第20話 僕、ティナのご機嫌を取る。
「……ん? 俺は一体?」
「あ、やっと目が覚めた。ずっと気を失ってたままだったから、あたし心配だったんだよぉ」
「ん」
「言っただろ。出血量は大した事なかったから、後はいつ意識が戻るかだけだって。一晩で起きたのなら問題無しさ」
レオンは、自分がいつのまにかベットの中に居たことに気が付く。
また部屋の中が日光で明るいのにも気が付いた。
「俺は……?」
「レオン、覚えていないの? わたし、心配したんだからぁ。あそこまでカイトやお姫様が強いなんて、あたし聞いていなかったじゃん」
レオンが身を起こすと、そこにマルテが泣きながら抱きついてくる。
彼女をあやしながら周囲を見、レオンは室内にパーティ以外の者、ドワーフ族神官戦士グローアが居る事に気が付いた。
「アンタ……」
「これはアフターフォローさ。坊や、カイトが泣きそうな顔でアタシに頼むんだもの。レオンを助けてって。坊や、もし間違って急所刺してたらレオンを殺していたって、夕べは酷く落ち込んでたものね」
ドヤ顔でレオンに話しかけるグローア。
会話内容から、レオンは自分がどうやって負けたのか思い出した。
また今は、戦った翌日の朝であることにも気が付いた。
「……そうか。強くも無いのに偉そうだったのは俺だった訳か。本当は心配していたはずのに、あんな酷い事カイトに言って決闘して負けて、その上に命まで助けてもらったのかよ、俺は……」
「まあ、気を落とすなや、レオン。今回はアンタはまんまと坊やの挑発と作戦にハマっただけさ。おそらく単純な攻撃力はアンタの方が圧倒的に上。坊やとアンタでは戦い方が全く違うだけだね」
グローアはレオンを慰めるように話しかける。
「……それで、カイトが居た頃のパーティは強かったのか。カイトを追い出してから、仕事で何回か苦戦した事があった。アイツは俺の見えないところにいつも居たが、背後で俺達のフォローをしていた訳か……」
「そういう事さ。知性の無い魔物相手ならアンタの剛力の方が上さ。ただ知性のある相手なら坊やの方が得意、それだけの事」
「あ!それで以前は、あたしの処にも敵が来なかったんだ。最近はヴィリバルトが走り回っていたのは、カイトが抜けた後のフォローをしていたのね」
「ん」
冒険者パーティ「紅蓮」において、カイトは遊撃手、そして探索における斥候役として活躍をしていた。
あまり目立たないように、しかしパーティの役に立つように動いていた。
今更ながら、カイトがパーティで重要な役目をこなしていたのを実感したレオンとマルテだった。
「それで、俺を見事に倒したカイトは、何処にいるんだ? まさか、まだ落ち込んでいるのかい?」
「いや。今はお姫様、ティナちゃんのご機嫌取りに必死だと思うよ」
<ええ。甘えん坊お嬢様のティナ様には困ったものですね>
レオンは気になってカイトの同行を聞くが、グローアとルークス共に苦笑をしながらカイトの状態を説明した。
◆ ◇ ◆ ◇
「ねえ、カイト。わたしをもっと褒めてよぉ」
「うんうん、ティナは凄いね」
「そんな心が乗っていない言葉じゃ嫌なのぉ。もっと心からわたしを褒めてよぉ!」
「そ、そんな事を言ったってぇ」
<カイト様、がんば!>
レオン達との戦いが終わり、宿屋に戻った僕たち。
甘えん坊なティナと添い寝をした翌朝になっても、ティナはまだ僕にくっつく。
そして、甘い声で褒めてと投げかけてくる。
「どうして、こんなに僕に甘えてくるの、ティナ?」
「だって、カイトが強いところ見えたし、そのあとのうろたえ方が可愛かったんだもん。カイトって真剣な顔はカッコいいし、慌てる様子がとっても可愛いくて大好きなのぉ!」
<まだまだカイト様がお可愛いのは、ワタクシも理解しております>
ティナが何を言いたいのか、僕には理解不能だ。
僕が慌てるのと、ティナを褒めるのがどう関係するのだろうか?
……でも、なんでルークスまで僕をもて遊ぶんだろう?
「で、どうして今更ティナを褒めるの? ティナが凄いのは当たり前だけど?」
「……カイト、わたしの事見てくれないんだもん。夕べは抱いてくれたけど、勝負の後はレオンの事心配ばかりして、わたしの事を放置してたもん!」
<まあ、抱いたと言ってもただの抱擁ですけどね。エッチ、物理的距離マイナスは、まだ禁止ですので>
……つまりレオンに嫉妬したの、ティナは?
「えっと、ティナはレオンに嫉妬……」
「なぁにぃ! 何か今言ったのぉ、カイトぉ?」
……あ、あかん。嫉妬は地雷ワードだ!
<カイト様、言動にはご注意を。内容次第では核地雷級です>
「べ、別に何も言っていないよぉ? で、ティナを放置していたのはごめん。だから、夕べも抱っこして寝てあげたでしょ?」
「それとこれは別なのぉ! カイトは、わたしの事をずっと見てて。そして褒めて! わたしもずっとカイトの事を見てるし、褒めるから」
……つまり、僕はティナから永久に離れられないのね。まあ、それは構わないし、嫉妬して拗ねるティナも可愛いから良いや。
「……はいはい。分かりましたよ。ティナは可愛くて凄いね」
「もー。だから、そういうやる気の無い褒め方じゃ、わたし嫌なのぉ!」
<カイト様、お早めに対処を>
朝食後の食堂で、なおも僕に文句をいうティナ。
このままずっとくっついたままでは困るので、僕は周囲を見て最終手段に移った。
……食堂のオヤジさん以外は誰もいないよね。
「何? はやくわたしを褒めて……ん! んぅぅ、むぅぅ、ちゅぅ」
僕は煩いティナの口を、自分の唇で塞いだ。
ティナはびっくりしていたけど、直ぐに目を閉じ僕に抱きついてキスに集中しだした。
……はぁ。これって世間でいうところのバカップルじゃない?
僕は、午前中からラブシーンをしてしまう自分に半分呆れながら、ティナの唇を堪能した。
<親父様、申し訳ございません。このバカップルはどうにもならないです>
公衆の面前で何やっているんですかねぇ、このバカップル共は。
緊張感というものが皆無ですけど。(笑)
では、明日の更新をお楽しみに!




