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沈黙の黒騎士→ただ話すのが苦手なだけ  作者: @novel
第七章 終焉の先に待ち受けるモノ→いよいよ……最終決戦!
95/100

*95 魔王ヲ打チ倒ス者タチ 後編

「じゃあ、手始めにこれを凌いで見せて♪」


 ズババババババババ


 魔王が以前ジンに見せたように無数の禍々しい槍を背後に出現させた。途方もない数であり、空を埋め尽くすそれは圧巻の一言に尽きる。


 その標的はジンに向けられており、これに対してジンも負けじと右手をスッと天に掲げた。


「上等だ」


 シュシュシュシュ


 瞬間暗黒の空間を埋め尽くすような数の武器が顔を覗かせた。前回との違いがあるとすれば、その全てが【色付き】の力を帯びた武器であることだろう。


 やがて空が武器で埋め尽くされると――二人は上げていた手を振り下ろした。


「えい♡」「行け」


 その瞬間凄まじい轟音が絶え間なく鳴り響いた。空間のあちらこちらで武器が衝突し、砕け散る音が鳴った。


 暫くして音が鳴りやむと、そこには


「へぇ……」


 ――魔王の槍が全て粉砕されていた。


 しかしジンの方は、まだ無数の武器が宙に浮かんでおり、余裕そうに見えた。

 その事実に感嘆の笑みを浮かべる魔王は、今度は右手に異様な刃を持つ大剣を呼び寄せた。



「じゃあ――ここからが本番だね♪」

「アイリ、グレイ。来るぞ……!」


 ドグォン!


 魔王の尋常ではない脚力によって発生した推進力が、ジンに襲い掛かった。


 魔王は剣をジンの頭部目掛けて振り下ろした。


 ガキン!ギリギリ……


「……ッ! 力も殆ど互角……いや、私よりも少し上!」

「クッ……!」


 しかしジンの光輝く大剣が魔王の剣の側面を斬りつけるようにして割り込み、鍔迫り合いになった。


 そこにアイリの刀が。グレイの魔法が魔王に襲い掛かった。


「《乱れ桜 月読の舞》」

「《元素螺旋槍(マテリアル・スピアー)》」


 魔王の退路を完全に塞ぐ斬撃の嵐が確実に魔王を捉え、斬撃の嵐の合間を五大元素の力が込められた螺旋槍が貫きに行った。


「おっと。これは不味いかな? 《全反s」

「――《完全沈黙》発動」


 魔王は迫りくる脅威をはね返そうと魔法を唱えようとした。

 しかしジンの《完全沈黙》により()()()()()()()()()にされ、魔王はまともに喰らう羽目になった。


 鋭い斬撃が確実に魔王の小柄な体を切り刻んでいき、辺りには魔王の身体から漏れ出した血が飛び散った。さらに元素の槍が直撃し、魔王はよろめく。

 そして魔王はお返しと言わんばかりに他者の命を容易く奪えるであろう凶悪な魔法の詠唱を始める。


「……!?」


 しかし魔王は《完全沈黙》により声を発することが出来ず、詠唱が出来なくなっていた。驚き仰天する様子がジン達にも伝わってくるようだった。



 ジンが習得した《完全沈黙》の対象はこれまでのようにジンだけではなく、他者にも影響を及ぼすことが出来る。そして大魔法には詠唱が付き物であるため、必ず声に出さなければ本来の力を十分発揮できないのだ。


 ――だが《完全沈黙》適応下においては、そもそもの詠唱を発動することが出来ず、不発に終わるのだ。



 魔王はその事実を知らぬまま、慌てて傷ついた体を再生させる。だがそこにジンの追撃の一撃が加わった。


 バチバチバチ


「《黒い剣》」

「――ッ!!」


 これまでの比にならない程の黒い稲妻を纏った大剣が魔王の胴体に横薙ぎに襲い掛かった。言葉こそ口にはしないものの咄嗟に後方に回避した魔王。


 しかし大剣から神々しい光の波動と幾つかの黒い斬撃が無数に飛来し、回避した筈の魔王を切り裂いた。その際腕や脚が空中に投げ出された。


 魔王の身体は一瞬でバラバラにされるも、即座に血と肉片が集まり再生した。


「……ッ!!」


 今度は大鎌を取り出し斬撃を飛ばそうとするが


「《乱れ桜 日輪(にちりん)の舞》」


 既に大太刀『落桜(らくおう)』に持ち替えていたアイリの天からの一撃と見まがうほどの振り下ろしの一撃。

 魔王は咄嗟に鎌で受け止めようとするも、アイリの刃は鎌もろとも魔王を縦に切り裂いた。


 魔王は歯軋りをしながらまるでビデオの巻き戻しのようにして体を再生させた。

 それと同時に周囲に禍々しい紫電が走り、魔王に向かって魔力が集まっていった。


 《完全沈黙》を受けた状態の魔王は、詠唱を封じられている。しかしただ魔力を集め、解き放つことは出来るのである。

 詰まる所、魔王はその膨大な魔力を集束し、解き放とうとしているのだった。


 魔王の無尽蔵ともいえる魔力をそのまま解き放つだけでも、国の一つを滅ぼせるほどだが、今それが放たれようとしていた。


「――ッ!!!!!!」


 魔王が両手に魔力の塊を集め、叫び声を上げているような表情を浮かべながら、両手を地面に向けて叩きつけた。


 ――瞬間魔王城の一部がまるごと消し飛んだ。





ドグォォォォォォン!!


「なんだ!? あの爆発は!?」

「フラム殿か……? いや、違う!あれは魔王だ!!」


 魔王城周辺にいた兵士たちは魔王城で発生した爆発に意識を向けていた。


 魔王城の最上部で発生したその爆発はまるでフラムの《赤の世界(レッド・ワールド)》かと思わせたが、フラムとは似ても似つかないその余りにも悍ましく、身の毛もよだつ魔力がその可能性を否定していた。


「グハ……ッ!」

「ヒュドール!」

「……ゴホッ!! 不味い……《青の世界(ブルー・ワールド)》を維持できないッ!!」


 膨大な魔力の奔流は、魔王城周辺を覆っていたヒュドールの《青の世界(ブルー・ワールド)》に多大な負荷を与えており、ヒュドールもその反動で目や鼻、そして口から血を漏らしていた。


 ヒュドールの手は震え、やがて地面に突っ伏し口内に溜まった血を吐き出し、苦しんだ。


「はぁ……はぁ……」

「大丈夫か!? ヒュドール!!」

「だ、大丈夫です……ヴィクター様……ボクは偉大なマクスウェル家……ここで力尽きる訳には……!」


 そういってヒュドールは息を荒くしつつも、再び目を閉じ、《青の世界(ブルー・ワールド)》の維持を始めた。


「ボクは、ボクのやるべきことを全うする! マクスウェル家の家訓〝使命を最後まで全うせよ〟それにボクは従う! 皆が頑張っているのに、ボクだけリタイアする訳にはいかないッ!!」


 そうしてヒュドールは血塗れになった手袋と両手を顔の前で祈るようにして組み合わせ、集中し始めた。





「……」


 魔王によりもたらされた天変地異の一撃により、空間内はすっかり荒れ果てていた。


 綺麗に舗装されていたであろう足場はボロボロに崩れ、空間にもいくつかの綻びが現れ、僅かに光が差し込んでいた。


 あたりは沈黙に包まれ、ただ魔王のみが立っていた



 ――かのように思えた。


「……!」


 煙が晴れるとそこには、まるで花の花弁のように展開された色とりどりの武器が回転していた。

 そして花弁が停止し、散開するようにして武器が消えるとそこには――誰もいなかった。


「……!?」


 どこに、と言いたげな表情で周囲を見渡そうとすると、突然魔王の両サイドからアイリとグレイが現れた。

 二人は《完全沈黙》により魔王に気取られることなく魔王に近づいたのだった。魔王は咄嗟に気づき両手に魔力を集め槍の形に整え、それを解き放とうとした。


「《魔力解体》」

「……ッ!!」


 グレイの魔法により魔王の両手に集まった魔力が周囲に散らばり、槍が消滅した。

 驚いた魔王は必死に考えを巡らせ再び全身に魔力を漲らせた。


 だが、その場からの回避を選択しなかったことで


 ズドドドドドドド!


「……ッ!?」


 何処からともなく射出されたジンの武器が魔王の全身に突き刺さった。魔王は思わず苦悶の表情を浮かべ、魔力を離散させてしまった。

 そしてアイリとグレイがすれ違いざまに一撃を叩き込んだ。


「《乱れ桜 月輪(げつりん)の舞》!」

「《元素剣(マテリアル・ブレード)》!」


 アイリの知覚できない一閃とグレイの魔力の剣による一撃により魔王は絶大なダメージを受けた。魔王の表情は驚愕に満ちた表情だった。


 そして思わず顔を上げた魔王の視界に、こちらに向かって剣を振り下ろすジンの姿があった。


「……あ」


「《静寂の剣(サイレンスブレード)》」


 静寂を告げる刃が魔王を切り裂いた。


 魔王はあっけにとられたような表情をしながらも、次第に満足そうな表情を浮かべ目を閉じた。





 ――その時だった


 ずるり、と斬られた魔王の断面から何かが這い出てきた。瞬間アイリとグレイは鳥肌が立ち、ジンの近くに寄り、這い出てきたその何かを凝視していた。


 それはまるで泥のようで、しかしその全てが生き物のように胎動し、蠢いていた。

 そして魔王の断面からポッカリと穴が空いた顔のような何かがゆっくりと、覗かせた。


 ジンが以前見たよりもどこか形が不定形で、より歪になった〝深淵〟はノイズ交じりの唸り声を上げながらジンに向かって黒い手を伸ばしていた。


「……ここからが正念場だ」

「はい……!」

「気持ち悪い……けど、頑張る!」


『オ、ォオオオオオ……身体ヲ、ソシテ■■ヲ……寄越セェエエエエエ!』


 深淵が悍ましい叫びと共にジン達の前に立ちはだかった。

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