第26話 僕、新しい武器を買いに行く。
「はい、ギルド本部への報告は承りました。で、パーティのメンバー変更をなさるのですね」
「ああ、『紅蓮』に四人、メンバーを追加したいのさ」
マルテの先生宅を離れた僕達は、冒険者ギルドの建物に来ている。
既にギルド本部ヘは文書を送っているが、更に領主から暗殺者が送られてきたことも含めて報告をした。
「これで六人+一人のフルメンバー。大仕事も出来ますね、皆さん」
「カイト、わたし頑張るね」
ご機嫌なティナ。
淫紋の解呪の目途が立たないのに、僕の事を思い落ち込んだふりを見せないのだろう。
「ティナは可愛いね」
「あれ、今日は積極的ね。いつも、こうでお願い。うふ」
僕は、僕の目線ちょい上くらいにあるティナの頭をなでなでする。
絹糸の様にしなやかで天使のリングもある栗毛が、すべすべと手触り良い。
……ティナ用にとっておき、地球産のシャンプーリンスあげて良かったよ。ボディ用にも高級石鹸をプレゼントしたんだ。
マルテや他女性陣からはジト目で見られたので、石鹸に関しては予備あったから配布したけれども。
「そこのバカップルは放置して、装備品とか確認しないか? 俺も予備用じゃなくて、ちゃんとした剣買いたいし」
「あ、レオン。ごめんなさい。僕が剣を折ってしまって」
僕は、思わずレオンに頭を下げる。
殺さずに倒すためだったとはいえ、レオンの愛用していた剣を折って使い物にならなくしてしまったのだから。
「いやいや。あそこは負けた俺が悪いさ。もし悪く思うのなら、剣を見繕うのを手伝ってくれないか? カイトなら剣の良し悪しにも詳しいんだろ?」
「僕はそこまで詳しい訳では無いですよ? ルークスなら詳しいかも」
<ええ、ワタクシなら皆様のお手伝いをしますよ>
僕よりも頭ひとつ身長が高いレオン。
謝る僕の頭をガシガシと手荒く撫でながら、一緒に剣を探すので許してくれた。
「ぬぅぅ。カイトぉ。わたしにも何か買ってよぉ。剣も良いの欲しいし」
「……はい」
殺気を感じ、その方向を見ると嫉妬状態のティナがいる。
僕は、お財布が軽くなるのを実感しながらティナにどんな剣が似合うのか、考えた。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふんふん! これ、すっごく使いやすいの!」
「ティナ。あまり前に出過ぎないでよ。ほいっと!」
僕達は、地下下水道にて大ネズミの大軍と戦っている。
お財布が軽くなった僕らは、あらかじめ冒険者ギルドで受けていた仕事、採取をする学生さんたちの護衛任務で下水路ダンジョンに潜っている。
学都カールスブルグは、古代超文明、異世界への扉を開いた者達が作った遺跡化した街の上に建設されている。
そして現在、その地下遺跡を下水路として使っている。
下水路には大きなネズミ、巨大昆虫。ワニ等の自然由来なものだけでなく、古代遺跡から這い出してきた魔物が多数徘徊している。
低階層レベルなら大したものは出てこないので、学生だけでも採取にダンジョン入りする場合もあるが、お金に余裕がある学生は冒険者を護衛に雇ったり、採取自体を冒険者に頼む。
「ほわぁ。あの子、すっごく可愛いねぇ。あ、もちろんキミの方が素敵だけど」
「別にいいわ。だって、わたし同性でもあの子に惚れそうなんだもの」
魔術師ローブを着た学生カップルが二人とも、舞うように戦うティナの方を見て顔を真っ赤にしている。
飛び跳ねながら栗毛のポニーテールを靡かせるティナ。
彼女は、ランプ灯りに照らされてキラキラと輝く汗に額を濡らしながらも笑顔を絶やさず、翡翠色の瞳で敵を確実に撃破していく。
その姿には、見慣れた僕も惚れ直してしまう。
桃色のオーラに輝くティナが居れば、不快な筈の地下下水道でも気にならない。
「アンタたち、雇い主なら少しくらいは身を守るとか、戦うなり隠れるなりしなさい! あたしでも灯り持ちしているのにぃ。あー『不幸』だわぁ」
食い扶持を稼ぐ、そして暗殺から自らの命を守るため、領主元メイド、ネリーも防具と短剣を装備し、冒険補助として僕達と行動を共にしている。
戦う事をしてもらわなくても、彼女が灯り持ちに荷物確保、休憩時の準備など居てくれることで、とても助かってる。
「剣どころか魔術師杖も持っていない坊ちゃん嬢ちゃんに、いきなりのダンジョン採取は無理な話さ。学校も少々教育カリキュラムを考えた方が良いんじゃないのかねぇ」
姉さんは、学生さんの背後で戦斧を杖代わりにして、のんびり全体を見回す。
そして時折、僕達から逃げてきた大ネズミを一撃で粉砕する。
「マルテ、魔法は雑魚には使うなよ。ヴィリバルト、お前はマルテの援護を頼む!」
「うん!」「ん!」
あちらでは、新品の大剣を背に背負ったまま、小剣と風魔法でネズミ達と戦っているレオン。
レオンは狭い場所で大剣を振り回す危険性、そして密閉空間での炎の危険性を十分理解しており、彼の戦術的思考能力が上がっているのを僕は嬉しく思った。
◆ ◇ ◆ ◇
冒険後、僕達は報酬をもらい、ホクホクして屋外で休憩中。
「カイトぉ。わたしの活躍見てたぁ?」
「うんうん。見てたよ」
卸したての曲剣を見せびらかせながら、僕にドヤ顔で迫るティナ。
実に可愛い。
「ルークスって良い目しているわ。レオンと同じ作者の剣だけど、バランス良くて使いやすいもの」
「だな。俺のも今回出番は少なかったが、一撃でジャイアントトードを粉砕出来て気持ちよかったぜ」
<そう言って頂ければ、選んだワタクシも嬉しいですね。この地の名鍛冶師の名前を過去に記録しておいて良かったです>
学都とはいえ、地下遺跡がある関係で冒険者の街でもあるカールスブルグ。
武器屋さんも良い品ぞろえをしており、良い鍛冶師さんの作品を置いているお店をルークスが見つけ、僕達はそこで武器を仕入れた。
「ふんふんふん!」
汚れをふき取って、ご機嫌良く剣をひゅんひゅんと降るティナ。
片手半剣風の長い柄を持ちながらも、優雅なデザインの護拳鍔と細めでゆるい反り刀身を持つ曲剣。
ティナは、僕の日本刀でのスピード重視な戦い方をコピーしたので、彼女にピッタリな切れ味重視で軽めの刀身な剣が見つかったのは幸いだ。
「俺のは、重量バランスが良くて振るいやすいぜ」
こちらでも、ご機嫌なレオン。
彼が買ったのはティナの買ったサーベルと同じ作者が作った両手剣。
刀身は大剣にしては細め、十字に伸びた鍔の向こう、刀身の根元には皮で保護したリカッソ(刃が付いていない部分)があり、振り回しやすくなっている。
<リカッソを持って長柄武器のように戦うのは、日本での長巻と同じ理屈ですね。バランスの良さから膂力があるのなら片手でも使えそうな感じかと。お二人の剣、共に追加でミスラルコートしてもらったので、魔法しか効かない魔物も倒せますね>
ルークスがウンチクいっているが、大振りでも使いやすいのは、非力な僕が使っても楽に振るえるくらいの上モノだったから。
お値段はどちらもソコソコ以上したが、今後を考えれば良い買い物だった。
……元々使っていたのを下取りに出して、その上にちょっと値引きをお店の方にしてもらったけど、可哀そうだから僕も追加で投げナイフを数本仕入れたんだ。
僕、苦無は汎用ナイフとして一本は持っているけれど、どっかの影分身をする忍者みたいに投げ使うのはもったいない。
棒手裏剣代わりの投げナイフもあれば、何かの時に役立つだろう。
僕も倒木相手に投げナイフの練習をしながら、うふうふと笑ってしまった。
「こいつら、武器マニアなの? まるで玩具貰った子供みたいで気持ちわるぅい。あー、周囲に恵まれないあたしは『不幸』だわ」
<オトコノコはいつまでも子供なんですよ、ご存じありませんでしたか、ネリー様? ティナ様は、元々子供ですけどね>
ネリーに呆れられながらも、僕らは新しく買った武器の練習をした。
新しい武器買うとウキウキしちゃうのはゲームとかでもありますよね。
皆、試してみたくなるんです。
さて、このまま平和が続くのか。
明日の更新をお楽しみに!




