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授業初日です

 「まずは聖女領の成り立ちから。死闘の末に魔王の封印に成功した聖女様は、その功績により兄である王から特別に女性のみが継承できる爵位を賜り、魔王の封印を維持する役目を任されます。その後共に戦った仲間の一人と結ばれ、幸せに暮らしました」


 異議あり!と思わず発言したくなったが我慢です。実際は、聖女様人気を恐れた王に厄介払いで僻地へ追いやられたんですけど。聖女様は兄の自分に対する悪意を察し、暗殺から逃れるため魔王を封じた不毛の大地に赴き、その膨大な魔力で大地を癒し、なんとか生きていける環境にしたんです。設定資料集を読み込んだ私は、王家に都合の良い表の歴史だけではなく、裏の歴史も知っているのです。ここはゲーム本編の世界なので、きっと表の歴史しか出てこないでしょうけど。


「今年度の新入生にはその聖女様の末裔がいらっしゃいます。ブラナカリスルトゥ・オセラトゥス・アルゴナリトゥ・ベクトプログトゥス様、どうぞ壇上にお上がり下さい」


 全てを理解した後に思い出した設定資料集に乗っている自分の名前は、長すぎて覚えにくい名前でした。


「初めまして、ミナグァリス・ブラナカリスルトゥ・オセラトゥス・アルゴナリトゥ・ベクトプログトゥスと申します。皆様、3年間共に学ぶ仲間としてよろしくお願い致します」


 教師は故意なのか王家の血を引く者を意味する「ミナグァリス」を抜かして紹介したけど、私はそういう嫌がらせには屈しません。多分、繊細なお母様はこういう小さな嫌がらせに傷付いていたんでしょうね。可哀そうなお母様、あんなに優秀で強い魔力を持っているのに。領地運営の手腕から察するに、本来ならもっと中央の政治に関与していてもおかしくはなかったはずなのに。残念ながら王家の聖女様への悪意は脈々と受け継がれているのです。設定資料集には、希望に満ち溢れて王都へやって来たお母様が段々自信を失っていく過程が載っていて、私の王家への好感度は日本海溝よりも深く地に沈んでます。

 ちなみに、他の生徒の自己紹介は私が気絶した昨日に終わっているらしいです。設定資料集には私の同級生の事は細かく載っていなかったので、おいおい覚える事にしましょう。


 私が着席してからは静かに授業が進みました。一学年上に第三王子が在籍しているので、皆真面目に授業を受けています。第三王子の目に留まり重要な職に就けるかもしれませんので。皆人生掛かっているので必死です、と設定資料集にありました。第三王子は昨日は王家の代表として新入生に挨拶にいらっしゃっていたそうです。だから学年が違うのに教室にいらしたんですね。一瞬目が合いましたけど、ゲームのキャラデザ通り整ったお顔をしていらっしゃいました。


「それでは今日はここまで。また明日、続きをやりましょう。では御機嫌よう」


「「「有難うございました」」」


 やっと終わりました。今日は魔石生成の基礎の基礎を学びました。この世界の魔法は呪文を唱えるのではなく、魔石に魔力を込めてそれを利用する方法をとっています。なので魔石生成はとても重要。これが出来なければいくら魔力を持っていても力を発揮できません。私は子供のころからお母様に教わってちまちま魔石を作り大地を癒す魔法を込めてきたのでこの授業を受ける必要はあまりないのですが、王家に疎まれている状況で手を抜くのは問題があるので真面目に受けました。

 ちなみに、聖女様は大地を魔石に見立てて直接癒しの魔力を注ぎました。聖女様にしかできない芸当です。


(私だけじゃなく貴族なら大なり小なり魔石作りは学んでいるはずだけど)


 この授業は主に平民の為の授業といえます。じっくり1年かけて魔石生成を学びます。魔力を具現化するのは難しく、自分の中の魔力を動かして体の外に出し凝縮させ魔石にする方法は、教わらないと絶対に分からない感覚なのです。

 なので貴族の場合1年目は社交に勤しむ人が多いです(設定資料集より)。私も記憶を取り戻す前ならそうしたでしょうけど。

 

 私は素早く帰り支度を整え、静かに教室を出ました。



 


 

ミナグァリス(王家の血を引く者という意味)・ブラナカリスルトゥ(領地の名前)・オセラトゥス(家名)・アルゴナリトゥ(公爵家の娘という意味)・ベクトプログトゥス(本人の名前)です。教師は学院出身なので、王家の意向には逆らえません。聖女様を尊敬する気持ちと自分の行動の矛盾に無意識下で葛藤しています。

 

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