第22話 僕、暗殺者を待ち構える。
「じゃあ、とりあえずの処は学都カールスブルグへ行くのかい?」
「はい、レオン。ティナにかかった呪いを解呪するには、呪いに詳しい魔術師を頼るのが間違いないとの事ですから」
領主のメイドだったネリーさんも一緒に、夕食を取っている僕たち。
レオン達と明日以降の行動計画を話し合っている。
「そうね。あたしの師匠も学都に住んでいるから、ティナちゃんに紹介できるかも?」
「そうなの、マルテお姉さま? だったらお願いします」
「うん! 可愛いティナちゃんの為なら、そのくらいお安い御用よ。後、使いたい魔法有ったら教えてあげるね」
「ほんと?」
「本当に決まってるじゃん。可愛い子には御褒美もあって良いに決まってるのよ」
向こうではティナとマルテが仲良く触りっこしながらキャピキャピしている。
一昨日までは敵対していたのに、今は姉妹の様。
元々、面倒見が良かったマルテ。
下に妹弟が多くて、小さい子の相手は慣れていると聞いている。
レオンとも、どちらかというと面倒な弟的、母性本能から恋愛になったらしい。
……マルテ、実家の食い扶持を減らすのと、仕送りをするために『スキル』を生かして魔法学校で冒険者しながら一生懸命勉強して魔術師になったそう。ティナに良いお姉さんが、また出来たね。
「今晩、一緒に寝ないティナちゃん? カイトもたまには一人で寝かせてあげたいし、ね?」
「うーん。今日くらいは良いかな。でも、わたし抱きつき癖あるけど良い、お姉さま?」
「うん、大歓迎よ。さあ、部屋に入ったらゆっくり身体を磨いてあげるね。お姉さん、可愛い子を触るの大好きだし」
……あれ? マルテにそんな趣味有ったっけ? でも、僕も良くなでなでしてもらい、レオンから嫉妬された覚えが……。
「はぁ。マルテの悪い趣味が出たか。ティナちゃんには悪いけど、俺も今日は解放されるよ」
「え、レオンも困ってるの?」
「大きな声じゃ言えないが、毎日アレは流石にきついよ」
「僕みたいに我慢しなきゃならないのも、レオンみたいに我慢しちゃダメなのも苦しいですね」
僕とレオンは、お互い妙な恋人を持って困っている様だ。
「何よ? アンタラ、ちょっと前まで敵だったのに仲良しなんて気持ち悪い! ああ、あたしって『不幸』だわ」
「そういうアンタも、今は一緒にご飯食べてるじゃないかい?」
「ん」
文句を言いながらも料理には手を付けて、お酒も良いペースで呑んでいるネリーさん。
グローア姉さんとヴィリバルトに、ツッコミを言われている。
「アンタ達ってどうして、そんなに気楽でいられるのかしら? 今後も領主テオバルト様は貴方達に刺客を送ってくるに違いないわ。プライドを傷つけられたアイツは、絶対手段を選ばないもの」
「どうだろうねぇ、ネリー。もう冒険者ギルドは、テオバルト様の仕事は受けないだろう。近隣の盗賊ギルドも不干渉。残るは手持ちの暗殺者くらい。いいとこ数名くらいしかいないだろうし。まさか、大公様に嫁を盗まれたので取り返す兵を貸してと泣きつくのは流石に無いだろ?」
冒険者ギルドには姉さんとレオン、A級冒険者二人の署名付きで今回の事態の報告書が送られている。
僕やティナも一筆書いているので、冒険者ギルドから僕たちへの追跡者が送られてくる事は今後なくなるだろう。
……冒険者ギルドも政変でかなり犠牲者が出たから、大公には反発しない程度の関係性を保っているんだ。まして下品で嘘つきな悪徳領主とは一定の取引以上はしないだろうね。
「それはその通りだろうけど……。でも、お抱えの暗殺者、凄腕は二人程いたはずよ?」
「情報ありがとうございます、ネリーさん。これで油断せずに対応しますね」
「え!? そ、そんなつもりで話した訳じゃないわ、坊や。だって、戦乱で孤児になったあたしは領主様にお手付きしてもらい、それから生活が良くなって、『不幸』から遠ざかって、それから、それから、……」
急に慌てて、自分が領主に良いようにしてもらった事を言い出すネリーさん。
でも、その眼には涙が潤んでいるから、あまり良い経験でも無かった様だ。
「ふ、ふん。精々、殺されないように注意する事ね。もう、あたしもアソコには帰れないんだから……。くすん……。ああ『不幸』だわ」
「今日のところは、嫌な事忘れて飲み明かそうや。ネリー、結構いける口だろ。今晩はアタシの部屋で一緒に呑もうや」
「ふん。只酒ならいくらでも呑んでやるわ!」
姉さんは、僕とレオンにウインクをして絡み酒になりつつあるネリーさんを引きずって二階の自室へ連れ込んでいる。
「さあ、今日は女子会ね、ティナちゃん」
「うん、お姉さま」
あちらでは、ティナとマルテが手を握って階段を上っていく。
ティナは、僕に手を振りながら二階へ向かっていった。
「では、残った男らはもう少し飲んでから寝ますか?」
「だな」
「ん!」
僕等は、周囲の気配を気を付けながら呑んだ。
<カイト様、お話にあった連中。近隣にいますね>
「やっぱり。師匠と似た気配があったからそうだと思ったよ」
◆ ◇ ◆ ◇
深夜の宿屋の屋根の上。
そこには二人の黒ずくめな男が居た。
片方、痩身の男は、月明かりを頼りに二階廊下の窓に黒塗りナイフを差し込み、閂を外す。
そして窓のヒンジ部分に油を刺し、音をたてないようにして開ける。
二人目、がっちりとした体格の男は、目から白いスキルオーラを光らせて壁や鎧扉を凝視する。
まるで、その内側が透視できるかのように。
痩身の男は、開いた窓の中に顔を突っ込み誰もいない事を確認後、宿屋内に忍び込んだ。
……必殺ターゲットは少年とメイド。いらんことを知っている者全員の口を封じる。姫は回収できるなら回収、不可能なら殺せだったな。
痩身の暗殺者は、天から授けられた「消音」スキルを使い、真っ暗な廊下をかすかなオーラを薄光らせて音もさせずに歩く。
そして、あらかじめ調べておいた男達がいるであろう部屋に向かう。
部屋扉の前に立ち、鍵穴に油を刺して後に細い針を差し込む。
彼はスキルの効果で、音も無く鍵を解除する。
そしてゆっくりと扉を少し開けて、暗殺者は中を覗いた。
……酒臭い……。これなら簡単に殺せるな。
部屋の中には、三人の男らが酔いつぶれて寝ているのが見える。
暗殺は通常余計な人間を殺さないのだが、今回は皆殺し。
全員関係者であり、口を封じる必要がある。
暗殺者は黒塗りのナイフをぎゅっと握り、そのままドアを開けた。
「ぐがぁぁぁ!」
しかし、突如上から降ってきた水入りの木製タライをガツンと頭に喰らい、暗殺者は悶絶した。
「ざーんねんでした。お馬鹿なテオバルトの暗殺者さん?」
いきなり部屋が明るくなり、暗殺者は三人の男達に囲まれた。
<作者様。もしかして、全部仕込みだったのでしょうか? ティナ様がカイト様のお部屋に居なくて良かったです>
そのあたりは、さてさてです。
<しかし、古のドリフギャグで落ちてくるのは、空の金盥。水が入った物は危険、必殺になりかねないですぅ>
映画「ホームアローン」とかではペンキ缶、古の学園ドラマでも水入りのバケツが落ちるイタズラもありましたが、あれも結構危険。
水を被るだけなら良いのですが、中身入りバケツ本体は凶器。
なので、良い子は絶対にマネしないでね。
<ワタクシ、ルークスとも約束ですぞ!>
では、明日の更新をお楽しみに!
<ブックマークも宜しくなのです!>




