了解です。ワタクシのライブラリーを存分にお使いくださいませ!>
僕は、大学内の倉庫で、数年間放置されていた「とある機械」を修理している。
明日は、これでテオバルトの屋敷に殴りこむ。
「明日は先に師匠の家に立ち寄って、墓参りとブツを掘り出さなきゃね。後の事は考えずに、手加減無しで武器全部放出するよ!」
<カイト様、本気でございますね。ワタクシ、ワクワクしちゃいますです>
「おーい、カイト? これは、どこに持って行けばいい?」
「レオン、それはこっちに持ってきてくださいね。姉さんは、そこのヒマシ油樽をお願いします。他の皆も明日の準備、お願いしますね」
僕達は夜が更けるまで、仲間達の助けを借りて魔法灯りに照らされた倉庫で機械いじりをした。
いよいよ、ティナちゃん奪還作戦が開始されます。
明日以降の決戦をお楽しみに!




