聖女の末裔(本物です)
「お嬢様、リィラお嬢様、起きてくださいませ。お母上はすでに食堂でお待ちですよ」
誰かが私を起こしている。リィラ?誰それ、私の名前は・・・何だっけ。
「リィラお嬢様、もう7つにおなりなのですから、ばあやの手を煩わせないでくださいな」
昨夜はゲームをしてから宿題をして、そのまま机で寝ちゃったような・・・てか、7つって何、私は高校生、17歳のはず。リィラなんて名前でもないし・・・あれ、名前が思い出せない。
「リィラお嬢様、いい加減になさってくださいませ。お母上に叱られてもばあやは知りませんよ」
「もう、考え事してるんだから少し黙って!」
私はびっくりした、自分の声の幼さに。
「お嬢様、ようやくお目覚めですか。ささ、早くお召替えを。お母上をお待たせしているのですから」
初老の女性は素早く私を立たせると、数人の侍女にテキパキと指示を出し効率よく着替えさせていく。私はまだ状況がのみ込めなくてされるがままだ。
「えっと・・・ばあやさん?つかぬ事をお伺いしますが、ここは何処で私は誰なんでしょうか」
私が恐る恐る尋ねると、初老の女性は作業の手を止め私の顔をじっと見つめため息をついた。
「今度はどんな遊びをなさっているのですか?お嬢様。以前なさっていた領民の子と入れ替え遊びですか?あれはお母上に止められたではありませんか」
「いえ違います。本当に分からないのです。教えて頂けませんか」
初老の女性はより大きなため息をつき、仕方なさそうに答えてくれた。
「まだまだ遊びたいさかりなのは分かりますが、ほどほどになさってくださいませ。お嬢様は偉大なる聖女様の末裔なのですよ」
聖女の末裔・・・その言葉で私の頭に洪水のように一気に記憶が流れ込んできた。
私の名前はリィラ、魔王を封じ世界に平和をもたらした聖女の末裔だ。その当時の王の妹であった聖女はその功績により爵位を与えられ魔王を封じた地を領地に賜り、その子孫が代々この地を治めてきた。不思議なことに代々女児一人しか産まれず、私も例にもれず女子一人っ子だ。初代が聖女様なので、女性のみが継げる特殊な爵位になっている。私もいずれお母様の跡を継ぎ立派な公爵になれるよう日々努力している。
「リィラ様、このミミズ大きいでしょ」
「わぁ、立派なミミズ。この畑が良い畑だという証拠ね」
今も領民と仲良く土いじりの最中だ。この地は国の端にあり、あまり良い土壌ではなかったが、聖女様の御力でなんとか作物が育つようになったときく。聖女様の御力は偉大なのだ。
「リィラ様、この泥団子みて、すごく上手にできたでしょ」
「私の泥団子も負けてないわよ、後で皆で比べっこしましょう」
聖女様は領民の為、領地運営に尽力なさったときく。なので偉大なる聖女様の末裔であるという誇りを胸に我が家は代々領地運営に心血を注いでいるのだ。私も領民と親しくするよう心掛けている。今日は彼らに娯楽を提供する為、屋敷の畑で誰が一番立派な泥団子を作れるか競い合う会を開催しているのだ。
「リィラお嬢様、礼儀作法のお時間ですよ。そろそろお戻りにならないと準備が間に合いません」
「まだお昼前ではないですか、ばあや。まだまだ遊べるはずです。ねぇ皆さん」
「「「そーだそーだ」」」
領民の賛同を得、私は意気揚々とばあやに抗議する。しかしばあやが微笑んだまま威圧するという器用な芸を見せると、彼らはすごすごと引き下がってしまった。残念である。
「もう、まだ途中なのに。皆に悪いことをしてしまったわ」
仕方がないので、私は服についた土を払いながら立ち上がった。
「この泥団子は大切に保管しておいて、明日続きをやるから、お願いね」
「かしこまりました、お嬢様」
礼儀作法や行儀作法、他にも色々と7つにして覚える事が一杯だ。偉大なる聖女様の末裔って、結構大変である。
夢の中のあの女性は、なんという名前だったのかしら。
初めての投稿なので緊張しています。よろしくお願いします。