第25話 僕、学都に到着する。
「うーむ。マルテや、これはかなり手ごわい呪いじゃな。特に中途半端に稼働しているのが難儀じゃ。どうやら低級じゃが魔神らしきものを召喚して魂を汚染させる仕組みみたいじゃが? これは禁呪の可能性もあるのぉ」
「【ジークムント】先生! そんな事言わないでよぉ。可愛いティナちゃんの将来が、全部かかっているんだからぁ」
僕達は全員で、学都カールスブルグに来ている。
ここには王国内で最高峰のカールスブルグ王立大学が存在し、他にも中小の学校が多数存在する。
この街に来た最大の理由が、ティナの淫紋解除。
マルテの先生が、今は大学を離れて私塾を経営しているそうで、僕等はそちらに伺っている。
……いかにも魔法使いのお部屋って感じだよね。羊皮紙本に巻物、ポーション瓶でいっぱいだよ。
「そうは言ってもなぁ。ワシの専門は付与系。攻撃魔法とかも扱うが、呪いは専門外じゃ。効果を付与するという意味では同じじゃが、対象の魂や精神を制御する程のものは、簡単には手出しできないのじゃ。その上に魔神召喚系も混ぜておるとは、どういう呪詛なのじゃ?」
<こうなると、術を仕掛けた張本人を縛り上げて解呪させるしかないのでしょうか、先生様?>
「それが出来れば間違いないのぉ、賢い機械くん」
既に初老、如何にも魔法使いのお爺ちゃんって雰囲気の先生だが、AIルークスの事を知り喜び、僕の話を聞いてくれた。
しかし、今は膝をついてティナの解呪を懇願しているマルテ相手に苦戦をしている。
……ルークスが言うように、術者に解除させるしかないのかなぁ。術によれば術者を殺せば無効化できるのもあるけど、早とちりで殺して解呪できなくなったら最悪だし。
「マルテお姉さま、先生にご無理を言っても仕方が無いですわ。魂を操る仕掛けの一部が分かっただけでも上出来ですの。で、先生様。この呪いは発動させずに放置で生活に不具合は起きませんか? 術を掛けられている時、奇妙な熱がわたくしを蝕んだ気がしますの。わたくし、最近少々……え、エッチになっている気がしないでもないのですが?」
……そこは僕も気になるんだ。まあ、ベットの中以外ではエッチな姿を見せないから大丈夫とは思うけど。僕が我慢すれば済む話だしね。
「そこは何とも言えぬな。この手の呪詛は通常、即発動するような物。おそらく、その熱が呪詛そのものであろう。発動前の待機状態でずっと放置している例は正直知らぬ。精神干渉でエッチになるのはどうであろうかのぉ? ほれ、そこなる少年が心配しておるぞ、お嬢ちゃん」
「あ、えっとぉ。ティナ、まずは第一歩進んだという事にしようね」
いきなり僕に話を向けられてびっくりするが、実際呪いの概要が分かっただけでも収穫だ。
「この手の呪いなら、神聖魔法の方が効果ありそうじゃが、そこの神官なお二人では無理なのかい?」
「先生。アタシは、どっちかというと戦士の方がメインで魔法は中級までなんだ」
「ん……」
グローア姉さんにしろ、ヴィリバルトにしろ、神の教えを広める一環で戦士をしている。
兼業なので、治癒や解毒や戦闘関係などの中級神聖魔法までは使えるが、上級、石化解除や完全回復、蘇生などはまだ使えないそうだ。
解呪に関しても、中級レベルの呪いがやっと。
姉さんは、呪いをちょっと見ただけで自分で解呪出来ないと判断していた。
「ジークムント様、申し訳ないが上級解呪を行える神官、若しくは呪いに詳しい魔術師を紹介願えませんですか? このままでは、若者が不憫です。お金が必要というのであれば、アタシが支払います」
「あ、姉さん! それは僕の役目ですよぉ。ジークムント先生、お願いします。借金してでもお金をお支払いしますから、ティナを早く呪いから解放したいんです!」
姉さんが先生に頭を下げるので、僕も一緒になって頭を下げる。
魔法相手に何もできない僕としては、資金準備と頭を下げるくらいしか出来ることはない。
「先生、あたしからもお願いします。カイトもティナちゃんもあたしには大事で可愛い子達なの」
マルテも、希望が崩れ泣きそうなティナを横から支えて先生に頼み込んでくれる。
「まあ、慌ててはいかんぞ。まずは術者についての情報を教えてくれぬか? 確かシェレンベルク伯爵家付きの術者だったな」
「ええ、そうです。ティナの下腹部に虹色のインクで魔法紋章を書き込んでいたのを覚えています」
僕は、ティナに淫紋が書かれている時の様子を先生に説明する。
「カイトのエッチぃ。あの時、わたしのお腹をじっと見てたのね?」
「ちょ! あの時はしょうがなかったんだよぉ。助ける隙を狙っていたし、術式も見てたから今説明できるんだよ?」
<言い訳をしてもしょうがないです、カイト様。覗き魔だった事は事実ですので>
ティナが眼に涙いっぱい貯めて恥ずかしそうな紅い顔で僕に文句言うので、僕はしょうがなかったと言い訳をする。
しかし、ルークスまで一緒に僕を攻めてくるのは実に困る。
「カイト、アンタはもう少しデリカシー勉強しようね。ただでさえティナちゃんが恥ずかしいんだから」
「マルテお姉様ぁ」
半分泣き顔でマルテに抱きつくティナ。
周囲の仲間達も僕を見る目が厳しい。
「もー! 僕が悪かったです。ティナ、ごめんなさい!」
どうにもならんので、僕はティナに謝った。
「ぐすん。カイトだから許してあげる。だから、今晩も抱っこしてね」
<カイト様。今宵も御辛抱、お疲れ様です>
そして今晩もティナに抱きしめられて、蛇の生殺しモードが決定した訳だ。
「少年、お主には女難の相があるのかもな。まあ、その哀れな姿と地球のAIとやらを見せてくれた事に免じてワシのコネを使うとしよう。ただ、しばし時間は貰うぞ。金に関しては必要経費と少々で構わぬ。弟子に対する試験代わりにもさせてもらうが、それで構わぬな?」
「はい!」
そして僕達はジークムント先生のご厚意に甘える事にした。
<どうして我々が動くと、シリアスが続かずコメディになるのはどうしてでしょうか?>
と言われましても困るんですが、ルークス君。
そこは作者の芸風としか言えないです。
という事で、明日の更新をお楽しみに!




