第15話 僕、ティナと仲直りする。
「カイトぉ! 助けに来たよぉ!!」
僕は危機一髪のところ、ティナに助けられた。
目の前まで迫っていた大型甲虫が、ティナの火球魔法で燃え上がった。
「ティナ!」
背中を強く打ったため身体が痺れて動けない僕、ティナが助けに来てくれたのに驚いた。
……森に来るなんて何も言ってなかったのに、どうしてこの場所が?
「まったく無謀な坊やだな」
<ワタクシが、救援をお二人に願わなければ危なかったですよ? 政変以前に打ち上げていましたGPS衛星が生きていて何より。困ったカイト様ですね>
僕はグローア姉さんに神聖魔法で治癒をしてもらい、なんとか身体を起こす。
「ふん!」
スキルオーラで桃色に輝くティナは、大型甲虫の突撃を宙返りジャンプをして回避し、上から甲羅の隙間を剣で突き刺す。
そのまま全体重を片手剣に乗せて深く貫き、長めの柄を両手で握り捻る。
「よいしょ!」
ティナは剣を虫の背から引き抜き、その勢いで更なる甲虫の突撃を転がりながら避ける。
そしてすれ違いざまに、襲ってきた甲虫の気門、柔らかい横腹を切り裂いた。
「す、凄い!」
ティナの体術と剣術は、もはや僕と同格か、それ以上。
その動きは、どこか僕の動きに似ている。
まるで僕の動きを、見よう見真似で学んでいるみたいだ。
この間、コツを教えた身体強化魔法も完全に使いこなしている。
……これが『天才』スキル! 凄いや、ティナ。
「ティナちゃん、凄いねぇ。多分、今なら坊やと良い勝負だ。このままならアタシの出番は無いよ」
中距離は火炎弾、接近戦は体術を絡めた剣戟。
見事な魔法戦士っぷりだ。
「はぁはぁ……。あれ?」
しかし、突然ティナの動きが止まった。
スキルオーラが消え、力が抜けたように座り込み、動かなくなった。
「危ない!」
僕は飛び出して、ティナに覆い被ろうとした甲虫を高周波ナイフで両断した。
「ティナ! 大丈夫? どうしたの!?」
「わたし、急に力が抜けて……」
大きく肩で息をし、視線も定まらないティナ。
もしかして、虫から毒でも喰らったのか?
「よいしょ! あ、こりゃ魔力とスタミナ切れだね。ティナちゃん、坊やを助けに向かう時から全速力だったし、間に合ったのもあって力が抜けちゃったか。しょうがない、後はアタシが片づけるよ。坊やはティナちゃんを守れ!」
「はい!」
……そうか! 急いで走って来てくれたし、早く動くために身体強化魔法を全力で使いっぱなしだったんだ。それで、魔力とスタミナが切れちゃったから動けなくなったんだね。そんなに無理して僕を助けてくれたんだ……。
僕達を守る為に飛び出していったグローア姉さんが、銀色の戦斧を振り回すたびに大型甲虫が吹き飛ぶ。
遠距離から飛び掛かる敵も、姉さんは気弾魔法で吹き飛ばす。
「あれが姉さんの戦い方なんだ……」
「カイトとも違う戦い方だけど、凄いよね。わたし、カイトの真似っこは出来るけど、お姉さまのは真似出来ないわ、うふふ」
僕は腰が抜けたティナを背中から抱きしめ、姉さんの豪快な戦いを見ていた。
「ははは! そこで二人は仲直りしてな。さあ、大暴れするよぉ!」
姉さんは、吹き荒れる鋼の旋風となって、甲虫の群れを殲滅していった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ティナ、今日はひどい事を言ってごめん」
「ううん、わたしも言い過ぎたわ。カイト、ごめんなさい」
薄明かりな部屋の同じベットの中、今日は向かい合い抱き合う僕ら。
お互いに謝りあう。
「僕、ティナを大事に思うばかり、ティナを危険から避けたいと思っていたんだ。だから、ティナが戦うのが嫌だったんだよ」
「もう、過保護だよぉ。わたしもカイトの役に立ちたかったのよ。だから、怖くてもカイトと一緒に戦うの。だって、エロ伯爵に捕まった時、わたしは何もできなかったから……」
僕がティナを大事に思うように、ティナも僕の事を大事に思ってくれていた。
しかし、お互い相手の意見を聞かず、相手の思いを無視して勝手に動いてしまったのが、今回の失敗だ。
「ごめんね。ティナの事を思っていたけど、ティナがどう思うかまでは、考えていなかったよ」
「わたしも、カイトがそこまでわたしの事を思ってくれていたのに、気が付かなかったの。ごめんなさい」
お互いの体温と匂いを感じ合いながら、僕たちは抱き合う。
「もう謝りあうのは辞めない、ティナ?」
「そうね。わたし達お互いに愛し合って暴走しちゃったんだものね」
ティナは眼を閉じ、唇を僕へと近づける。
僕も同じく目を閉じて唇をティナへと合わせた。
数十秒間、合わせた唇を離すと透明な糸が唇を繋ぎ、そして切れる。
「うふふ。カイト、だーい好き!」
「僕もだよ、ティナ……」
そして同じ毛布の中、再び強く抱き締め合う僕ら。
ティナの暖かく柔らかくて良い匂いの身体は、まるで最上級の羽毛布団の様に、僕に絡みつく。
その感覚は、とてつもなく気持ちが良いが、別の意味で危険だ。
……頼む、僕のSAN値に理性、それに下半身。保ってくれぇ。3.1415926535……。
僕はあえて難しい事、円周率なんかを考えて、下半身に血液が集まらないようにする。
まだティナの呪い、淫紋は解除できていない。
間違ってティナの純潔を奪えば、ティナに掛けられた呪詛が発動し、ティナは意思を持たない性奴隷になってしまう。
それだけは、絶対に避けなければならないのだ。
「ごめんね、カイト。貴方には辛抱させちゃって。今も大変よね。わたしの身体に硬いの当たってるの、うふふ」
「……ティナ、分かっているなら、もう少し身体を離してくれると助かるんだけど?」
どうやらティナは僕が大変なのを理解しながらも、抱きついてきているらしい。
「そう? じゃあ、わたしの呪い見てみる? ほら!」
身体を僕から離したと思ったら、ティナは夜着をまくり上げ、下腹部、パンティの上の綺麗なお腹を僕に見せつける。
「ちょ、ちょっと止めてよぉ!」
「カイトなら、わたしの全部を見て触っても良いのよ? さあ、さあ!」
僕はとっさに視線を外すが、ティナは夜着や下着を脱ぎ全裸で、僕に抱きついてきた。
「ちょ、蛇の生殺しは辞めてよぉぉ!」
「カイト。だーいすき!」
<ああ、やはり夫婦ケンカは犬も食わない。ワタクシ、砂糖マーライオンしたいですぅ>
二人、仲直りして何よりです。
さて、明日の更新をお楽しみくださいませ!




