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第2話 僕、幼馴染な姫様の事を思う。

「はぁ、ホント明日からどうしようかなぁ」


<今日の事は今日の事。過ぎてしまった過去は変えられません。明日になってから考えましょう>


 僕は夜が更ける前に少し街はずれにある、やや安めの冒険者宿に入った。

 今晩の宿代を支払い、そのまま一階の薄暗い酒場で一人寂しく麦酒(エール)をあおっている。


<カイト様は、地球では未成年の十六歳。まだ飲酒が許可される年齢ではございません。この世界では成人かつ家系的に飲める方だとはいえ、ヤケ酒はおやめくださいませ>


「もー、さっきから煩いなぁ、ルークス! 今日くらいは飲ませてよぉ!」


 僕の胸元で、(うるさ)い小言を日本語でつぶやく「彼」。

 幼少期、僕がこの異世界に来てからずっと一緒に過ごしてきた量子演算、人口精霊トップダウン型AIルークス。


 僕が生まれる十年程前に古代遺跡にあった「(ゲート)」により偶然、異世界アモエヌスと繋がった地球。

 伝説やゲームそっくりのアモエヌスの存在に、地球側も酷く困惑をした。

 最初はお互いに不幸な武力衝突もあったものの、政治的な話が出来る存在とお互いに理解。

 その後は、協力関係になった。


 ……地球側の科学技術、異世界側の魔法と生物。お互いにwin-winで交換できるものがあったからね。エルフ族のDNAマッピングデータなんて、長寿を望む地球富裕層からすれば、涎が出る程欲しい情報だろうし。


 異世界にある魔法技術と地球の科学技術、それはお互いに多大な利を生み出して、発展をしていった。

 その一環で、人口知性を生み出す研究が異世界で行われた。


 異世界で行使される魔法の中に、人工的に精霊、自立思考する「何か」を生み出す技術があったからだ。

 そして、異世界で生まれたのがAIルークス、僕は父親の仕事の関係でルークスのアクセス権を持っていた。


<カイト様とは既に十年以上のお付き合い、貴方を守るのが今のワタクシの仕事ですので>


「はいはい。父さんや師匠の遺言じゃ、しょうがないや」


 父は国連宇宙局高等弁務官、ここ異世界には地球の外交窓口として家族と共に赴任してきた。

 僕は地球生まれ、妹は異世界で生まれ、しばし幸せな生活を過ごしていた。


「あの頃に出会ったんだよね、【ティナ】とは」


<ああ、あの姫様。公爵令嬢【フローレンティナ】様ですよね。ちゃんと幼少期の、あのプロポーズの際の写真は残っていますので、今現在のお姿も公爵ご夫妻のお姿より計算できますよ? おそらく凄い美人に……>


「それはいいよ……。だって、あの子が……、ティナが今も生きているはずなんて無いから……」


 ティナは父と交流があった公爵家の娘で、生きていたら十四歳。

 僕とは同じような年齢ということで出会い、そして友達になった。


「カイト。あたち、貴方のお嫁さんになるの!」

「うん、ティナ!」


 舌足らずながら、一生懸命に日本語で話しかけてくれたティナ。

 彼女の、絹糸の様な栗毛と宝石のような瑠璃(るり)色の瞳が、今も僕の心の中に残っている。


 しかし、幼い幸せな日々は、八年前の政変で終わりを告げた。

 諸外国の力を借りた大公が突然武力蜂起、王家に嫁いでいた自らの娘と孫、政変前に事故死した第四王子と大公の娘の子以外の王族を皆殺しにした。


 そして、地球からの圧力を避けるために稼働中の「異世界門(ゲート)」を制圧・破壊、二度と地球との交流が出来なくなった。

 大公は、まだ二歳にもならない孫を王として擁立し、摂政役として八年後の今も君臨している。


 ……今になれば政変の半年程前にあった第四王子の事故死も怪しいよね。王家の血を継ぐ孫を王とする事で諸外国からの圧力を抑え、更には自分が背後から王国を操るんだから。


 その際、ティナの両親のような王族に関係深かった貴族たちは全員粛清。

 僕は、地球への脱出に成功した母や妹とは生き別れ、父とは死に別れをした。


お父上(マスター)勝男(かつお)様の事は残念でした。あの時、私に物理的な力があれば良かったのですが……>


「もう昔の事だよ、ルークス。お前の言葉じゃないけど、明日からの事を考えなきゃね」


 父は地球代表として最後まで異世界に残り、出来る限りの地球人を保護、地球へと逃がした。

 僕はティナの事が気になって無理を言い父の元でいたのだが、父は僕を庇う形で大公派に捕縛され、その後公開処刑された。

 そして、僕は異世界に一人取り残されたのだった。


「あの時、師匠に出会っていなければ僕は生きていなかったよ」


<お師匠様、【テオドル】様は、素晴らしい方でした。あの方が今、此の世にいらっしゃらないのは実に惜しい事です>


 父の護衛として王家から使わされていた者、それが師匠テオドル。

 師匠は父と友人となり、僕は師匠に昔から随分可愛がられた。

 そして僕は、異世界の事を師匠から色々教えてもらった。


「テドオル。これは僕の一生の願いだ。カイトを守ってくれ! ルークス、テオドルのサポートを頼む」

「カツオ……。ああ、俺に任せておけ!」

<了解しました。マスター>


 政変時、多数の追っ手に追われる中。

 僕は父から引き離され、師匠と共に逃げた。


「おとーさん!」

「カイト……。お前は生きるんだ……。必ず生き残って幸せになるんだよ。お父さんは、お前の幸せを祈ってる!」


 それが、父との最後の会話だった。

 父が公開処刑された後、僕は王都を遠く離れたシェレンベルク領内の田舎町で師匠とルークスに愛され、鍛え上げられて成長した。


「カイト……。お前には、俺の持つ技術を全て伝授した。確かにお前には『スキル』は無い。だがな、俺やルークスが授けた知識と知恵。更に鍛え上げられた技術があれば、そんじょそこらの奴らなんて負けはしないさ」


「師匠……」


 死の床で、師匠は僕に話しかける。

 元々高齢だった師匠、僕が成人、十五歳を迎える直前に倒れた。


「それでも、己の技術には溺れるなよ。そうなったら馬鹿な『スキル』持ちと同じになり下がる。いつでもよく考えて動け……。ルークス、俺はもう長くはない。坊や、カイトの事は頼むぞ」

<……了解しました、テオドル様>


「師匠……。テオドルおじちゃん……」


「もー泣くなよ、坊や。俺はな、坊やと一緒に暮らせた七年間、凄く幸せだったんだぞ。王家の隠密諜報活動をしていた関係で家族も持てず孤独だった俺がこんな可愛い息子を得て、更には自分の持つ技術(テクニック)を全部伝授できた……。そして、最期を泣きながら看取ってくれる。こんな幸せな事なんて他にはないさ。まあ、カツオ殿には悪いがな、ははは……」


 最後まで、僕を可愛いがり時折厳しくも愛してくれた師匠。

 死の床についてまでも僕の頭を撫でながら色々語ってくれた数日後、師匠は静かに息を引き取った。


 師匠を家のそばに埋葬した僕、その後師匠直伝の技術を使うべく地方中央都市シェレンベルクへと向かった。

 そして僕は冒険者ギルドに加入し、今がある。


 ……今日も酒場で随分と怪訝(けげん)な顔されたけど、ギルドカード見せたらやっと納得されたのは、しょうがないか。


 日本人であり、更には母親似な女顔で華奢な僕。

 日本人同士でも実年齢に見られないのに、地球で言うところのゴツくて濃い顔の人が多い異世界。

 ここでは、中性的な僕は女の子に見られたり、子供扱いされるのが日常だ。


「はぁ。明日もあるし、ヤケ酒はこのくらいにして部屋に帰ろうか」


<ええ、ワタクシも同意見です。呼気アルコール濃度が少々高いですので>


 愚痴っぽいルークスを半分無視し、僕はカウンターでチップ込みの小銭を支払い、部屋を取っている宿屋二階へ上がろうした。


「え! 領主様が大公様から貢物として年頃の娘、それも成人前の少女を(めかけ)、第二婦人として貰うのか?」

「ああ。なんでも王家に近い血筋、【キッツビューラー公爵家】のお嬢さんだとか?」


 そんな時、僕の耳にテーブル上の燭台に照らされた兵士らしい人達が話し合っている会話が入ってきた。


「あれ? 王族に従う貴族は政変時に全員粛清、殺されたはずじゃ?」


「それがな、女の子達は美人ぞろいで利用価値が高いからって、貴族だけの孤児院へ放り込まれていたんだってさ。今度、王都から領主様に送られてくるのは、なんと十四歳の令嬢、フローレンティナ様だって」


 ……え! ティナが生きているって!? それに今度領主の妾にされるって、どういうことだよぉ!?


「すいません。そのあたりのお話を詳しく聞かせて頂けませんか?」


 僕は兵士達のところに向かい、彼らの机の上に銀貨を一枚置いて話しかけた。

 続きは約20分後です。

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