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沈黙の黒騎士→ただ話すのが苦手なだけ  作者: @novel
第七章 終焉の先に待ち受けるモノ→いよいよ……最終決戦!
97/100

*97 女神顕現

次回エピローグです

「……ここは」


 ジンが目を覚ますとそこは一面の花畑に覆われて光が刺す、まさに楽園と形容するに相応しい場所だった。

 周囲を見渡すと一本の木が花畑の一角に生えており、その下に誰かがいることに気づいた。


「あれは……」


 ジンが木の下に近づくにつれてそのシルエットが明らかになった。そこにいたのは黄金に輝く綺麗な長髪を靡かせている人間離れした美貌をした女性と、その女性の膝で静かな寝息を立てている魔王の姿だった。


 ジンが近くに寄ったことを察知したのか、女性が顔を上げてジンに向かって一礼をした。


「ありがとうございました。貴方のお蔭で私は浄化され、この世界に平和が訪れました」

「……あんたはまさか」

「はい、先ほどまで貴方方と戦っていたあの〝深淵〟でございます」


 驚愕の事実だった。

 ジンは驚き、目の前の女性が先程まで戦っていたあの悍ましい存在だったということに動揺を隠せないでいた。


「と、すると……あんたが、転生神か」

「はい、私の神名は『エシラム』、この世界の転生を担っていた元女神です」


 それからエシラムは語った。



 エシラムは今よりも遥か昔、数万年も前からこの世界を見守っていたらしく、嘗ては数多くの信徒がいたとのこと。

 しかし時が経つにつれ、エシラムの事を覚えている人間が次々と亡くなっていき、遂にはエシラムの事を覚えている人間が居なくなってしまったという。


 神は人々の信仰によって成り立つのだが、地上からエシラムの名が忘れ去られてしまったことで彼女は女神としての力を失い、次第にこの世界から消えようとしていた。

 しかし、彼女にはまだ少しばかりの力が残されており、あと一回はその権限を発動できることを知るとエシラムは願ってしまったという。



 ――もう一度自分の名を覚えておいてもらいたい


 その結果エシラムは自身が課せた願いによって滅びることを許されず、次第に女神としての面影が薄れてしまい、結果としてあの〝深淵〟となり果ててしまったという。


 そして魔王にとりついた理由だが、どうにも魔王は自身の持つスキル〝魔王権限〟によりこの世界の歴史を全て知った結果彼女の名前を知ることになり、それに目を付けられた魔王は正気を失っていたエシラムに乗っ取られてしまった。これが事の顛末であった。


「ごめんなさい……! 私の身勝手な願いの所為で、多くの子供たちが、ひいては貴方のご両親も殺めてしまった……!」


 エシラムは泣きながらジンに謝り続けた。


「確かに、あんたが俺の両親を殺したことは紛れもない事実だ。だけど――俺はあんたを許す。あんたはあんたの為すべきことを果たせ」

「あ……あぁ、貴方は……ありがとうございます……」


 そしてジンはエシラムの膝元で眠っている魔王に意識を向けた。


「……その魔王は、どうなる?」

「この子は……貴方のあの力で私と同様に浄化され、禍々しい魔力を失いました……しかし、彼女は生きたいと願っているようです……」


 ジンが魔王に意識を向けると、魔王は涙を浮かべながら微かな寝言を発し始めた。


「私……もっと……遊びたい。もっと……皆と、笑いたい……人間として、生きたい……」

「……」


 そこにいたのはあの凶暴な魔王ではなく、ただの少女であった。

 ジンが魔王の涙を手で掬い取ると、ジンの甲冑の感触が気に入ったのか、身をよじらせながらジンに縋りついてきた。ジンはそれを振り払うことなくされるがままにしていた。



「……それであんたはどうなる」

「私はもうじき消滅します……当然の報いです。子供たちの命をあれだけ奪っておいて、許される訳がありません」

「……良いのか? 今のあんたは俺の《一度きりの奇跡(ラスト・ミラクル)》で正気を取り戻せたんだぞ? その気になれば俺があんたの名を地上に広めて信仰を集めることもできるんだが……」


 ジンがそういうと、エシラムは首を静かに横に振った。

 エシラムは、女神としてではなくただのエシラムとして死に、そして人間と同じように魂を輪廻の輪に移すことを決めたという。


「……あんたがそう選択するなら、俺は何も言わない」

「ありがとうございます。……あの、一つよろしいでしょうか?」

「なんだ?」


 ジンがそう聞き返すと、エシラムは微笑みながら


「もし、人間になったら私に会いに来てくれますか……?」

「……良いだろう。ただし、俺が生きている内にな」

「ふふふ……楽しみにしておきます。それと……貴方に私の力を……」


 エシラムはジンに向けて手を翳すと、手から放たれた光がジンを包み込んだ。

 たちまちジンの身体に女神の力が譲渡され、甲冑の背には三つに重なり合った金の天輪がまるで翼のようにして浮かんでおり、ジンに女神の力を継承したことを露にしていた。


「これは……」

「私からの……転生特典ですよ。最も、ずいぶんと遅くなってしまいましたけどね」


 そういうとエシラムの身体は消え始め、同時に周囲の花畑から金色の光が立ちこみ始め、徐々に消滅し始めた。


「……あぁ、これで私は……漸く、あの子たちに会うことが……そして、罪を償う時が……」


 エシラムは目を瞑り懐かし気な表情を浮かべていた。


「聞こえる……私の子たちの声が……皆が、私を……待って……いる」


 既に下半身は消え、残す所はあと胸から上のみとなったエシラムは天に向かって手を伸ばした。

 ジンは魔王を抱きかかえ、静かにエシラムの最後を見届けていた。


「私は……わた、し……は……」


 完全に消え去ったエシラムを見届けたジンは静かに胸元の十字架に向かって、静かに祈りと神の名を捧げた。



「――エシラムに救いあれ」





◆◆◆



「なんだ……? 泥が……光始めたぞ……?」


 切迫した状況下にあったヴィクター達はあと少しで飲み込まれる寸前にまで陥ったいた。しかし突然泥の動きが収まったかと思えば金色に光り始めたのである。


 やがて泥が金色に輝き始めると、魔王城も続けて光始めた。


「なんだ……ッ!? 魔王城が!?」

「見てください! 魔王城から光の柱が!」


 部隊の内の誰かの声に釣られてカルメンが魔王城を見上げると、魔王城から神々しくも優し気な光を放つ柱が伸びていた。


 カルメンだけでなく、その場に居合わせた多くの兵士がその光景に魅了されていると、次第に泥も光の粒子になって消え始めた。


「まさか、やったのか!」

「ジン達が……やってくれたんだ!」


「「「うおおおおおおおおお!!」」」


 瞬間、各地の戦場から歓声が響き渡った。

 勝利を祝う者や、互いに健闘を称える者、生き残れたことに安堵する者、そしてこれを成し得たジン達を称え、祝う者も現れた。


「ふ……ふふふふ……はははははははは!!」


 カルメンは緊張が解れ思わず天を仰ぎ見るようにして倒れ込み、大声で笑った。


「はぁ……終わったね……」

「あぁ! 遂に成し遂げてくれたのだ! ジン達が!」

「ほら、立つよ。まだジン達を迎えるっていう使命があるじゃないか」

「おぉっと……済まない肩を貸してくれないか? ずっと動きっ放しで全身筋肉痛なのでな……」

「はぁ……まぁいいよ。今日だけ特別ね」


 ヒュドールがカルメンの手を掴むと、カルメンはゆっくりとその場から立ち上がり、ヒュドールに身体を預けた。


 一方ヴィクターは深呼吸をして戦場の空気を肺に取り込むと、満足げな表情を浮かべ豪快に笑った。


「良くぞ、世界を救ってくれた……! 我の最後の戦争に申し分のない程の極上の戦であった……! 我が祖先に送る良き土産話が出来たな」


 ヴィクターは名残惜しさを感じつつも来たる英雄の凱旋を迎えるための指示をだした。



 ――その日、全人類が歓喜の渦に包まれ、互いに喜びを分かち合った。



◆◆◆


 ――少し前


「ジン様は……どこに……」

「ジン……」


 アイリとグレイは突然消えたジンの行方を心配していた。


 周囲は一転の曇りもない綺麗な青空が見え、肌を指す空気はとても爽やかで勝利を祝っているようだった。

 そしてあの光の柱がアイリとグレイの前に顕現したかと思うと、空からゆっくりとその手に元魔王を抱えてジンが降り立ってきた。


「ジン様!」「ジン!」


 二人は即座にジンに駆け寄った。


「ジン様……無事で、良かった……!」

「ジン……!」

「ただいま。ちょっと、全部終わらせてきたから遅れちゃった」


 ジンはこれまで起こったことを全て話した。あの‶深淵〟の正体が女神エシラムであることと、なぜエシラムがあぁなったのか、そしてこの手に抱えた元魔王のことも


 二人は流れてくる情報の多さに困惑しつつも、流石ジンと言わんばかりにジンに輝かしい笑顔を向けていた。ジンも二人に連れられて冑を脱ぎ、晴れ晴れとした笑みを浮かべ――


「じゃあ、帰ろっか」

「はい!」「うん!」


 彼らは家路についた。

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