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沈黙の黒騎士→ただ話すのが苦手なだけ  作者: @novel
第七章 終焉の先に待ち受けるモノ→いよいよ……最終決戦!
86/100

*86 真の敵

「なんで……何で父さんが、ここに……」


 突然の来訪者に動揺するジン。それはそうだろう。

 何せ存在だけ知っていた筈の自分の父親と、もう二度と会えるはずがないと思っていた父親に会えたことに喜びよりも困惑が勝っていたからだ。


「ははは。何、いずれジンがここに来ることを見越してな予め細工をしておいたのさ。……それにしても随分大きくなったな……」


 ジンの父、コウキはジンの前に立ち、冑を取り、息子の成長を祝うように頭を撫でた。その表情は穏やかなものであり、撫でられたジンはポカーンとしていたが、徐々に涙腺に涙が溜まっていき嗚咽が漏れ始めた。


「どうして、おれを、一人にした」

「すまなかった……俺はな、その時には既に死んでいたんだ。せめてお前だけはと……俺の故郷、日本に送り届けたんだ」


 コウキは、ジンを甲冑越しでありながら優しく抱擁した。僅かにコウキの方が身長が高いが二人の身長の差は其処までなく、それがジンの成長を端的に表していたといっても過言では無かった。


「……本来は、母さんも来るつもりだったけどな、一人しか来られねぇからっということでな俺が来たんだ」

「……母さんもそっちにいる……?」

「あぁ、元気だよ。いつもこっちでジンを見守っているよ。……母さんからの伝言も預かっているよ」

「……」


「『傍に居られなくてごめんね。ずっと一人ぼっちにしてごめんね。だけど、忘れないで私達は貴方を見守っているわ』……だって」


 それを聞いたジンは、顔を歪め、無言で涙を流した。コウキは慈しみを込めた笑みでジンの頬を伝う涙を手で拭きとった。


「本当はもっと色んなことを話したかったけど……最後に本当に倒すべき敵を伝えておく」

「本当に、倒すべき……敵?」


 ジンが疑問を浮かべながらコウキにそう返すと、コウキはジンの頭に再び手を乗せたかと思うと何かのイメージをジンに送り付けた。その瞬間ジンの脳裏に膨大な情報とともに別の空間に飛ばされる感覚を覚え、目を思わず閉じた。


 そしてジンが目を開けるとそこはまさに戦場という光景が広がっていた。


――これは……!?


 周囲には折れた剣や槍等の武器が地面に突き刺さっていたり散らばっていた。更にそこかしこに甲冑を身に纏った兵士の屍が無数に積みあがっていた。どの死体も腕や足を失っていたり、酷い物では串刺しになっていたり、臓物が飛び散って死んでいる死体も散見された。

 ジンはその光景に驚愕していた。


 するとその屍の荒野の奥で何者かが戦っていることに気づいた。



(あれは……父さんに、母さん? そして二人と戦っているのは誰……?)


『――フッ!』

『はぁあああ!!』

『シャアアアアア!!』


『グゥゥウウ……! オノレェエエエエ!!』


(そうだ、ジン。あれがお前の母さん、アンナだ。で、その隣にいるのがグリース。頼れる仲間さ)


 ジンに似ている甲冑を身に着けたコウキと甲冑と同じくらい黒い教会のシスターが着るような祭服を身に纏い、魔法を放っているアンナ、そして灰色の髪をしたボロボロの外套を纏ったグリースがジンのよく知る魔王と戦っていた。


 コウキの斬撃が魔王の身体を切り裂き、アンナの嵐のように繰り出される魔法が魔王の身体を穿っていった。グリースはその手に持った短剣が確実に魔王の身体に傷をつけていた。


 周囲に魔王の苦悶に満ちた叫び声が響き渡る。しかしその声の裏に何か得体の知れない存在の声が重なっているようにも聞こえる。地の底から響くような怨嗟の声が少女のような声に混ざっているようにもジンは聞こえていた。


 そしてコウキ達が魔王を追い詰めたその瞬間――辺りは暗闇に包まれた



『――なっ!?』

『これは……!?』

『何だ!?』


 暗闇は瞬く間にコウキ達を包み込み、戦場の一角に夜が構成された。


 さらに、その闇の中で魔王の小さな体躯がまるで操り人形のように宙に浮かび上がった。その光景を目の当たりにしたコウキ達は警戒を強めつつも目の前の光景の異常さに目が離せなかった。


『う……ウゥウウ……』

『なんだ……!? 何が起こっている……』


 宙に浮かび上がった魔王の身体から何かが這いずり出てきた。まずは腕、そして胴体と次々と魔王の身体から現れたそれに対してコウキ達は冷や汗をかいていた。記憶越しの筈のジンも目の前の異常な光景に固唾を飲んでいた。


 そして出てきたそれは、禍々しくも、何処か僅かな神性さえも兼ね備える矛盾した存在のように思えた。姿かたちは人のそれだが、顔の中心にはポッカリと穴が空いており、その穴はただひたすらに黒く淀んでいた。


 まさに深淵と形容すべきその異形にコウキ達もジンも言葉を失った。だが、考えることは共通していた。


――こいつは危険だ


『――ッ! やばい! 彼奴を完全に外に出しては駄目だ!!』

『何なんだ! 彼奴は!』

『――ハッ! コウキ、グリース! 危ない!!』


『カラダ……身体ヲ寄越セェエエエエエエ……!!』


 穴の中から発せられたその悍ましい声と共にコウキ達に向かって黒い手が幾つも伸ばされた。深淵はどうやら肉体を欲しているらしく、まるで縋りつくようにコウキ達に迫っていた。

 咄嗟にアンナの魔法により、コウキ達を聖なる光が包み込んだ。黒い手がそれに弾かれるが、依然としてその手の本数を増やし、光の壁を突き破らんとしていた。既に魔王との戦闘で消耗していたコウキ達は息も絶え絶えであった。


 だが、彼らは諦める様子はなく呼吸を整え、各々の得物を手に取り覚悟を決めた。


『……あれをやるしかねぇか』

『仕方ねぇ……俺があの悍ましい手を切り落とす。お前たちは奴の下に……』

『……お願いします。グリース』

『ははっ、頼まれた以上はキッチリやらんとな!』


 そして光の壁が破られ、コウキ達に向かって手が迫った。その瞬間迫っていた手が殆ど切り落とされた。


『ハハハ!遅い! 遅い!! オラぁ! さっさと行くぞぉ!!』


 グリースが先頭に立ち無数に襲い掛かる手を銀色に輝く短剣で切り落としながら、その後ろをコウキとアンナが追尾していった。


 斬られた傍から何本も生えてくる手に対してグリースは無我夢中で短剣を振るい、確実に進んでいった。コウキも背後から迫る手を切り落としつつ何かの準備の為に魔力を集中していた。アンナは魔力をコウキに集め、その補助をしていた。


 そして宙づりになった魔王の身体の傍まで近づいたコウキは暗闇を塗りつぶすかのように輝く剣を構え、深淵に飛び掛かり、突き立てた。


『《黒き世界》』


 その瞬間周囲の景色が塗り替えられていった。それと同時にコウキに襲い掛かっていた手が深淵に吸い込まれていくようにして消滅していった。


――だが


『オォオオオオ!? 我ヲ封印スルツモリカァ!』

『悪いが、今お前を倒せる術が思いつかねぇからな。後で確実に……』


 そこまで言いかけた瞬間。コウキを濃密な死が包み込んだ。


『我ハ確カニ封印サレル……ナラバ、セメテ貴様ラモ道連レダ!』

『――なっ』

『《死別ノ宣告》』

『ガァッ……!』

『アッ……』


 深淵の指先から放たれた死の波動を受けたコウキとアンナの身体はどしゃりと地面に崩れ落ちた。グリースの表情は驚愕に満ち、わなわなと震えていた。


『な、なんだと……』

『フハハハハハ……コレデ、次ニ我ガ蘇ッタ時ノ邪魔者ハ消エタ!』

『――ッ! 待て!!』


 深淵に噛みつこうと急いで足を進めるも既に魔王の身体に入り込み、そして何処かへと消え去ってしまった。


『――クソがぁああああ!!』


 悲痛な叫びをあげるグリースだが、ふと足元にいる二人が息も絶え絶えに何かの魔法を唱えていることに気づいた。


『コウキ! アンナ! 一体何を……』

『……グリース、後のことは……任せる』

『……私たちは、この子を……ジンを……』

『何を言って……まさか!?』


 グリースの視線はアンナの腹部に向けられていた。そしてアンナの腹の中にコウキとの赤子がいることを察知し、彼らが最後に行おうとする魔法についても検討が付いた。


『……ゴホッ。この魔法を、使って、俺の故郷……に、ジンを……』

『無茶をするな! しっかりしろ!!』

『……ごめんね……ごめんね……私のジン……顔も見れないなんて……ごめんね……』

『おいッ! しっかりしろ、しっかりしてくれ!!』


 グリースが涙を浮かべながら必死に声を掛けるも、彼らの意識は徐々に落ちようとしていた。しかしそれに伴って二人の周りに魔法陣が現れると、やがてアンナの腹部にも出現した。

 やがて魔法陣から光が溢れ、そして消えると二人は力なく瞼を閉じ始めた。


『あぁ……どうか、強く、生きて……ジン』

『……許してくれ』

『おい……しっかりしろ! おい、おいッ!!』


 二人の手を握り必死に声を掛けるグリースだったが、やがて二人の手から命の熱が消え、はらりとそのグリースの手から零れ落ちた。


『あ……あぁ、ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』


――荒れ果てた戦場にグリースの虚しい慟哭が響き渡った

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