*89 挑む者
――翌日
ジンとヴィクターとの模擬戦闘が行われる当日。
模擬戦闘が行われる訓練場には多くの観客が押し寄せていた。まだ開始時刻でもないのにも関わらず、周囲は喧騒に満ちており、中にはどちらが勝つかの賭けをしている者や飲み物や弁当を販売している者もいるなどもはや野球球場のような物になっていた。
また、空にはせわしなく動く塊のような物が飛び交っていた。
これは、所謂ライブカメラのような魔道具であり、遠隔の地にいてもジンとヴィクターの闘いを見ることが出来るのである。その数はかなりの物であり、空を見上げればそれぞれが最高のポジションを得るために奔走しているのが見える。
そして観客席の一角には俗にいう国のお偉いさんたちの為の特別席が設けられていた。
特別席は観客席よりも上に設置されており上から全体を見渡せるほか、魔法によってコーティングされた特殊なガラスで保護されているのである。
その中にはヴィクターとの関りが深い老練の人物やジンがこれまで関わってきた【色付き】の面々というそうそうたる面子が招かれていた。
「おっ、久しぶりだなカルメン姐さん」
「フラム殿か、久しぶりだな。君もここに来たのか」
「あたぼうよ! ジンがまさかあのヴィクターと闘うなんてよ! そりゃあもう行くしかねぇよな!?」
「ふふふ。成程フラム殿らしい理由だな」
フラムとカルメンが話していると、特別席の入り口から黄色の長髪をたなびかせる男が入ってきた。
――雷電である。
「フラム」
「おぉ、雷電じゃねぇか! 久しぶりだなぁ!」
「この前は世話になった」
「ほう、そちらが【黄色の雷鳴】こと龍誠・R・雷電殿か……私はカルメン・ルビエラ・セーラス【緑色の樹海】だ。よろしく頼む」
「此方こそ」
「ふーん……貴方達も来ていたのね?」
「む?」
「おっ、ビアンカちゃんか」
「だから不敬ィイ!!」
セイクリッド王国法王であるビアンカがフラムにキレながら同じく特別席に入ってきた。周りには御付の白い聖騎士を思わせる《白の衛兵》が控えていた。
「な……ッ!? セイクリッド王国法王の……ビアンカ様!?」
「貴方が【緑色の樹海】のカルメンね? 私は【白色の祝福】ビアンカ・セイクリッドよ。宜しくね」
「は、はい……よろしくお願いいたします」
「よろしくね。それで……貴方が……」
ビアンカの視線が雷電に向かう。ビアンカの視線を受けた雷電は頭を深々と下げ、名乗った。
「【黄色の雷鳴】龍誠・R・雷電と申します」
「よろしくね……イイ男ねボソッ」
「?」
ビアンカが雷電の顔の良さに見惚れていると、少し疲弊した様子のヒュドールが部屋に入ってきた。
「あっ、既に揃っていたんだ」
「うん? おぉ、ヒュドール! 防壁の設置が終わったのか!」
「まぁね……ジンとヴィクター王がぶつかり合うからより強力なものにするのに結構手間取ったよ。ふわァ……眠たくなってきた……」
「お疲れ様ね……」
『さぁさぁ! これより我々は伝説を……後世に語り継がれるであろう神話を目の当たりにするのです! いよいよその幕が開こうとしております!!』
五人の話を遮る形でアナウンスが流れる。いよいよその時が来たかと五人を含めた特別席に招待された人物が各々の席についた。
『さぁ! これより我らのセーラス国国王にして戦士であるヴィクター・セーラス様と! 数々の武勲を挙げ、かの四天王をも撃破した実績を持つ、再誕の英雄【黒色の武装】タチバナ・ジンとの模擬戦闘が行われようとしております!!』
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」」」
会場の熱気はボルテージを迎え、観客の声量で訓練場が揺れた。そして周囲からは歓声が沸き上がり、まだ始まっても居ないのにも関わらず、凄まじい迫力に満ち満ちていた。
「いよいよ……始まるのか!」
フラムも思わず熱気にあてられる形で拳を握りしめていた。
『それでは……選手、入場ォォオ!!』
ドグォオオオオオオオオン!
訓練場の両端に設置された扉が勢いよく吹き飛んだ。
扉は見るも無残な程に破壊されており、その扉の破片の上を力強い足音と共に踏み越えていく戦士がいた。
『き、き、来たぞぉおおおお! 我らセーラス国の王にして、戦士! 戦士にして王! その名はぁああああ……ヴィクター・セーラスぅううううう!!』
「ハァアアアアアアアアアア!!」
ヴィクターは溢れんばかりの闘志を表すかのような力強い雄叫びを挙げた。その雄叫びにより発生した衝撃波がヒュドール達が観客席に貼った透明なバリヤが震え、軋みだした。
そしてドスンと大きな音を立て、地面に黄金の両手剣を突き立てた。その姿はまさに圧巻の一言に尽き、ヴィクターは目を閉じて時が来るのを待っていた。
観客席からは暫しの無音が流れたが、やがて途轍もない歓声が沸き上がった。
そして観客の熱気に合わせて司会が喋り出した。
『さぁいよいよ挑戦者の登場だぁ!!』
進行に合わせてヴィクターの向かい側の扉がズズズと音を立てて開き始めた。
――その瞬間、ヴィクターの向かい側に【黒色の武装】の武具が突き刺さり、顕現した。
『な、な、な……なんだこれはァアアアアアア!!?』
「……ククク」
地面には漆黒に輝く武具や、赤、青、緑、黄、白の武具が所狭しに突き刺さっており、そしてその武具の間にはジンの扉からヴィクターまでの一本道が出来ていた。まさに剣の荒野といった所だろう。
観客もフラム達もその光景に固唾を飲み、見守った。
「ジン様、頑張ってください……」
「ジン……頑張って!」
「あぁ……行ってくる」
一方こちらは扉前の光景であり、武具で作られた一本道を一瞬で造り上げたジンは、アイリとグレイに激励されながらゆっくりと足を扉の先に進めた。
『つ、遂に来たぞぉおおお!! 【黒色の武装】が! 剣で彩られたそのロードを通って、現れたぞ!』
扉の中から現れたジンはゆっくりと、しかし威風堂々とした立振舞いで武具の間を進み、そしてヴィクターの眼前に立った。
その瞬間ヴィクターの背後にも膨大な数の武具が表れ突き刺さった。さらにジンの背後にまで隙間なく突き刺さった。
――逃げ場などない。元より逃げるつもりなどないというジンの意思の表れでもあった。
「……良くぞ、我の眼下に立ったな。さぁ……武器を取れ、そして闘おうぞ!!」
「……来い」
ヴィクターが黄金の両手剣を引き抜くと同時に、両手を胸の前でクロスさせたジンの手に《黒騎士の赤槌》と《黒騎士の黄鎌》が出現し、ジンはそれらを振り払うようにして勢いよく真下に振り下ろした。
どちらの武具もこれまでよりも一層強く輝いており、まるで勝負の時を今か今かと待ちわびているようだった。
ヴィクターの目はギラついており、歯をむき出しにして獰猛な笑みを浮かべていた。両手剣の持ち手を握るギリリという力強い音が沈黙に包まれた周囲に響き渡った。
ジンも冑の下ではヴィクターの一挙手一投足を見逃さないと言わんばかりに睨み返しており、一触即発と言った感じだった。
『……では、両者見合って…………始めェ!!!!』
――次の瞬間両者の姿は消え、途轍もない轟音が鳴り響き、観客席を凄まじい衝撃が襲った。




