第13話 僕、ティナと婚約する!
「おはようございます、グローア姉さん!」
「お姉さま、おはようございます」
僕たちは、一緒に寝た翌日。
二人手を繋ぎ、朝日の中そろって宿の食堂へと向かった。
「おはよう、お二人さん。その様子ならティナちゃんの純潔は無事、されどお互いに満たされた様だね。うんうん」
<グローア様。ワタクシ、昨晩監視をしておりましたが、唇の接触及びお互いの身体を抱きしめ合う程度までにとどまっております>
「おい、ルークス! お前、あの後にスリープモードに入ったんじゃなかったのか?」
<ぱふぱふ、お楽しみでしたか?>
「んもー、エッチなルークスなんて大っ嫌い!」
朝からエロ漫才をしてしまう僕らであった。
◆ ◇ ◆ ◇
「姉さん、二人からお願いがあるんです」
「何かい? 二人して真剣な顔しちゃって」
僕とティナは、昨晩一緒に抱き合いお互いに愛し合った。
もちろんキスと少々のおさわりまでだが。
そして、もう一度プロポーズをしあった。
「姉さんに、二人の婚約の儀をして欲しいんだ」
「お願いします、お姉さま」
「なんかと思ったら、そんな事かい? お安い御用さね。よし、早速儀式をしちゃうぞ。タイショー、ここ借りるね」
「ああ、良いぜ。ほれ、他の客も歓迎してやりな。坊主、嬢ちゃんが婚約だってさ」
「ひゅーひゅー!」
僕たちは、周囲のお客さん達に祝福されて婚約を行った。
「汝、カイト・アズマダ。汝は、ティナと結婚の約束をし、妻とした後に終生愛する事を誓いますか?」
「はい!」
「汝、ティナ・アイレンベルク。汝はカイトを将来夫に迎え終生愛することを誓いますか?」
「もちろんです!」
「この二人の婚約に異議のある方はいらっしゃいますか?」
姉さんは宿屋内で僕達二人を見守ってくれている人達に問いかけて、しばし待った。
「沈黙をもって、皆様異議なしと判断致します。これにて二人は婚儀の約束をしました。以降、二人は婚約を行ったものとして鍛冶神の元、ワタクシ神官グローアが承認をします!」
周囲の観客がパチパチと拍手をしてくれる。
これで僕とティナは婚約をした。
もうティナを、テオバルトの物には決してさせない。
ティナは、絶対に僕が一生守るのだ。
「さあ、二人は約束のキスを!」
「え? それは結婚の儀の場合でしょ、姉さん? 婚約ならキスは必要ない……」
「え? カイト、わたしとのキスは嫌なの?」
僕は姉さんからの予想外の提案にうろたえるが、ティナは本気。
上目遣いに僕の顔を見ながら、瑠璃色の瞳をウルウルさせてくる。
僕の目には、プルプルと瑞々しいティナのピンクな唇が飛び込んでくる。
<カイト様。据え膳食わぬは、男にとって恥とも言いますよ?>
「ちょ、姉さんもルークスも、勝手におぜん立てしないでよぉ。ティナも本気にしたら、あ!」
「もー、カイトの恥ずかしがり屋さん!」
そして僕たちは、公衆の面前でキスシーンをしてしまったのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「見て見てカイト! わたし、ティナ・アズマダだって」
ティナは、新しく作ったギルドカードを僕に見せびらかす。
そこに記載された名前、今は偽名であるが将来は本当にティナの名前になる。
一歩早く、僕の妻になった実感を得たティナが舞い上がっていた。
「さて、これでティナちゃんも冒険者になった訳だ。一応予算はまだあるけど、節約と今後の事を考えて仕事受けながら学都へ向かうよ」
「はーい、お姉さま!」
すっかり元気になったティナ。
僕は一安心をした。
「カイト、これどうかしら?」
「うーん、ティナには少し重くない? 細剣にしては、やや太目だけど?」
そして、今度はティナの装備を買い出しに来ている。
ティナ、花嫁修業と称して、武芸・魔術をそこそこ学んでいるらしい。
その上、ティナの所有「スキル」が実に凄い。
「剣も良い筋してるねぇ。これが『天才』スキルってやつかい?」
「そうかしら、お姉さま。カイトよりは斬撃が遅いって思うんだけど?」
桃色なスキルの光を纏い、細めの片手剣を器用に扱うティナ。
突きも斬撃も風切り音が凄く、とても素人のレベルじゃない。
……長年修行した僕を簡単に越えられたら、立つ瀬無いんだけどね。
「カイトは軽戦士、斥候型だからね。後は盗賊系の技が主体。高速の歩法で敵の間合い内側に踏み込み、必殺の斬撃を繰り出すタイプさ」
姉さんが言うように、僕は軽量タイプ。
筋肉量も体重も軽い。
姉さんのようなタンク的な戦闘、重い盾と重装甲の鎧を纏い、両手武器を使うってのは到底無理な話だ。
「カイトの武器って二本あるのね? どっちも、あまり見ない形だけど?」
「ああ。これは地球の武器だからね。小さい方は高周波ナイフ。電池があれば、何でも切れるよ。大きい方が単分子小太刀。刃先がものすごく細くて、これまた何でも切れるんだ。一応、ミスラル付与は追加でしてもらっているけどね」
僕のコレクション。
地球の遺跡、取り残された武器倉庫などから沢山の武器や弾薬に機器、電池を集めた。
こと、単分子小太刀はお気に入りの一本だ。
刃先は単分子、刀身は黒いテフロン系低摩擦コーティングをしたミスラル入り超合金。
ミスラルの魔法効果で自己再生能力があって、たとえ刃先が単分子でなくなっても数日で回復するとの事だ。
……確か、自己先鋭化現象っていうんだっけ? 拳銃も持っているけど、これは最後の手段。
他にも、防具系は地球由来の物を沢山使用している。
手袋なんかも防刃タイプだし、鉢金付き頭巾の中に被った兜も地球産のケブラー製だ。
「カイト、カッコいいなぁ。わたし、惚れ直しちゃうの!」
「それを言うなら、ティナも可愛いよ」
<ああ、ワタクシに砂糖を吐く機能をくださいませ。スピーカーが甘くてたまりません!>
ティナは、黒ずくめ、忍者っぽい僕の姿を褒めてくれる。
僕は、白系で固めたティナの姿を褒めた。
……純白の革製胸当てがキュートだよ。しかし、ルークスもイラン事言わなくても良いのにぃ。
盛り上がった「山脈」に優しく寄り添う革製胸当て。
実に麗しい。
また、ヘルメット代わりにしている銀色のサークレットがティアラっぽくて、とても愛らしく可愛い。
「じゃあ、隣領に向かうついでに初仕事に行くよ、二人とも」
「はい!」
◆ ◇ ◆ ◇
「今回の仕事は、初心者お約束のゴブリン退治。アタシはフォローだけするから、基本は二人で戦いな?」
「了解です。ティナ、大丈夫?」
「ええ。任せておいてね、カイト」
領境に存在する近隣の村からの退治依頼を冒険者ギルド経由で受けた僕たちは、深夜の村に迫るゴブリンの群れと戦った。
「ほいほい!」
重装甲の姉さんがミスラル製の戦斧を振るうたびに、ゴブリンの首が何個も飛ぶ。
「きゃぁ、きゃあ!」
ティナは悲鳴を上げつつも、的確にゴブリンの急所を貫き、撃墜数を増やしていく。
時折、魔法による火炎弾も器用に撃っている。
「ティナ、背中が危ないよぉ」
僕は、背中が御留守になりがちなティナを守りつつ、敵を殲滅していった。
<ティナ様、なかなかやるでございます>
巷でいうところの「トロフィーワイフ」じゃないんですよね、ティナちゃんは。
これにてタイトル回収!
では、明日正午の更新をお楽しみに。




