第30話 僕、ネリーに謝る。そしてティナの解呪へ。
「ネリー、今回はティナを守ってくれてありがとうございます。そして、ごめんなさい。僕の判断が甘かった。暗殺者なんて一思いに殺しておけば良かったのに……」
僕はベットの上に座るネリーに頭を下げる。
僕の判断ミスで、一つ間違えば誰かが死んでいたからだ。
「ふん! 坊やが甘いのは今更ね。でも、そ、その甘さであたしは、今幸せに生きているんだから、気にしないの! そ、それに姫様、ティナちゃんを助けたのは、思わず身体が動いちゃったから。別に坊やが気にすることじゃないわ! ふん! あー『不幸』だわ」
「ネリーお姉様ぁ。わたし、だーいすき!」
「ティナちゃん、抱きついたら痛いって。あたし、肋骨にヒビはいってるんだから、やめてよぉ」
しかし、ネリーは僕を叱責しなかった。
それどころか、顔を赤くしつつ悪態交じりに僕に感謝をしてくれる。
「カイト。もう気にすんじゃない。今回は取返しが十分できた。それに同じ間違いは二度としなきゃ良いさ」
「レオン。でも、僕は甘い判断でミスしたのは、これで二回目なんです。ティナに助けてもらわなかったら、前は死んでいたし……」
僕の甘い判断でのミス、これまでも何回かあったのかもしれない。
ただ、最近の二回は命が掛かっている大きなミスだ。
「坊や、まだアンタは若い、というか幼い。厄介事を全部自分だけで背負いこむ必要は無いのさ。せっかくチームを組んでいるんだから、アタシら他人を少しは頼れ。ティナちゃんを助けに行く時も全部ひとりでやろうとして失敗してたろ?」
「だな、姉さん。俺もこの間のカイトとの戦いで、一人よがりだったのを実感したよ。カイト、お前は凄いけど、まだまだガキ。俺にも頼れや」
「あたしも、お姉ちゃんって頼って欲しいよ、カイト」
「ん!」
他の仲間達も僕を応援してくれる。
「そんなに僕を甘やかせても良い事無いよぉ。僕が失敗しなきゃ誰も困らなかったのにぃ」
「でも、カイトが頑張ったから、わたしは今ここで笑っていられるのよ? ね、皆。だから、もう泣かないでね、カイト」
ティナも僕に笑いかけてくれる。
……ホントに皆、お人好し過ぎるよぉ。
「あーあ。あたしもすっかりお人好しに毒されちゃったのね。もう手遅れかしら。ふん、『不幸』だわ!」
「ごめん……。ごめんなさい、皆。ぼ、僕、もっと頑張るね」
僕は皆に甘やかされ、泣かされてしまった。
……もう同じミスは絶対にしないよ。戦う以上覚悟しなきゃ。じゃないと自分も仲間も、そしてティナも守れないんだから。
◆ ◇ ◆ ◇
「カイト、先生から連絡があったよ。弟子が準備出来たのでティナちゃん連れてきてって話」
ネリーがベットから起きだして数日後、マルテの先生から連絡があった。
経費を安くしてくれる代わりに、弟子の授業に使うとの事。
「じゃあ、明日にでもお伺いするって連絡お願いしますね、マルテ」
「うん」
先日の暗殺者に襲われた事件の際に採取していた虹色なキノコ。
あれが最後に必要な触媒、これで解呪の為の準備が出来た。
そして、ようやくティナを呪いから解放できる目途が立った訳だ。
「カイト。じゃあ、今晩はわたしの紋章とのお別れ会をしましょ。わたしの身体に一杯触っても良いのよ?」
「ティナ! 君には恥じらいってものは無いのぉ?」
僕はまたまた禁欲のまま、苦行をこなさないといけないらしい。
……まあ、殺し合いよりは気楽だけどね。
◆ ◇ ◆ ◇
禁欲の夜を過ごした翌日、僕達はマルテの先生、ジークムントの私塾へと向かった。
「随分と待たせたのじゃ。じゃが、もう安心じゃ。解呪の準備は出来ておるからのぉ」
ジークムント先生は、白いあごひげを触りながら自信たっぷりに話す。
「ホントかなぁ。先生って昔からここぞという時にポカ多かったし。だから冒険者からは早く足を洗ったって、あたし教えてもらいましたけど? 確か『うっかり』スキルでしたっけ? 外れもあるけど、大当たりすると十倍効果の……」
「姉弟子! それは先生に失礼ですよ? いくら自分がA級冒険者であっても、先生に泣きつかなければ姉弟子では解呪の目途も立たなかったのですよね?」
マルテが自信一杯のジークムント先生を怪しむが、先生の側に立っている細身で神経質そうな青年が、姉弟子になるマルテに苦言を言っている。
……あれ? マルテってまだ十九歳くらいだったよね。文句言っている青年って二十歳は越えてそうだけど?
「おい、【トビアス】。姉弟子に失礼だぞ? 皆さん、ウチの若いもんがすまんのぉ。若手有望株なのじゃが、いかんせん実践が伴っておらぬ。大学だけでは学びが足らぬと、ワシのところでも学んではおるのじゃがな」
「先生こそ、卑屈になり過ぎです。冒険者など、素性も分からぬ荒くれ者が大半。優秀で『豪華』スキル持ちなボクの前ではかすんでしまうでしょう」
……あらあら。この人は社会を知らないのか。若輩者の僕でも世間を少しは知ってるぞ。それに素性がどうのと言ったら……。
「先生。苦言を言わせてもらっても宜しいかしら? この元公爵令嬢たるわたくしに対して、そんな口の利き方で宜しいのですか、貴方? 先生、授業までに彼と『遊ばせて』頂けませんでしょうか? 決闘を申し込むわ!! もちろん命の取り合いは無しです」
「ティナ! 今日は君に罹った呪いを解呪してもらう日だよね。その当事患者が解呪してくれる人にケンカを売り返すってどうかしてると思うんだけど?」
「カイト! 貴方は、あんな世間知らずに馬鹿にされて良いの? お姉さま達もそうよ? わたしが馬鹿にされるのは我慢できるけど、大好きな仲間が馬鹿にされるのは辛抱ならないの! こういう場合に怒るのが高貴な者の勤めよ」
<こういうのも貴族の義務なのでしょうか?>
……結構仲間思いなんだ、ティナって。また惚れ直しちゃう。
貴族としての誇りをもっているのか、正直最近怪しかったティナではあるが、仲間や弱者を守る為に貴族たらんとする思い。
僕はティナが、とても誇らしく、更に大好きになった。
「さあ、どうしますか、クソ坊や?」
「くそぉ。小娘ごときがぁ! 先生、ボクは決闘を受けます!」
何かと令嬢かどうか怪しくなっていたティナちゃんが、仲間思いの良い子であるので、一安心です。
では、明日の更新をお楽しみに!




