第17話 僕、追跡者に見つかる。
「そうきたか。ごめんね、二人とも。アタシが動き過ぎたから、冒険者ギルド経由で居場所がバレちゃったみたいだよ」
「いや、僕も迂闊でしたね。僕と姉さんが一緒にパーティを組んでいたら、いつかはバレちゃいますものね。でも、追跡者が貴方達か……」
「何? こんな奴らは、お姉さまやカイトの敵じゃないでしょ? わたしも、一緒に戦うよ!」
僕たちは、罠にハマり「敵」、冒険者ギルドからの追跡者が待ち受ける場所に誘き寄せられたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「お姉さん、この仕事はどうかい? 力自慢なお姉さんにぴったりだよ? 鉱山跡での魔石回収さ」
「冒険者ギルドが積極的に仕事の斡旋とは何か怪しいねぇ、兄ちゃん。まあ、今は他に仕事も無いし、今日はこれにするか。坊や、ティナちゃん。この仕事を受けるよ。これで、この街での仕事も終わり。明日には学都に出発するね」
「はい!」
僕たちは、冒険者ギルドで仕事を探していた。
この辺りは学都に近い関係で、治安は悪くない。
なので仕事も魔物討伐や商隊護衛よりも、学都の学生や先生からの護衛依頼、採取系が比較的多い。
……魔石採掘は、割と一般的な仕事だね。鉱山跡やダンジョンだと、学生さんだけじゃ危険な事も多いから、護衛とか採取を冒険者ギルドに頼む事も多いんだ。
そんな感じで、僕達は何も疑わずに郊外にある鉱山跡に行った。
そして、そこで見知った顔に再会したのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「カイト、久しぶりだな。しかし、大層な事をしやがって! 俺達はお前の事を心配していたんだぞ?」
「カイト、悪い事は言わないわ。お姫様を領主様に返すの」
「ん」
僕等の前に居るのは、冒険者パーティ「紅蓮」。
かつて僕が加入していた、勇者候補で二重スキル持ちのレオンが率いるA級チームだ。
「レオン、僕とティナを見逃してくれないですか? 僕は貴方達とは戦いたくないんです」
「何、甘い事言ってやがる、カイト! お前は領主に対して妻を無理やり奪うという大罪を犯した。そして領主には、お前を殺してでも姫様を回収してこいと俺達は頼まれている。逃がしてやる義理は無いぜ。さっさと投降しな」
「レオン、ケンカ腰じゃ話は付かないわ。一体どうしたの? 妙にカイトに釣っかかっちゃって? カイト、早く降伏して! あたし達に姫様を渡せば、貴方の事は逃がしてあげても良いのよ。レオンも、さっきまでそれで良いって言ってくれてたし」
「ん……」
レオンは、まだ僕とケンカしたことを少々引きずっている様だ。
マルテは、僕に命を助けるからと降伏勧告をしてくれ、無口なヴィリバルトも、彼なりに僕へ降伏勧告をしてくれる。
「貴方がた! あの坊やは殺すか、少なくとも領主様の前に差し出すのです。領主、テオバルト様はあの坊やをひどい目にあわさねば許さないとおっしゃっています!」
「煩いぞ、メイド風情が! パーティの方針は俺が決める。俺が受けた仕事は姫様の回収。カイトをどうしようと俺達の勝手だ。それとも、俺に指図出来る程にオマエは偉くて強いか?」
パーティの背後にいる旅装束の女性、よく見ると領主館でティナの面倒を見ていたメイドさん。
どうやら追跡者のお目付けとして送られてきた様だ。
……ソバカスと巨乳が印象深かったお姉さんだよね。
「坊や、どうする? 坊やの事だからアイツらは殺したくは無いよな。でも、逃げるには倒すしかないぞ」
「カイト、こんな弱そうな奴らなんて問題無いでしょ?」
「もー、二人とも好き勝手言うんだから」
<しかし、カイト様。ここは戦うしか選択肢は無い様です。追加で追跡者を送る余裕は領主には無いでしょうし。更に殺さずに返り討ちにすれば、ますますカイト様の評判もあがります>
最近、噂話や吟遊詩人によって悪徳貴族から幼馴染の姫を救う少年の話は語られている。
それは言うまでも無く、僕とティナの話。
話の中で、貴族の事は横恋慕したエロジジイと言われていて、僕とティナは聞いて笑ったものだ。
「オイ! 俺を殺さずに勝てるだとぉ、カイト!? いつも俺を舐めた事を言いやがって。俺が、どれだけお前の事を心配していたと思ってんだぁ? マルテ、ヴィリバルト、それにメイド。お前らは姫様を逃がさないようにだけして、手出しするな。カイト、一騎打ち、決闘だ。俺との勝負を受けるか?」
「……ふぅ、しょうがないなぁ。姉さん、ティナを頼みます。ああ、レオン、勝負受けましょう!」
僕はため息ひとつついて、レオンとの決闘を受けた。
「はいよ、坊や。じゃあ、アタシは光神の神官戦士と遊ばさせてもらうよ。秩序側の神官戦士同士、こういう機会じゃないと戦えないものね」
「カイト、頑張って! わたしは、魔術師のお姉さんの相手しちゃうね」
姉さんの行動までは理解するが、向こうの捕獲対象であるティナが戦うのは正直どうかと思う。
「え、どうしてお姫様が、あたし達を襲うの? ちょ、話が違うじゃん。お姫様は、無理やりカイトに連れてこられてきたって話じゃないの?」
……さては領主が嘘を言ったんだね。ストックホルム症候群だったっけ? 被害者が加害者に好意を抱くのって。マルテが混乱するのも、しょうがないよ。まあ、今回は違うけどね。
「しょうがねぇ。姫様を怪我させるなよ、マルテ。ヴィリバルト、そこのドワーフ女はこの辺りじゃ最強って話だ。勝てなくても良いから、俺がカイトに勝つまで時間稼ぎをしろ」
「ん!」
「ふん! もう、アンタ達好き勝手しちゃって。そこの女魔術師、フローレンティナ様には絶対怪我はさせないでよ! あー、あたし『不幸』だわ」
メイドさんも混乱状態なのは、しょうがあるまい。
そして3VS3の戦いが開始された。
◆ ◇ ◆ ◇
「カイト。いつも俺を半分無視して偉そうに言いやがって。俺はな、ずっと舐めくさっていたお前の事が気に入らなかったんだ。今日こそは、お前をぶちのめしてやる! そして根性を叩き直す」
「はいはい。僕はレオンの事は嫌いじゃなかったですよ。でもね、ティナを渡すことは絶対に出来ない。だから今日は勝たせてもらうよ!」
僕とレオンは、睨み合い対峙する。
お互いに五歩半くらいの間合いだ。
剣士系冒険者では一般的な装備、部分金属鎧とマントを纏い、視線を遮られるのを嫌って金色の髪を隠さずヘルメットを被らないレオン。
全身をスキル発動のオーラでぼんやりと光らせながら、両手で片手半剣を上段に構え、青い眼で僕を睨む。
片や僕。
右手に小太刀、左手には逆手持ちで高周波ナイフ。
鉢金付きの布製頭巾下にはケブラーヘルメット、黒い防刃ジャージに小手など部分的な金属装甲を追加したものを纏う。
……よく考えたら、僕の装備って忍者っぽいよね。
「いくぜ、カイト。はぁぁ!」
離れた間合いから、レオンは振りかぶった剣を振り下ろす。
そして剣閃に合わせて風と炎の刃が、僕に向かって撃ちだされた。
<戦闘中はワタクシ、口出しできませんのでカイト様達の勝利を願って、こちらで応援観戦致しますね。作者様>
どうして私の作品には、第四の壁突破する子が増えるんでしょうかねぇ。
では、明日の正午をお楽しみに!




