第1話 僕、パーティから追放される。
「【カイト】! 口うるさいだけのオマエなんて、パーティから出ていけ! 追放だ!!」
僕、【東田 海斗】は、ここ数か月参加していた冒険者パーティから追放されてしまった。
……あまりに定番なセリフだけど、実際に言われちゃうと傷つくよなぁ。
幼少期からAI【ルークス】内のライブラリー、アニメやラノベで定番セリフから始まる物語をいくつか見てきたが、実際に僕が言い渡されるとはつゆとも思っていなかった。
「オマエみたいに『スキル』を得られないチキュー人に、優秀で英雄な俺様のパーティに入る資格なんて最初から無かったんだよぉ!」
……数か月前、泣きそうな顔で『地球遺跡』での探検に力を貸してくれって言ってたのがウソみたいだよ。
「【レオン】、そこまで言わなくてもいいじゃん。確かにカイトには『スキル』は無いし、華奢で弱っちいチキュー人だよ。でもね可愛いし、これまでもそれなり以上に役立ってくれたじゃん?」
「ん……」
「煩い、【マルテ】! 【ヴィリバルト】も口出しするな! 俺はな、最初からカイトが気に食わなかったんだよ! コイツのどこか人を上から見る様な視線、そして舐めたような口調が! 今日も助けたかった人が……ちきしょぉ!」
「もし僕の言い方がお気にいらなかったのなら謝罪します。ただ、本当に僕がこちらを去って良いのですか? このパーティには他に斥候も盗賊も居ませんが?」
パーティの紅一点マルテ、無口なヴィリバルトが僕を庇ってくれるのだが、リーダーのレオンはそこも気に入らないらしい。
……レオンとマルテが『男女の関係』なのは、知っているけど? そこは逆恨みじゃないかなぁ? それに口調が気に食わないって今更言われてもね。
僕が父の仕事の関係でこの異世界に来て約十年、政変で地球に帰れなくなって八年程になる。
僕は幼い頃、地元の人々、特にある「女の子」と仲良くなりたくて必死に現地語を学んだ。
女の子が高貴な身分の子だったので、より丁寧な言葉を学んだ。
……日本語でいうなら尊敬語や謙譲語になるのかな? 父さんの仕事関係で、日本語でも似たような感じで話すんだけど。
「口うるさい上に、いかにも高貴ですよって言い方が気に入らねーんだよ! カイト、おめーの顔なんてモー見たくねぇ。早く、ここから出ていけ!」
結局、僕はパーティから追放、ケンカ別れとなり彼らの定宿から追い出されてしまった。
今日の冒険分の分け前をくれただけ、更には現地ダンジョン内で追放処分にならなかった分だけマシだとは言え。
「さあ、明日からどうしようかな? また冒険者ギルドに行って一人で出来る仕事貰おうか、それともどこかのパーティに潜り込んで……」
<まずは今日の寝るところを探しましょう、カイト様。お師匠様の家に帰るにしても、ここからは遠いですし>
僕が呟いた独り言に反応して、胸元から男とも女ともつかない、しかし電子的な日本語が聞こえる。
夜の歓楽街を、トボトボとあてもなく歩く僕。
街を歩く人々は、彼女や仲間達と一緒に幸せそうに歩いている。
そんな中、明日からの生活を考えながら歩いていると、僕を見る周囲の人の様子がおかしい。
何か、驚いたような雰囲気なのだ。
……黒髪の地球人だからって物珍しい……って今更だよね。ん?
気になって僕は己の様子を確認すべく、地球からの文化・技術流入で一時期増えた商店のショーウインドウを見た。
「あ! 以外とショックだったんだ、僕……」
窓ガラスに映る僕の顔は、とても寂しそうで涙が両の眼からあふれていた。
僕は袖で涙をぬぐった。
「あんな奴らから追放喰らっても気にしない……気にならない、はずじゃなかったのかなぁ……」
<お気づきにならなかったのですか、カイト様? 人間心理はAIのワタクシには、いまだに完全に理解できません>
僕の胸元から再び機械的な声が聞こえる。
「うるさい、【ルークス】! もー! 僕は、この先どうしたらいいんだろう……?」
いつも偉そうにしていたガキ大将な魔法戦士のレオン、彼のオンナだとアピールしつつも僕を弟のように可愛がってくれた魔術師のマルテ、無口ながら慈愛の目で僕の事を見てくれていた力持ちな盾役神官戦士ヴィリバルト。
そして地球文化に詳しく、斥候兼軽戦士としての僕。
只人族4人のA級パーティ「紅蓮」は、ここ数か月このメンバーで活動し、数多くの冒険をこなした。
僕も仲間達が嫌いじゃなかった。
「僕、どこが悪かったのかなぁ。レオンに口出ししちゃったのが悪かったのかなぁ」
<そうですねぇ。今日の冒険でレオン様の英雄思考に大ダメージ与えたのが最大の原因かと>
◆ ◇ ◆ ◇
今日の冒険、古い炭鉱跡に住み着いたゴブリン退治。
普段ならゴブリン退治なんて仕事、A級パーティはやらない。
しかし他に仕事も無く、更には先行初心者冒険者たちが数パーティ連絡途絶しているという事で、「紅蓮」にギルドから依頼が来たのだ。
「どうしてカイトは、俺が突撃するのを停めるんだよぉ? 早く行かなきゃ、助けを待っている人がいるんだぞ」
「レオン。敵は自らが有利な場所に陣取ってます。いくらゴブリン達にとって『深夜』の今や、『早朝』になる夕刻からの奇襲でも、この人数では危険です。それなりに策を練っていかないと敵の罠にハマりますよ?」
僕は、猪突猛進で無謀なレオンに意見具申をした。
「レオン、カイトのいう通りだよ。あたしだってゴブリンの軍勢相手に出来るほど沢山魔法は使えないし、ヴィリバルトだって同じ意見だよ? 無茶しても良い事ないじゃん? いったい、どうしたの? いつものレオンらしくないじゃん」
「ん」
「うるさい! 俺は行くぞ。俺の『火炎』『疾風』スキルの前に、たかがゴブリンなんて敵じゃねぇ! 助けを待っている奴らがいるなら、尚更だ。ゴブリンの巣の中じゃ地獄なんだぞ?」
マルテはレオンを説得しようとし、ヴィリバルトも無言でうなずく。
しかし、何故かレオンは聞き入れようとしなかった。
……自分のスキルに、それだけ自信があったんだろうね、多分。今まで無敵だっただけに……。
レオンは、珍しい事に二種類のスキルを天から与えられている。
詠唱をしなくても魔法効果、中レベルクラスまでの火と風の魔法を自由に使えるのだ。
……普通の人は、天から一個だけ『スキル』を与えられるんだよね。地球生まれの僕には、無縁な話だけど。
因みにマルテは『魔力増幅』、ヴィリバルトは『頑強』というスキルを持っている。
この世界、八歳の時に信仰する神の神殿にて洗礼式を行い、その際に神は『スキル』を与える。
これが異世界「アモエヌス」の常識。
しかし、この常識は「この世界」生まれのものにしか通用しない。
二つの攻撃的なスキルを幼い頃に発現させたレオン。
やや増長気味の俺様ガキ大将的性格ではあるが、世のバカ共よりは良心的。
その力を弱者に向けることは決してなかった。
……一応、英雄思考だったのもあったんだろうけどね。
「炭坑内には、助けを待っている冒険者や村人が居るはずだ。俺達が助けないで、誰が助けるんだ!? 俺だけでも行くぞ」
物語の英雄のごとく、レオンはスキル発動時に発生する真紅のオーラを纏い、真昼間の炭鉱跡なダンジョンへ突撃していった。
そして、ものの見事にゴブリン達の罠にハマり、死ぬ寸前まで追い込まれた。
「まったくしょうがないですね、レオンってば。マルテ、牽制の<球電>を待機状態で維持。ヴィリバルトは、レオンの治療を!」
僕達は、壁抜けをしてレオンを襲ったゴブリン達の更に背後から奇襲。
ゴブリンを各個撃破した後にレオンを回収し、その後は坑内に積みあがっていた石炭くずを燃やし、炭鉱内を一酸化炭素で満たした。
もちろん、ゴブリン達は僕達と戦うことも無く全員窒息して絶命した。
「中で助けを求めていたやつらが……」
「レオン。すいませんが、貴方を助ける前に全員の死亡を確認しています。でしたら、僕達は真面目に戦う必要なんて無いんです……」
ゴブリンに捕まえられた者達の末路は、哀れ。
遊びの的にして串刺し、肉付きがよければ食料。
女であれば強姦して「胎み袋」。
先行冒険者達が連絡を途絶して一週間以上、もはや生きている可能性はゼロ。
事実、女性冒険者が先行隊にほぼ居なかったために、先に確認した「食糧庫」で、襲われた村々の人々も含めた全員分の遺体が発見された。
……遺品の金属製のギルドタグから見て冒険者の全滅は間違いない。残っていた骨盤から、女性が多数食われてたのも見ちゃったよ……。
なお、僕がここまで一方的な殲滅ができたのは、AIルークスを駆使した事前調査等にある。
携帯端末からAI本体のあるサーバ経由で過去炭鉱時代の図面を探し出し、また端末による動体反応感知や師匠から学んだ気配察知で敵の位置取りを先手で把握できたからだ。
「ち、ちきしょぉ! どうしてカイトは俺の冒険を邪魔するんだぁ! 俺は英雄候補なんだぞぉ! 助けられたはずなのに!」
「確かに過去、英雄になった方々は皆さん強い複数スキル持ちでした。でも、何も考え無しに力押しで勝てるほど、全ての人々を助けられるほど世の中甘くないんです、悲しいですが……」
僕は、助けられたにも関わらず食って掛かってきたレオンに世の無情を告げた。
◆ ◇ ◆ ◇
……結局、あの一言がダメ押しになっちゃったんだろうな。言い過ぎちゃったなぁ。
僕は再び涙をぬぐい、心の中の『灯』、幼き日に結婚を誓い合った女の子の顔を思い出しながら夜の街をさまよった。
「……【ティナ】……」
「オイコラ、ガキ! このあたりの顔役な俺にぶつかっていて、謝りもしないとは、何考えてんだぁ? せっかくの酒瓶を割っちまったじゃねぇかぁ。弁償しろよ!」
「ごめんなさい。ボク、お母さんにお薬を買って帰るのに急いでて……」
とぼとぼ歩く僕の進む先では、酒に酔って顔が真っ赤な大男が小さな男の子相手にイキがっている。
彼らの足元には、酒瓶らしき陶器の容器が割れていた。
周囲には人だかりができ、綺麗なお姉さんが居るお店の呼び込みの人も店の前で暴れられていて困っていた。
<これは困りましたね。どうされますか、カイト様?>
「ガキィ、謝って済むと思うのかぁ!? 『剛腕』スキル持ちの俺が怖くないのか? 早く弁償しろよぉ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい! お金はお薬買ってきたから、何も残っていないの」
……はあ。また『スキル』自慢の馬鹿ですかぁ。強い『スキル』を天から貰ったら、それだけで偉いって思い込むのは困ったねぇ。
「あのぉ。そのくらいで許してあげないですか、お兄さん? この子は謝っていますし、可哀そうですよ。お酒なら僕が弁償します」
「なんだぁ、またガキかぁ。生意気なガキは締めておかねぇといけねぇんだぁよぉ」
見て見ぬふりも出来ないので、僕は仲裁してみようと男に声を掛けてみたが、僕すらも子供扱いされてしまう。
「お前も俺をバカにしてんのか? 俺はなぁ、偉いんだぞぉ! 用心棒様なんだからなぁ!」
「坊や、僕の少し後ろに離れててね。ごめんなさい、貴方をバカにするつもりはありませんですから。まあ、落ち着きましょう」
僕はなだめようとするも、すっかり悪酔いしている男、ぶんぶんと手を振り回す。
本人曰く『剛腕』スキル持ちらしく、上半身の筋肉量が凄い。
しかし、酔っ払いで足元もフラフラしている。
……下半身は細いし、筋肉量バランス悪いなあ。こりゃ、強力な『スキル』に託けて努力していない口か。身体強化魔法を使ってる風も無いし。二重スキル持ちなレオンの方が、よっぽど努力して鍛えてたよ。
「くそぉ! 俺はなぁ、彼女に逃げられて頭にきてんだぁよぉ。しねやぁ、くそガキぃ!」
僕は怖がる男の子を背後に庇うが、『剛腕』男は腕をスキルの黄色いオーラで光らせて僕に殴りかかってきた。
「はぁ……。『スキル』だけのバカには困りますね。あとね、どんなに威力があっても、当たらなきゃ意味無いですよ?」
背後の男の子を守るため避けられない僕は、身体強化魔法を起動。
ぼそりと呟きながら右足を左斜め半歩前に出す。
そしてテレフォンパンチ気味に上から殴りかかってきた男の輝く右拳を、僕は右手による右回転掌底で横から軽く叩く。
男の拳を円運動で右下方向に流しながら、僕は身体を右回転させ右足を後ろへと送る。
拳を流された男、バランスを崩してそのまま前につんのめった。
僕は左腕を丸め、左肘を男の鼻下、急所の人中にそっと押し当てた。
「ぐぎゃ!」
拳を流された勢いで男の顔に、僕の肘がぐさりと突き刺さった。
そして男は鼻血を吹き出して、どすんと膝から崩れ落ちた。
「ふぅ……。上手く技が決まったけど、丈夫そうだから死んでないよね。一応手加減したし……。うん、脈も呼吸もあるから大丈夫。あー僕、明日からどうしよう?」
<カイト様、急所一撃はお見事です。お師匠様直伝の体術ですよね?>
「うん、師匠に教えてもらった通り、身体が動いちゃったよ、ルークス。あそこで左肘を降りぬいていたら、殺してたかもね。さて、このままじゃいけないか。あ、呼び込みのお兄さん。兵士さんを呼んで、この方を保護してください、お願いしますね」
僕は、あぜんとしている顔の男の子の頭を撫でた。
そして、倒した男が生きているのを確認、気道確保姿勢にさせてから彼の懐に銀貨を一枚入れる。
呼び込みの方にはお願いしたのもあり迷惑料として銅貨数枚渡し、僕はそのまま驚く群衆を掻き分けて、歓楽街をさらに奥へと歩いて行った。
新たなる物語の始まりです。
今後ともよろしくお願い致します。
なお、私は他にも多くの作品を完結させていますので、そちらも一読を。
「ワシ、魔神将チエの冒険を見るのじゃ! コウタ殿やタケ殿との冒険譚なのじゃ!」
「此方もタケとのラブラブ見て欲しいのじゃ!」
「ボクと爆裂令嬢クーリャちゃんの冒険もね!」
とまあ、過去作品に出ている子達も言ってますので、どぞ。
<これからの物語は、ワタクシ、ルークスが見守りますので、ご安心を。作者様>
今作でも煩い子が出てきちゃったので、ここまで。
本日は豪華、7話分を順次公開します。
次の更新は20分ほど後に。
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