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ジェットコースター殺人事件〜アイドル探偵朝野奈柚は推理でバズりたい!〜【出題編②】

 それなりにフェアに書けた気がするので、最後に【読者への挑戦状】を付してみました。

 次にアポイントメントをとったのは、佐倉月子、そして、庵野香澄である。

 なゆちがDMで別々に連絡をとり、それぞれ別々に話を聞くことを提案したのだが、佐倉も庵野も、「2人まとめて一緒がいい」と答えた。



 その理由は、待ち合わせ場所のA大学内のカフェテリアに現れた2人の様子を見ただけで歴然だった。



 2人は、身体と身体を密着させ、指と指とを絡めた、いわゆる「恋人繋ぎ」をしてやってきたのだ。



 2人はデキているのである。



「なゆちさんと助手さん、こんにちは。私が佐倉月子です」


 椅子につくと、黒髪をストレートに下ろした、清純派美少女、といった感じの女性が自己紹介をした。人懐っこそうな小動物顔と、フォーマル気味な整った服装は、いかにもお年寄りウケしそうである。



「そして、隣にいるのが、私の『嫁』の庵野香澄です」


 佐倉にそう紹介された女性も、また異なった意味で美少女である。派手な金髪と色白の肌は、クラブなどに行けば引くて数多だろう。まだ3月入りたてだというのに、ミニスカートの下から蠱惑的な太ももが露わになっている。



 「嫁」と紹介された庵野は、それを否定するでも肯定するでもなく、「どうも。庵野です」と軽く会釈をした。



 佐倉がニコッと笑う。



「なゆちさんと助手さんに会う前に、『名探偵なゆち』シリーズの動画はひととおり見ました! 素人探偵ってカッコいいですよね!」


「いえいえ、それほど……」


「ありがとう! あとでサインあげるね!」


 やはりなゆちの辞書には「謙遜」の2文字はないらしい。



「私も動画は見て、すごいとは思いました」と、庵野が怠そうな声で言う。先ほどの気合いの入らない挨拶といい、これが彼女の普段の話し方のようである。


「でも、今回のすずめの件は、さすがに事件性はないと思います」


「私も、香澄の言うとおりだと思います。たしかに、すずめの死はあまりにも突然で、今でも信じられません。でも、走行中のジェットコースターで殺人事件なんて、そんなことありえないです!」


「月子、たしか、アニメでなかったっけ? そういう事件」


「え? そうだっけ?」


 佐倉と庵野が目を見合わせる。


 おそらく庵野が指摘したのは、国民的アニメである某少年名探偵シリーズの最初の事件のことだろう。あれは、乗客の男性の首が突然切断されるという、とてもセンセーショナルなオープニングだった。



「ともかく、今回のすずめの件は、殺人事件なんかじゃないんです。ましてや、私や香澄、茉麻が事件に関与してるだなんて、そんなことはありえないです」


 隣の庵野もうんうんと頷いている。



 湊人自身、事件性なしの方で心は動いていた。とはいえ、乗りかかった船である。持田の母のためにも、最後まで徹底的に調査しなければなるまい。



「僕も、みなさんを疑っているわけではないんです。ただ、念のため確認させてください。あの日、スパークルマウンテンに乗ったのは、佐倉さん、庵野さん、それから持田さんの3人ということで良いんですよね?」


「ええ。そうです。茉麻は、絶叫マシンが苦手なので、別行動でした」


 佐倉の証言は、花牟田の証言と一致している。



「スパークルマウンテンに乗ろうと最初に言い出したのは誰ですか?」


「すずめです。彼女、スパークルパークが大好きで、年パスも持ってるんです。それで、今回も園内の周り方については、すずめが前日に大まかな計画を立ててくれてたんです」



 そう言って佐倉が見せてくれたスマホの画面には、仲良し4人組のLINEグループのやりとりの履歴が映されていた。




…………




2023年2月20日


21時17分 すずめ

「明日なんだけど、こんな感じで周りたいな。


9時00分 パーク入り口に集合


9時20分 スパークルウインドのファストパスを取る


9時30分 スパークルパイレーツに並ぶ


10時30分 スパークルシューティングに並ぶ


13時00分 中央レストランでランチ(私はファスティング中(泣))


14時00分 スパークルマウンテンに並ぶ


15時30分 スパークルウインドに乗る(ファストパスの時間次第だけど)


16時00分 スパークルカルーセルに並ぶ


17時00分 パレードを見る


18時00分 西レストランでディナー(泣)


19時00分 スパークルタワーに並ぶ


20時00分 パークから出る」


21時18分 茉麻

「了解」


21時30分 ユーザー(佐倉月子)

「ありがとう! スパークルウインド楽しみ!」


23時07分 香澄

「すずめありがとう」



…………




「スパークルウインドって、最近できたばかりの新アトラクションだね! 私も乗ってみたいなあ!」


 なゆちがはしゃいだ声を出す。



「そうです。まるで空を飛び回っているかのような体験ができる新しい絶叫マシンで、ファストパスがないと3時間くらい並ぶらしいです。ね、香澄」


「そうそう。だから、すずめが立てた計画のとおり、開園後すぐにファストパスを取りに行ったんです。だいたいの目算どおり、15時40分台のファストパスが取れたんですが、結局、すずめがああいうことになってしまい……」


 庵野が声を落とす。

 すずめは、直前のスパークルマウンテンで意識不明の重体に陥ってしまい、当然、遊びもそこで中止になったのだ。



「今、佐倉さんは、スパークルウインドのことを『絶叫マシン』と呼んでましたよね?」


「ええ」


「そうすると、絶叫マシンが苦手な花牟田さんは、スパークルウインドにも乗れない、ということですよね?」


「ええ。そうです。なので、茉麻だけスパークルウインドのファストパスを取らなかったんです」


「ですよね」


 そういえば、なゆちと「現地調査」に行ったとき、なゆちもスパークルウインドに乗りたがっていた。しかし、3時間30分という待ち時間の表記を見て諦めたのである。絶叫マシン嫌いの湊人としては、命拾いをしたわけだ。



「花牟田さんを除く3人がスパークルマウンテンに向かったのは、この計画表のとおり、14時頃ですか?」


「そうです。スパークルパークでは、ファストパスは、1回の来園につき、1人1枚までしか取れないんです。なので、すでにスパークルウインドのファストパスを取ってた私たちは、1時間くらい並ぶ覚悟で、スパークルマウンテンに向かったんです」


「たしか実際に1時間くらい並んだよね? 月子?」


「そうそう。できたばっかりのスパークルウインドほどじゃないけど、スパークルマウンテンも人気アトラクションだからね」


 たしか花牟田から見せてもらったLINEでは、「やっと順番来た!」とすずめが送信していたのは、15時15分だった。だいたい1時間後だ。



「スパークルマウンテンのコースターに乗ったときの状況は覚えてますか? 何号車の何列目だったか」


「それは、えーっと……」


「月子、『アレ』を見せればいいじゃん。あの写真」


「ああ、『アレ』か!」


 そう言って佐倉が次にスマホの画面に表示させたのは、湊人もいつか見た、スパークルマウンテン乗車後に販売している写真だった。



 落下中のコースターの様子が映し出されている。

 コースターに大きく「4」と書かれているので、4号車なのだろう。


 その3列目に、佐倉と庵野が座っている。庵野は平然とした顔つきで、対して佐倉は、目を瞑りながら隣の庵野に抱きついている。



「これ、出口のモニターの画面を写したものなんです。写真を買えるような状況じゃなかったんですが、もしかするとすずめが死んだ状況を知るための手がかりになるかな、って思ってスマホで撮りました」


「なるほど。それで、持田さんは、この写真のどこにいるんですか?」


「私たちのすぐ後ろなので、4列目です」


 そこに写っていたのは、ショートカットの女性だった。


 持田は、なゆちがそうしていたように、両手を上げ、嬉しそうに叫んでいた。

 まさかこの直後に意識を失い、そのまま天に召されるだなんて、この写真からは思いもよらない。



挿絵(By みてみん) 




「これがすずめにとって最期の写真なんですよね。彼女らしいと言えば彼女らしい良い写真です」


「持田さんの隣には誰も座ってないんですね」


「そうですね。他の遊園地でもそうかもしれませんが、スパークルパークでは、基本的に知らない人同士が隣に座らせられることはないです。このときも、私たちは3人で乗ったので、誰か1人は、単独で席に座ることになります」


 なるほど。なゆちと行ったときは、常になゆちとペアで座っていたので気付かなかったが、言われてみると「おひとり様」で来ていた人はそうだったかもしれない。



「持田さんが意識を失っていることに佐倉さんが気付いたのはいつですか?」


「コースターを降りた後です。うしろにいたすずめが降りて来なかったので、コースターの様子を見てみたら、すずめが倒れていたんです」


「庵野さんが気付いたのも同じタイミングですか?」


 庵野が大きく頷く。



「走行中に、異変には気付かなかったんですか?」


「ええ。走行中は、安全バーで体が固定されていますから、仮に意識を失ったとしても、身体が倒れることはありません。おそらくすずめの身体は、安全バーの固定が解除されたタイミングで倒れたんだと思います」


「走行中に、持田さんの悲鳴が聞こえたということは?」


「それはありますが、なんというか、ずっとです。すずめはコースターに乗ってる最中、ずっとキャーキャー叫んでたので」


「はあ」


 たしかにジェットコースターでは時折そのような人がいる。加速したり、落下したりする前から常に悲鳴をあげている人が。



「走行中、何か変わったことはありませんでしたか?」


 湊人の質問に、佐倉はしばらく考え込んだあと、「特にないです」と答えた。


「でも、走行直後にはあったよね」と庵野。



「走行直後? なんだっけ?」


「爆竹だよ」


「ああ! 思い出した! 爆竹が鳴らされました!」


 爆竹というと、ヤンチャな小学生がよく火をつけて鳴らしている玩具か。



「コースターが停止して、安全レバーが解除されるかされないかのタイミングで、コースターから10mくらい離れた乗車待ち列で、爆竹が鳴らされたんです。パチンって」


「あれはビックリしたよね。私も月子もガン見しちゃった」



 長蛇の列に退屈していた者が、ちょっとした火遊びをしてしまったということなのだろうか?



「その爆竹は誰が鳴らしたものなんですか?」


「……分かりません。パークのスタッフも、犯人探しどころじゃなかったと思います。その直後、私たちがコースターから降りて、すずめが倒れているのを見つけたので」


「救急隊員がすぐに来て、コースターの運転も中止になりました」


「なので、私は、今香澄に指摘されるまで、爆竹のことは完全に忘れてました」


 持田の死と、その爆竹とを結びつけるのは難しいように思える。ただ、「偶然の一致」として片付けることにも躊躇を覚える。2つのタイミングが重なったのは、果たしてたまたまなのだろうか。



 引っかかりはしたが、考えても何も思いつかないので、次の質問に移ることにした。



「スパークルパークに行った日、あなたたち4人の様子は特に変わりありませんでしたか?」


「4人というと、私たちとすずめと茉麻ですよね?」と庵野。


「はい」


「私たち2人はいつもどおりラブラブでした!」と佐倉が、庵野の腕に飛びつく。庵野は、真顔で「まあ、そんな感じです」と言う。



「他の2人は?」


「茉麻は……うーん、本調子じゃなかったかな? ねえ、香澄?」


「たしかにそうだね。スパークルパークに行った日というか、1週間くらい前から茉麻は、なんというか、ぼんやりしてたかも」


「ぼんやり、というとどんな感じですか?」



 庵野は回顧する。



「遊園地に行く3日くらい前にも、たしか実験器具を倒しちゃって、腕に軽い火傷をした、とか言ってました」


 湊人たちが会った時には、花牟田は長袖のセーターを着ていたので気付かなかった。



「それから、遊園地に行った日も、間違えて『変な物』を持ってきてました」


「変な物?」


「ビーチボールです」


 ああ、思い出した、と佐倉が声をあげる。



「茉麻が財布を取り出す時に、リュックの中身がチラッと見えたんですけど、空気の抜けたビーチボールが入ってたんです」


「それで、月子が、何これ?って訊いたら、茉麻は『間違って持ってきちゃった』って」


「茉麻は、ああ見えて結構天然なんですけど、今回は『遊園地にビーチボールはさすがにないでしょ』って思わずツッコミました」


「そしたら、『レジャーシートと間違えた』とか言ったので、3人で総ツッコミしましたよ」


 レジャーシートというと、パレードの場所取り用だろうか。材質は同じビニールかもしれないが、たしかに2つを混同するのは、だいぶうっかりしている。



「持田さんの様子は? 何か気になる点はありませんでしたか?」


「うーん、相変わらずでした。ね、香澄」


「そうだね。すずめは相変わらずファスティングしてた」


「持田さんはそんなにしょっちゅうファスティングダイエットをしてるんですか?」


「もはや趣味みたいな感じで、定期的にやってました」


「体型を気にしていたということですか?」


 先ほどのコースターに乗っている写真を見ても、普通に痩せるように見えたが。



「かなり気にしてたみたいです。というのも、自分で言うのも難なんですが、私と香澄が痩せ過ぎてるんですよね」


 たしかに目の前の2人は、流行りのファッションモデルのようなスリムな体型をしている。



「それから、いつもブカブカな服を着てるから分かりにくいですが、茉麻もかなり細身なんです。だから、すずめは『痩せなきゃ』が口癖でした」


「たしか、パーク内でも、持参したペットボトルしか飲んでなかったとか」


「ああ、『痩せる水』ですね」と2人が声を合わせる。



「すずめは、中央レストランで3人がランチをしてた時も、ひたすら痩せる水ばっかり飲んでました」と佐倉。


「お腹ぐうぐう鳴ってたよね」と庵野。



「じゃあ、あの日、持田さんは、痩せる水以外は一切口にしてないんですね?」


「そうです。ウエストポーチから出し入れして、頻繁に飲んでました」


「月子、ちょっと待って。たしかスパークルマウンテンに並んでる時、痩せる水がもう無くなったとか言って、飲水機で水飲んでなかったっけ?」


「ああ、たしかに」


「飲水機?」


「公園とかによくある、上にピューッと水が出るやつです」


「スパークルマウンテンの乗車待ち列の途中に、いくつかあるんですよ。結構長時間並びますからね」


 なゆちと行った時は、ファストパスを使ってたので気付かなかった。

 持田は、ペットボトルの痩せる水以外も口にしていたのか。とはいえ、不特定多数が使う飲水機に毒を仕込むというのは、現実的ではない。おそらくは本件とは関係のない事情だろう。



 あ、そういえば、と佐倉が口を開く。



「変わった様子、ではないかもしれないですけど、すずめは、私たちに『秘密』があったみたいです」


「秘密……ですか?」


「香澄、そうだよね?」


「そうそう。スパークルマウンテンに乗るために並んでた時、すずめが『2人に言いたいことがあるんだけど、絶対に言えない』って頻りに言ってた」


「じゃあ、最初から何も言うなよ、って感じだけど」


「ね」


 言いたいけど絶対に言えないことーーそれは一体何だろうか。



「その秘密が何かは、2人は聞けなかったんですか?」


「はい。すずめって結構口が軽いから話してくれるかな、って思ったんですけど、頑なに話してくれませんでした」


「『いずれ分かるから』とか言ってたよね。月子」


「そうそう。でも、すずめがこんなことになっちゃって、結局は聞けずじまいだね」



 佐倉と庵野の2人は、カフェテリアを出た後も、キャンパスの出口まで送ってくれた。

 送ってくれている最中も、2人が恋人繋ぎをしてたことは言うまでもない。



「月子さんと香澄さんは本当に仲が良いんだね」となゆち。


「まあ、付き合ってますから」と佐倉。



「じゃあ、チューとかするの?」


 なゆちのあまりにも無粋な質問に、湊人は焦ったが、佐倉は、うふふと微笑むと、


「今見せてあげます」


と宣言した。



 湊人はさらに焦ったが、庵野が


「月子、やめてよ。人前じゃ恥ずかしいよ」


と断ってくれて、事なきをえた。



「人前じゃ恥ずかしい」ということは、2人きりのときは普通にしているのだろう。



 

 結局、関係者の話を聞いても、心臓発作死亡説を覆すような証拠は得られなかった。


 そこで、湊人は、ついに「潜入捜査」を実施することに決めたのである。




…………




「あ、みなと!」


「なゆち、ずっと待ってたよ。結構並んだでしょ?」


「ううん。平日だからそれほどでもなかった」


 普段と立場の入れ替わった会話である。普段ならば、アイドルであるなゆちとチェキを撮るために、ヲタクである湊人の方が並ぶのだ。


 それが今日は逆で、アイドルのなゆちが、ヲタクの湊人と会うために並んだのだ。



「みなと、調査は終わった?」


「うん。完璧」


「すずめさんの死の真相は分かったのかな?」


 湊人は大きく頷く。



「分かったよ。持田さんの死は、心臓の持病によるものじゃなかった。持田さんは()()()()んだ」


 持田の母が指摘するとおり、これは殺人事件だった。某少年名探偵のお株を奪う「ジェットコースター殺人事件」だったのである。



「本当!? みなと、すずめさんはどうやって殺されたの!?」


「後で話すよ」


「分かった。後でね」


 湊人が手元のボタンを押す。


 ブザー音とともに、なゆちが乗ったコースターがゆっくりと動き出す。


 ここはスパークルマウンテンの乗車口である。


 湊人は「潜入捜査」として、スパークルパークのスタッフのバイトに応募し、スパークルマウンテンについて調査を行ったのである。


 先ほど、なゆちが湊人に会うために並んだ、と表現したが、それはさすがに調子に乗り過ぎたかもしれない。



 なゆちは、単にジェットコースターに乗りに来ただけなのである。




…………




 早上がりのシフトだったので、16時になゆちと中央レストラン入り口で待ち合わせをした。


 予想していたことであったが、席に着くやいなや、なゆちはスパークルパフェを注文した。



「だいぶ満喫してるね」


「まあね。今回はファストパスを使ってスパークルウインドも乗れたしね。感想聞きたい?」


「その話はいいや」


 絶叫マシンのことは想像するだけで気分が悪くなる。

 そんな湊人が、今日付で退職願を出したとはいえ、数日間、スパークルマウンテンのスタッフをやっていたのだ。我ながらよく頑張った。



「そんな話より、本題に入るよ。持田さんの死の真相についてだ」


「さっき、みなとは『殺人事件』って言ってたけど、本当にすずめさんは殺されたの?」


「そうだよ。間違いなくこれは殺人事件だ。誰が犯人かも僕にはもう分かってる」


「誰がどうやって殺したの? みなと、教えて」


 簡単に教えても良いのだが、これからも推理動画を続けていくのであれば、なゆちにも一人前の思考力を身に付けて欲しい。



「僕が潜入捜査によって新しく知った情報を3つ言うよ。今までの事情聴取で得た情報と、その3つの情報を総合して、なゆち自身に推理して欲しいんだ」


「えーっ!? 絶対無理!」


「やる前から無理なんて言わないでよ!」


 なゆちは頬を膨らませて不服の意を露骨に示しているが、お構いなく湊人は進める。



「まず1つ目、UFOについてだ」


「UFO?……ああ、スパークルマウンテンにあるやつか!」


「そうそう」


 湊人となゆちがコースターに乗っていた時、1つ目の落下地点において、なゆちが目ざとく見つけたUFOである。



「UFOがどうしたの?……まさか、犯人は宇宙人!?」


 絶対にバズるじゃん、と言わんばかりに、なゆちの目がキラキラ輝く。



「そんなわけないでしょ! あのUFOの正体が分かったって話」


「UFOの正体?」


 なゆちの目はまだ輝いている。



「カメラだよ。あのUFOの窓にレンズが付いてて、あそこからコースターの写真を撮ってたんだ。アトラクションの出口で買える写真を」



 ああ、となゆちがツマラなそうに言う。



「要するに、スパークルマウンテンには2箇所の落下ポイントがあるんだけど、カメラがあったのは屋内にある1箇所目ということだね」


 考えてみると、屋外に設置するのは技術的に面倒だろうから、カメラの位置としては合理的だ。


 なゆちが買うことを提案した写真の湊人は、目を瞑っていた。

 2箇所目の落下地点では意識的に目を瞑ったのだが、1箇所目においても無意識的に目を瞑っていたということだったらしい。だから、なゆちに見えたUFOが湊人には見えなかったのである。



「ねえ、みなと、話の続きは、注文したスパークルパフェが来てからにしない? 私、お腹ぺこぺこで頭が回らないんだけど」


 よほどパフェが楽しみなのか、なゆちは先ほどからチラチラと厨房の方を確認している。



「まあ、そんなこと言わないで、我慢して聞いてよ。次は2つ目の新情報ね。これは極めて重要だから、外形的な事実だけ話すんだけど、事件の当日に撮影された写真データの中に『決定的な証拠』があったんだ」


「決定的な証拠?」


「まさにそうなんだ。その写真が、今回の事件の全てを物語ってるんだよ」


 湊人は、バイトの休憩時間を使って、UFOが撮影した写真を管理しているパソコンにアクセスした。

 そうしたところ、幸いにも過去1ヶ月分の全ての写真データは消去されずに残っていた。



 そこで、事件のあった2月21日の写真データを確認したところ、警察も見逃しているであろう衝撃的な事実に気付いたのである。



「その写真のデータって、今みなとが持ってるんだよね?」


「ああ。パソコンの画面をスマホで撮影したからね」


「じゃあ、見せて」


「ダメだよ。見たら答えが分かっちゃうから」


「いじわる」


「違うよ。親心だよ。なゆち、その写真がどんな写真なのか考えてみて」


 なゆちにシンキングタイムを与えたちょうどその時、厨房からパフェを持った店員が出てきた。



「やったやった」


 なゆちの意識は完全にパフェに移っており、おそらく今さっきみなとが出題した問題の内容も忘却の彼方だ。



 仕方なく、湊人は3つ目の新情報へと話を進めることにした。



「最後の新情報なんだけど、これはコースターのコースのことなんだ。1回目の落下地点と2回目の落下地点の間に、照明が落ちて真っ暗になる場面があったよね?」


「やった! この前よりもメロンが大きい!」


「コースターのスピードが落ちて、ゆっくりと第2の落下地点に向かっていく部分なんだけどさ」


「うーん、やっぱり美味しい。濃厚なアイスクリームがたまらないね」


 ダメだ。少しも聞いていない。結局パフェが来る前も来た後も上の空なのである。


 仕方がないので話を進める。



「バイトの職権を濫用して、開園前の、全ての明かりがついた状態のコースを確認してみたんだけど、第1の落下地点と第2の落下地点の間のレールの脇には足場があったんだ」


 よく考えるとこれも不思議なことではない。

 レールを整備するために、コースターの休止中には、レールの上に点検員が乗れなければならないのである。


 それに、あの暗闇の部分では、コウモリの目を模したライトもチカチカと光っていた。それはその足場の上に設置されていたものだったのである。



 湊人のプレゼンはこれで以上なのだが、なゆちはまだスパークルパフェに夢中である。


 手持ち無沙汰だった湊人は、テーブルの上に置かれていたアンケート用紙の裏紙を使って、簡単な図を書いてみた。



挿絵(By みてみん) 




 ペロリとパフェを平らげたなゆちにその図を見せたが、やはりピンと来なかったようで、


「それで、犯人は誰なの?」


と甘えた声で湊人に聞いてきただけだった。「名探偵なゆち」とは一体……?



「もう仕方がないから、答えを話すつもりなんだけど、その前に、僕にも1つ分からないことがあるんだよね」


「何が分からないの?」


「動機だよ」


 なぜ犯人が持田を殺害しようと思ったのか、その動機が分からないのである。



「まあ、Youtubeの動画を作る上では、最悪、動機の部分はブランクでも良いんだけどね」


「潜入調査をしても、動機は分からないんだね」


「そうだね。動機は犯人の心の中の問題だからね。犯人が何を考えているのかを知ることは難しいよ」


「私は、みなとが何を考えてるのかもよく分からないけどね」


 なゆちの突然の指摘に、湊人はビクッとする。



「……それってどういう意味?」


「なんでみなとってニートをやってるの?」


「それは、働きたくても働けないから……」


「完全にダウトだよ。だって、さっきまでスパークルマウンテンのスタッフをやってたじゃん」


 たしかにそうである。



「まあ、そりゃ、無理すれば働けるけどさ。というか、なゆちのライブは平日にも結構あるから、働いてたらなかなか行けないじゃん」


 幸い、過去に働いていた時の貯金と、相続によって得た幾ばくかの財産はある。

 ゆえに、なゆちの追っかけをやっている限りは、働かずに、貯金を切り崩していた方が賢明だと考えている。



「つまり、みなとがニートをやってるのは私のためってこと?」


「……まあ、そういうことになるね」


「じゃあ、私が、みなとに働いて欲しい、って言ったら、みなとは働いてくれるの?」


「……もしもなゆちが真剣に望むなら」


「それ、変だよ。全然主体性ないじゃん」


 耳が痛い指摘である。自覚は十分にある。



「みなとはどうしてそんな感じなの? どうして私になんでも合わせようとするの?」


「それはもちろん、なゆちのことがーー」



ーー待てよ。そういうことか。



 湊人は、興奮して立ち上がる。



「なゆち、分かったよ! 犯人の動機が! そうか! そう考えると全ての辻褄が合う!」


「突然どうしたの? っていうか、みなと、話の続きは? 私のことが一体何なの? ねえ、みなと、教えて? 私のことが?」




【読者への挑戦状】


 なゆちが諦めてしまった推理を、読者の皆様方に引き受けていただきたい。


 作者としてはヒントは十分に出したと考えているので、


① 持田すずめを殺害した犯人(WHO DONE IT)

② 持田すずめを殺害した方法(HOW DONE IT)

③ 持田すずめを殺害した動機(WHY DONE IT)


を考えてみて欲しい。



 なお、本作中で指摘のあった爆竹は、犯人が犯行のために用いたものである。②の回答の際には、爆竹についても必ず触れて欲しい。



 また、最後に佐倉月子と庵野香澄が答えた「4人の変わった様子」の


A 花牟田茉麻がレジャーシートと間違えてビーチボールを持ち込んでいたこと

B 持田すずめが、乗車待ちの際に、飲水機から水分補給をしたこと

C 持田すずめには「言いたいけど、絶対に言えない」秘密があったこと


のうち、2つは今回の事件と密接な関係があるが、1つは本件と一切関係ない事情であることは、ヒントとして予め伝えておく。

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― 新着の感想 ―
[一言] かなり無理な推理なのは自分でも分かっています。 まず「4人の変わった様子」の AとCを元にします。 ①犯人は花牟田茉麻 ②彼女の絶叫マシンは苦手というのはアリバイ作りのトリック。以前ここでバ…
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