*87 継承と覚醒
記憶の映像が途切れた所でジンは、唖然としていた。まさか魔王の背後にあんな悍ましい存在がいたことに、そして自分の両親がその存在に殺される寸前にまだ腹の中にいた自分を父の故郷に飛ばしたことの裏側を知り、複雑な感情が渦巻いていた。
「……とまぁ、このように俺と母さんはあれに殺されちまった訳だ」
「あれは……何……?」
「そうだなぁ……俺も死んだ後に知ったことなんだが、どうもあれは元々この世界を管轄していた転生神……それが堕ちた姿と言えばいいかな」
「あれが……!? じゃあ、俺が会ったあの爺さんは……?」
「うん? あぁ、あれはグリースだ。あの後色々あって神の座にまで昇格したらしいぜ」
「えぇ……」
さらっと神になっている父の同僚に困惑を隠せないジンだが、コウキがふと未だ宙に浮かんでいる大剣に手を伸ばした。
「……? 何を?」
「――ふん!」
コウキがうなり声をあげ手に力を込めかざすと、大剣から強い光が発せられたかと思うと、光の刃の表面に幾何学的な文様とこの世界の文字が浮かび、ジンの足下に降り立ってきた。
ジンが大剣の持ち手を握ると、ジンの身体に一瞬その文様が浮かんだかと思うとすぐに消えた。
「今のは……?」
「これで、よし……あぁ、今のであの即死魔法を耐えられるようになったからな。後はその剣であの邪神を突き刺せばオッケーだ。……魔王の嬢ちゃんは、ただ邪神に操られているに過ぎない。どうか解放してやってくれ」
「……これは俺だけ?」
「大丈夫、そこら辺も織り込み済みだ。お前の信じる仲間にその光を浴びせろ。そうすれば同じ加護が宿るだろうよ……」
そういうとコウキの身体が消え始め、ジンは慌ててコウキに駆け寄る。
「父さん! まだ俺は話し足りないことが……ッ!」
「それは俺もだ。せっかく息子と会えたのによ……でもなジン。俺たちはいつでもお前を見守っているぜ。だから……」
「……ッ! 待って!!」
「達者でな」
笑顔を浮かべたコウキの身体が光になり、完全に消え、ジンの手が虚空を掴んだ。それと同時に周囲から光が消え、気づくと真っ暗な暗闇の中で闇を切り裂く光を放つ大剣を持ったジンだけが佇んでいた。
ジンは光に照らされて刃先に浮かび上がったこの世界の言語で書かれた文字を読んだ。
「……『希望をあなたに』……ははっ……わかったよ……父さん……俺が、決着をつけるよ」
ジンの瞳に確かに決意の光が灯り、大剣を強く握りしめた。ジンの内面を表しているように光が強まり、神々しい光が辺りに満ちた。
そして微かにジンのプレートが光輝いた。ジンはプレートを手に取ると、自身のステータスの爆発的な成長と新たなスキル、そしてスキルの変化を目の当たりにした。
――《受け継がれし魂》《黒き世界》《色彩の加護》《完全なる色彩の光剣》……習得
――《沈黙》《収納》《適応》……完全進化
――《完全沈黙》《完全収納》《完全適応》……進化完了
――《■度■りの■跡》……習得率……■■%
◆◆◆
『……ん』
『あっ、起きた? で、どうだった? ジンは』
『あぁ……元気でやってたさ』
『ふふふ。それなら良かった……』
『ほんとに逞しく育ったものだ……』
色とりどりの花が咲き乱れている空間にコウキと黒い外套を纏ったアンナがいた。コウキはアンナの膝で目を覚ました。所謂膝枕である。
二人はジンのことについて話した後、顔を見合わせて笑った。
『さて、ジンを見守るとしますかね』
『そうですね……と こ ろ で ?』
微笑みの表情から一転。アンナの表情は細目のままでコウキに対して明確な威圧感を掛けてきた。その表情から途轍もない圧を感じたコウキは思わず固まる。
コウキはアンナのその表情がどんな意味を持つのかを理解していたため、戦々恐々としながらアンナの言葉の続きを待った。
『な、なんでせうか?』
『ジンの隣にいたあの少女……アイリちゃんとグレイちゃんと言ったかしら? あの子たち、とても可愛いわよね?』
『……ハイ、ソウデスネ』
『単刀直入に言うわ。仮に生前にあの子たちに会っていたらどうしてたのかしら?』
『デートに誘ってまs『えい♡』グァアアアアアア!!?』
可愛げな声とは裏腹に万力のごとき力でコウキの首を締め上げるアンナ。コウキは本気で苦しんでおり、手足をじたばたと動かして藻掻いていた。
『あらあら随分と素直なこと。それがコウキの良さでもあるんですけどね?』
『ギ……ギブ……』
『でも、知っての通り私は嫉妬深く……自分の伴侶がまさか自分以外に靡くかもしれないと考えるだけで、怒りがこみ上げてきますの』
『し……死、ぬ……』
『あら私達既に死んでいるじゃありませんか』
ふふふ。と上品に笑うアンナと白目をむいて気絶しかけているコウキという混沌とした光景が繰り広げられていた。
『貴様ら儂の傍で良くそんなことやってられるな』
傍には椅子に腰かけた老人――グリースがため息交じりに目の前の惨状を見ていた。
◆◆◆
「ジン様、大丈夫でしょうか……」
「暫く経つけど……一向に来ないね……」
一方アイリ達はヘファイトスの工房でジンの帰りを待っていた。辺りには金属が叩きつけられる音が響き渡っており、ヘファイトスが普段のように武器を打っていた。
ジンが穴に入り込んでから既に三十分経過しようとしていたこともあり、アイリ達の表情に曇りが見え始めていた。
「大丈夫だ~ジンなら直に戻ってくるだろうよ~」
「……ジン様」
ヘファイトスが武器を打ちながらジンの無事を祈っているアイリ達にそう返した。そして金属を叩く音が数回鳴ったのち、ヘファイトスが武器を打つのを止め、穴の方に首を向けた。それにつられてアイリとグレイも穴の方に視線を向ける。
穴は先が見えない程の真っ暗で、一寸先すら見えない程の闇であった。
だが、その闇の中から神々しい光が唐突にあふれ出した。その光を見るや否やヘファイトスが目を見開き、アイリとグレイはその神々しい光から目が離せなかった。
「こ……この光は……!?」
「綺麗……」
「ついに……やり遂げれたんだな……!」
光が穴の傍に近づいてくると、穴の中から黒い甲冑が現れた。
――そして
「ただいま」
「お帰りなさい!」
「お帰り、ジン!」




