第23話 僕、暗殺者を容赦なく撃つ。
「ぐぅぅぅ!」
頭を強打した暗殺者が悶絶しているのを、僕たちは見下ろしている。
「これ、早く殺すなり気絶させるなりしないと危険ですよね?」
「暗殺者に情けは無用だな」
「ん!」
ヴィリバルトは、ドスンと戦棍を容赦なく暗殺者の頭部に叩き込む。
ぴくんと一瞬痙攣をして、暗殺者は動かなくなった。
その時、外からガタンという音がした。
……もう一人か! 逃がさないぞ。
暗視装置を装備した僕は、引き金から指を外しながら握った拳銃を下に向け、廊下に飛び出た。
僕は暗視装置越しの緑色の視界を頼りに開いてる窓を見つけ、窓の側まで姿勢を低くして廊下の真ん中を走る。
そして窓際の壁を背にして、両手で保持した拳銃を胸元まで上げる。
そして一瞬待機する。
……ふぅぅ。
大きく深呼吸し気配とタイミングを見て、僕は膝を付く。
しゃがみ込みながら180度回転、窓下枠ぎりぎりに拳銃を僕は突き出した。
すると、僕が立ったまま回転していたら確実に心臓を突き刺していたナイフが、僕の頭上をひゅんと過ぎる。
「ひ! 危ないなぁ」
僕は、容赦なく拳銃の引き金をダブルタップ、ナイフを突き出していた暗殺者を撃った。
「ぎゃ!」
ぱんぱんと軽い音が二発鳴った後、胸と腹に紅いであろう華を割かせた男は、目に宿っていたオーラ光を消し脱力して屋根の上から地面へとにドスンと転げ落ちた。
「……まだ居る? ……ふむ、気配は無いか……」
僕は残心を忘れず、引き金から指を外した拳銃を胸の上で構えたまま、後ずさりをする。
騒ぎで起きだした客が廊下に出てきた。
その中には、夜着姿の姉さんやティナの姿もあった。
「カイト! 何? 大丈夫なの?」
「うん。もう暗殺者は退治したよ」
僕は殺人の恐怖で震える手を誤魔化し、拳銃の安全装置を入れる。
そして暗視装置を頭上にあげて、不安そうなティナに微笑み返した。
◆ ◇ ◆ ◇
「カイト! お前、拳銃なんか使えたのか?」
「はい、レオン。僕はこいつと、もう一個持っているんですよ。容赦する必要ない相手、ティナを襲う相手なら僕は容赦なく撃ちます」
僕は、まだ殺人の余韻で震えている手の中にある拳銃を見る。
これは、放棄されていた米軍倉庫から見つけ出した九ミリ口径自動拳銃。
軽くて沢山撃てるので、実に使いやすい。
……自衛隊の倉庫に残っていた拳銃は、旧式で大きい上に弾数少なかったしね。
もう一個は、父から貰った|警察も使ってた自衛用の小型銃。
これはは弾丸が入手しにくいから、あまり撃ちたくない。
僕が最初に人殺しをしたのは、父から貰った銃の方。
僕は拳銃も使うけれども、必ず殺す相手にしか使わない。
その上、手持ち弾丸数も多くないから、無駄には撃ちたくない。
……それに、殺人は怖くない……はずないもの……。
「カイトは凄いんだから! 拳銃も使えるし、暗殺者も簡単に返り討ち出来るんだもん!」
「確かにカイトが居なきゃ、今回は危なかったな。俺は暗殺者に気が付かなかったし」
ティナは褒めちぎるし、レオンも僕に尊敬の目で見てくるのが恥ずかしい。
僕が暗殺者の動きを読めるのは、師匠が暗殺者でもあったから。
僕の戦闘スタイルは暗殺者、忍者的な動き。
自分が出来る事は、敵もやるって事を知っているだけ。
後、銃器での戦い方は、ルークスのデータベースにあったCQC等を勉強した。
「……僕は暗殺者と同じ様な技能持ちだからね。だから、敵の手の内や殺気は読めるんだ……」
「おい、湿っぽい顔しなくても良いんだよ、坊や。今は危機を回避できたと誇りな!」
姉さんは、バチンと僕の背を平手で叩いて励ましてくれる。
態々ウインクしてくれた事を見るに、僕が殺人の恐怖で震えているのをお見通しなのだろう。
「はい、姉さん。ありがとうございます」
深夜ながら騒然としている宿屋の中、僕等は食堂にあつまり相談をしている。
暗殺者を返り討ちにしたこと、このままでは僕たちが只の殺人者となるので、宿屋のおやじさん経由で街の警備兵に報告した。
暗殺者共が、不法侵入かつ武器を持って明らかに宿泊客を害してくる様子であった事、更に姉さんやレオンらA級の冒険者からの証言もあり、今回の僕の殺人は正当防衛となった。
なお、僕が撃ち殺した暗殺者は放火用の道具も持っていて、作戦失敗時には宿屋に放火して、完全に無関係な者ごと殺す気だったのが想像出来る。
……後、頭二回強打した暗殺者。あれでも死んでなかったらしく、気絶状態のまま警備兵に捕まって引きずられていったよ。まあ、雇い主守るために何も言わずに自決するんだろうけどね?
「しかし、カイト。よく襲撃が廊下から来るって読めたな?」
「部屋の窓は鎧戸含めて念入りに魔法でも封印していましたからね、レオン。廊下の窓は簡単な閂で止めているだけ。なら、簡単に侵入できる方から誰でも入るでしょう」
僕は姉さん達の部屋を含めて、暗殺者対策を宿屋に入る度に行っている。
こと部屋の窓は危険なので、寝る前に必ず魔法による<鍵掛け>を施錠に追加でやっている。
……<鍵掛け>と<鍵開け>魔法は師匠から教わっておいて良かったよ。どっちも潜入には必須魔法だし。
「やっぱりカイトは凄いのぉ!」
「ふん! ま、まあ坊やが凄いのはあたしも認めてあげるわ。暗殺者は、あたしの事も一緒に殺す気だったようだったし」
「ということで、アンタもこれでアタシ達と一連托生さ。今後ともよろしく、ネリー」
「ふん! しょうがないわね。あー彼氏もいないあたしは『不幸』だわ」
ティナが再度僕を褒めるのは良いとして、ネリーさんも少しは歩み寄ってくれる気になったのは良い傾向だ。
姉さんからの誘いにもイイ返事をしてくれているし。
「カイト、俺達も一緒に学都に往こうと思うんだが、良いか? 別行動をする方がお互い危険な気がするぜ」
「え、大歓迎ですよ! レオンには逆に僕からお願いしたいところなんですけど」
<ワタクシとしてもありがたく思います、レオン様。今後とも、カイト様の事を宜しくお願い致します>
レオンが、僕達と一緒に学都カールスブルグへ行くと言ってくれた。
ルークスも同意してくれているが、信用できる強い仲間が増えるのに、悪い事など無い。
「えー! じゃあ、あたし、ティナちゃんをもっと抱っこ、触りっこ出来るんだ!」
「マルテお姉様。変なところ触るのは少し遠慮して欲しいんですけどぉ。わたし、恥ずかしいし、くすぐったいんですもん」
あちらでは、マルテがティナを再び抱擁している。
……変なところって何処なのか。僕の精神衛生上は気にしない方が良いよね。うん。
「じゃあ、落ち着いたら仮眠して、明日には出発しようや!」
「はい、姉さん」
僕はまだ震える手を机の下に隠し、姉さんに元気に答えた。
<カイト様、ご無理をなさっていらっしゃいます。殺すのは平気と申されてますが、そんな簡単に殺し合いに慣れるものではございません。以前、野盗を殺した後は、しばし食事もとられていませんでしたから>
心配なところですよね、ルークス君。
では、明日の更新をお楽しみに。




