*81 魔王の実力
ズガガガガガガガ!
「――ッ!!」
武器同士がぶつかり、弾け、爆発する音が響き渡る。ジンの周囲には《黒騎士の蒼盾》が衛星のように回ってせわしなく動いている。今も辺りではジンが放った武具と魔王が解き放った槍がまるで生き物のような複雑な軌道を描きながら衝突し合っていた。
ジンも《黒騎士の黄鎌》を手に持ち《黒い剣》を発動して斬撃を飛ばしながら槍を捌いていった。グレイは呆然としながらもアイリに保護され、即席の防御壁を張りながらジンの盾に守られていた。
「あははははは! もっともっと見せてよ!」
「――化け物め……!」
魔王がグレイと同じ声と表情をしながら無邪気に嗤う。ジンは悪態をつきながらも必死に槍を弾いていた。そして魔王の周辺の槍の陣形が薄れた所にジンはすかさず《黒騎士の緑槍》を最高速で打ち込む。魔王の周囲に残っていた僅かな本数の槍は《黒騎士の緑槍》が打ち出される寸前に撃ち落としたため、槍では防御する術は無い。
(獲った!)
しかし《黒騎士の緑槍》が直撃する寸前。魔王は、
「ざ~んねん♡」
(――は?)
――魔王は、素手で虫を払うかのように右手で《黒騎士の緑槍》を払い落とした。地面に亀裂を作りながら衝突したことからもジンが本気で放ったことが伺い知れる。しかし、現実は魔王に撃ち落とされるだけに終わった。ジンは唖然とし、言葉を失った。
「じゃあ、ジン。今度は私の番だよ♡」
猫撫で声をしながら魔王は、両方の手を空に向けて広げる。すると、空には先程魔王が展開した凡そ十倍もの魔法陣が展開された。さらにそこからは先程見せていた槍だけでなく剣や斧、レイピア、鎌、サーベルそして……夕日を真っ二つに両断するほどの大きさの大剣が現れた。
その光景にジンは冷や汗を流し、目を見開いた。しかしここで自分が無様に逃げ出せばアイリとグレイが殺されることになると理解していたジンは、ありったけのバフを自身に掛けて再び武器を出現させた。
「――受け取って♡」
(《超感覚》《縮地》《限界突破》!)
魔王の手が旋律の開始を告げるように振り下ろされると、それらは一斉に発射された。狙いは――ジンである。
ジンは高速思考と集中力極限まで高め、《縮地》により研ぎ澄まされた思考がもたらす最適解を行った。さらにジンが新たに会得していた《限界突破》により今のジンは極限状態になっていた。そしてジンは魔王に向けて駆けだした。
――迫りくる数と質量の暴力
ジンは右手に《黒騎士の赤槌》、左手に《黒騎士の黄鎌》を持ち、目にもとまらぬ速さで迫りくる武具を撃墜していった。ジンの背後では武具が次々と撃ち出され、各々の役目を果たさんとしていた。《黒騎士の黄鎌》により更なる高速移動及び空間跳躍を行えるようになったジンは、地上にいながらもまるでスタントマンのようにアクロバティックに飛び跳ねながら迫りくる武器を落としていった。
「わぁ! すごいすごい!! もっと、もっと見せて!」
(――クソ! 何とかして懐に入り込まなくては!)
光悦としながら頬を赤らめた魔王に悪態をつきながらもジンは必死に武器を振るい、襲い来る脅威を破壊していった。しかし徐々に近づいているのも事実であった。しかしその時ジンの本能がその場からの急速な回避を選択した。ジンは本能に従って黒い残光を残しながら咄嗟に地面を踏み締め、背後に勢いよく跳んだ。そしてジンはその選択が正しかったことを悟る。
「へぇ……これも躱すんだ……」
さっきまでジンが居た場所に魔法陣が描かれたかと、火柱が立っていた。離れていてもその威力が凄まじい物だと伝わるくらいには、その熱気が伝わってきた。フラムの炎とはまた違う、完全に灰すらも残さないと言わんばかりの業火だった。その火柱は周りの建物よりも高く、また横にも広がっていたため、あの場で上か横に跳躍していればいかにジンとはいえ死んでいただろう。
そして嬉しそうな表情をしながらさらに魔王は指を指揮棒のように振るった。それに合わせてジンはその場から今度は前に向けて跳躍した。
(今度は氷か!)
ジンの背後には周り諸共閉じ込める氷山が出来ていた。魔王はあの一瞬だけで分厚い氷の山を構成した。この事実は更にジンの危機感を高めた。それを横目に、ジンは更に魔王へ向けて駆けだした。黒い残光を作りながら高速で接近してくるジンの進路上に的確に魔法をぶつける魔王。それに対してジンは動揺することなく軌道を修正しながら着実に迫っていた。
的確に、そして一つの工程を間違えば即死亡というものだが、今のジンにはそれすら考える余力はなく、ただひたすら目の前の脅威である魔王に一撃を見舞うことしか考えていないのだ。
(前へ……ただ前へ!! 前へ!!!!)
「~ッ!!//」
ジンに向かって飛んでくる刃をジンは聴覚と己の感覚のみではたき落としていった。背中に向かって放たれる魔王の武器は、《黒騎士の蒼盾》や《黒騎士の白剣》が抑え、足元に突如出現する即死級の魔法に対しては縦横無尽に飛び回り、回避していく。
そして遂にジンは、魔王の目の前に立った。
「――喰らえッ!!」
《黒い剣》が発する黒色の雷が纏った大槌を半円を描くようにして思い切り叩きつけた。その威力は並大抵の魔物は疎か、四天王クラスでもまともに喰らえば致命傷となるのは疑いようのない事実であった。叩きつけられた瞬間、周囲を巻き込んだ大爆発が生じた。その爆発はセーラス国の端から端にいても気づく程の轟音と衝撃波と辺りに知らしめた。
(これで……どうだ!)
――しかしここにいるのは四天王より遥か格上の存在であった。故に
「ふふふ。今のは聞いたわ♡」
(嘘……だろ?)
煙が晴れた先の光景は、無傷な魔王の姿であり、僅かに黒い雷を走らせている大槌を片手で受け止めていた。ジンは絶句し、思考が真っ白になる。一方魔王は、目を爛々とさせながら右腕に力を籠め始めた。その瞬間魔王の腕に悍ましい程の魔力と瘴気が集まり始めた。
「ジンが本気を見せてくれたんだもの……私も見せてあげる♡ だから、壊れないでね?」
(不味いッ!防御を……)
「えいっ♡」
少女のような見た目から放たれたその拳は、見た目にそぐわない程の速度と威力を誇っていた。ジンは咄嗟に拳が撃ち込まれるであろう胴体に蒼の盾を結界のようにして何枚も張り巡らせた。
ガガガガガッ!
「――しまっ」
「どーん!」
これまであらゆる攻撃を防いできた盾がまるであっけなく壊れ、そしてジンの胴体に直撃した。その瞬間甲冑はひしゃげ、遥か後方に吹き飛ばされていった。ジンは冑の中で吐血し、やがて勢いが衰えぬまま壁に激突した。その衝撃を物語るように壁には無数の亀裂が入り、やがて崩れた。
ジンの意識は離れている筈の魔王の声と共にそこで途絶えた。
「またね、ジン。今度はもっと強くなってから殺し合おうね」




