*83 進化と変化
――翌日
「一先ず退院できましたね」
「あぁ」
ジンが倒れてから四日が経過した早朝のこと。一行はカルメンの待つ執務室に向かっていた。昨日の一日を含めて四日を休息に費やしたジンの身体はなまっているのではないかとカルメンに言われ、体の慣れを取り戻すという目的とジンの甲冑についての話があるとして一先ず執務室で話をすることになったのだ。
(俺の甲冑……あれだけのダメージを受けて全損してないのか……)
【黒色の武装】の甲冑の頑強さに若干戦慄したジンだった。魔王の拳をもろに受けた甲冑の部分はジンの覚えている限りではひしゃげていた筈だったが、以前甲冑にダメージが残った時は、ジンの魔力によって修復されていたため今回も今までと同じように修復されているだろうと考えていた。
しかし、この先ジンは衝撃を受けることになるとは予想だにしなかった。まさか自分の甲冑があんなことになっているとは――
◆◆◆
コンコン
「失礼します」
「あぁ、よく来てくれた。取り敢えずそこに腰かけてくれて構わない」
「では……失礼します」
いつもの執務室についたジン達はカルメンに促されるままソファーに腰かけた。カルメンは書類を書いていた手を一旦止めてジン達の向かい側のソファーに座った。
「さて、早速で申し訳ないが……ジン殿の身体の感覚を取り戻す件について話していくとしよう。とは言っても既に行くべき場所があるのだろう? ……【アライブ迷宮】だったか」
「はい。ジン様が導かれた場所です。本来なら……二日目に行こうと計画を立てていたのですが……」
本来の予定であればアイリの言う通り、二日目に【アライブ迷宮】に行く予定であったが予想外の事態に見舞われたため、予定を変更せざるを得なかった。
「では、今日の内に出発するのだな?」
「ジン様は……どうでしょうか?」
「……俺は問題ない」
「ふむ、では一先ず【アライブ迷宮】には今日行くとして、そうなるとジン殿の甲冑を返還する必要があるな……少し待っててくれ」
そういうとカルメンは傍にいた二名の部下に甲冑を持ってくるように告げると、彼らは執務室の中にあるもう一つの扉の中に入っていった。
それから数分後扉が開かれると、そこには……
(な、ななな……なんじゃぁあああこりゃあああああ!?)
嘗てジンが着けていた無骨なデザインの黒い甲冑は、僅かな面影のみを残して変化していた。ジンはそのあまりの変貌ぶりにただただ驚愕していた。
――運び込まれた鎧掛けに掛けられていた甲冑は、黒であった。しかし、その甲冑のあらゆる部位からは黒い棘のような部位が生えていたり、指先を覆う部位がまるで竜の爪のように鋭くなっており、また全体的に竜の鱗を重ねたような構造に変化していたのである。特にその変化が顕著になっているのは冑であり、西洋の騎士が身に着けているような見た目の冑には、二本の角のような物がそびえており、冑がまるで竜の顎の中にあるかのようなその様相も相まって『竜』か『鬼』という印象を周囲に与えていた。
そして何よりもジンの眼を引いたのは、その甲冑に取り付けられた黒いマントだった。以前ジンが身に着けていた甲冑にはマントなどなく、一瞬ジンを困惑させたが、ふとあることが思い浮かびやがて確信に変わった。
「あのマントは、まさか……」
「はい。私がジン様に贈ったローブが、合体しちゃいました……」
まさかのアイリからの贈り物の元ローブが今や黒色になりその様相も相まって黒騎士というよりは暗黒騎士と呼んだ方が良いのではないかと本気で検討するくらいには禍々しく変化していた。まさか自分の鎧が魔改造されているとは夢にも思わず、ジンは口をあんぐりと開けて絶句していた。
「そもそも何故、竜なのだ……?」
「ジン様。雷霆国での戦いを覚えていますか?」
そう言われてジンは雷霆国での戦い……具体的にはファブニールとの戦いを思い出していた。自分はその時何をしたか……そう、《黒騎士の緑槍》をファブニールの口内に突き刺して返り血を帯びてそして――
「……アッ」
「……想像の通りですが、恐らくその際に帯びたファブニールの血が影響しているのではないかと……」
「ヒュドールも同じ仮説を立てていたな。その甲冑はジン殿とその周りの魔力を吸収して自動的に修復される。なら、その際にファブニール程の存在の返り血……すなわち膨大な竜の魔力が蓄積していた。それで今回の修復で表立った現れた。ということだろうな」
「……割と気に入ってたのに」
とほほ……と言わんばかりに項垂れるジンだったが、背に腹は代えられぬとジンは甲冑を身に着け、鏡の前に立った。
「……」
「どうだ……? ジン殿? 何か変化は?」
「……こっちもいいな」
「ジン様?」
以前までの無骨な甲冑とは異なる禍々しく威厳を放つその甲冑にジンは満足げに息を漏らした。即落ち二コマとは正にこのことである。ジンは満足げにマントを翻したりして堪能していた。グレイはジンの甲冑に目をキラキラとさせ、カルメンは若干困惑したように頬を掻き、アイリはニコニコと事を見守っていた。




