*8 奴隷少女解放
視点を一人称から三人称へと変更したしました
「中は思ったよりも広いですね!」
(玄関入ったらすぐにこれか……まぁ、元の所有者が大金持ちだったから何となく予想は出来たけどね)
扉を開けて中に入った彼らが目にしたのは、大きなホール。その大きさはジンの前世を含めてそれこそ、映画やアニメで出てくるような豪邸と言った大きさであった。
(異世界に来てから割と順調なんだけど……順調すぎて少し怖いなこれ)
庶民の感覚が抜けていないジンにとってこういう豪華な屋敷はなれないものであった。そんなことを考えているジンを置き去りにアイリは次々と部屋の扉を開けていく
「すごい!ここが部屋で……ここが調理場で……ここがお風呂!すごいです!ジン様!!まだまだ部屋があります!!」
(すっごいテンション上がってるなぁ、まぁ俺もちょっと興奮しているんだけど……)
アイリは村にいた時にも見たことが無いような屋敷とその中身に触れ、興奮気味になっている。なんだかんだジンもこの豪邸を拠点にすることが出来てご満悦といった所だろう。
しかしジンはあのご主人からの依頼のことを思い出し、アイリにプレートを見せながらその意思を伝える。
「はっ!そうでした!では、準備致しましょう!!その後にでもゆっくりしましょう!!」
(さっさと終わらせられれば良いなぁ……)
そして彼らは荷物を整え、屋敷の裏へ向かうことにした。
◆◆◆
「おおぉおおお!我らの魔王よ!今宵もこの地の魔力をあなたに捧げます!!どうかこの世界に混沌を!!」
(うわぁ……まじでやばい奴らだ……)
屋敷から裏手に回った所の裏山にそいつらは居た。それもあからさまに正気ではない為彼らが主人の言っていた変な連中とはあいつらの事だろう。そうであってほしいとジンは願った。
(……ど、どうしましょう。ジン様)
アイリがこっそりとジンに話しかける。今のジンたちは木の裏に隠れており、ジンはそこから策を練っていた。
(鎮圧自体は、出来ないことはないけど……なるべく生かして拘束したいしな……)
というものこの前のギルドからの説明で、不審者やその類はなるべく生かして情報を得るためにやむを得ない場合を除いて、殺すことはなるべく避けてほしいと言われていたのだ。
(まぁ、ちゃんと生かして送り届けた場合は報酬が上がるし、【契約】がある俺たちにとってこの報酬は素直に有難いものだ。ともかくアイリちゃんになるべく生かして捕まえるように伝えるか……)
そうしてジンはアイリにジェスチャーで『武器は使うな』と伝えた。それにアイリも頷き、意思疎通が取れたことを実感したジンは連中に意識を向けた
「おお!!我らの魔王よ!!今宵は貴方様に相応しい贄をご用意いたしました!!」
(あ?)
「……」
奴らに連れてこられたのは、灰髪の幼い少女だった。その首には枷のようなものが嵌められていて、その身なりはボロボロだった。そしてジンは聞き逃せない単語が聞こえた。
(贄……生贄って言ったか!?あいつら!!)
ジンは拳を握りしめ、目の前の暫定変態を殴る決意を固めた。
(いくよ……アイリちゃん)
そして連中があの少女に夢中になっている間にジンとアイリが飛び出した。
「な、なんだきさブゲェ!!!!」
「いつのまグハァ!!!」
「ええい、何です!崇高なる儀式のじゃアガッ!!!」
ジンはまず近くにいた男を右ストレートで殴り気絶させた。そのままの勢いで今度は左手での裏拳で隣にいた男を殴り飛ばした。そしてあっけに取られている二人の頭を掴み、顔面から木にぶつけた。
その間アイリも三人気絶させていた。ジンはアイリが素手でも意外と強いことに驚いていた。
そして残ったのはあと1人になった。ジンとアイリが徐々に近寄って行くが、男は咄嗟に少女に短剣を突きつけた。男は少女を人質にとったのだ。
「う、動くな!こいつがどうなっても良いのか!?」
(……なんかデジャブを感じるなこの光景)
「い。今すぐ武器を下ろせぇ!!」
(……無い武器は下せないんだがな)
錯乱した様子を見せる男に対してジン達は少女に危害が及ばないようにと少しだけ距離を取った。その時ジンは自分の背後に何かを握るような形で手を向けた。
(……《展開》、骨のナイフ)
ジンの手に鋭利に削られた骨のナイフが握られた。このことに男は気づいていない様子だった。
「ち、畜生!!こいつも道づれだ!!ギルドに捕まりたくねぇんだよ!!!」
(ここだ!!)
ジンの手から投擲されたナイフが男の短剣を持っている手に突き刺さる。男は悲鳴を上げた。
「ギ、ギァアアアアアアアア!」
「……今です!」
アイリが少女を男から引き離した。そしてすかさずジンが腰を抜かした男の眼前に立ちふさがった。男は恐怖に満ちた顔色を浮かべ、懐から何かが詰められていた袋を取り出した。
「ま、待て!金ならやる!!」
(欲しいけど、お前からはいらん!)
「アバァ!!!!」
ジンの拳が男の腹にめり込んで男は近くの木に激突した。その衝撃で男は気絶した。
(あっ、少女ちゃん)
先程の少女の安否を確認するためにジンはアイリの近くに寄った。だがその少女はジンの事をじっと見つめていた。
(……何かこの銀髪の子の俺を見る目がやたらキラキラしてるような……?)
「ジン様、この子……奴隷の身分の子のようです……」
(ど、奴隷!?あ、確かに身なりが何かそれっぽいような……)
アイリ曰く少女の首には【隷属の証】があるそうで、これが付けられるのは奴隷の身分であることの証明になるとのこと。しかしアイリも実際に見るのは初めてであるとのこと。
「……」
相変わらず少女は口を開かないままジンのことをじっと見ている。ジンは少女のキラキラした視線が気になった。
……一先ずジンは取り敢えずアイリに【隷属の証】をどうすれば良いのか聞いてみることにした。
「【隷属の証】は、プレートの項目である【契約】の項目を通して価値に見合ったポイントを支払うことでその所有者を変更することが出来るのですが……」
そこまで言いかけてアイリの言葉が止まる。
「……その値段というものが高くて10000ポイント以上、低くて1000ポイントなのです……」
(……どこの世界も弱者にはとことん厳しいのか……)
人間の本質が前世と悪い意味で変わっていないことにジンが絶望しながらもプレートを確認して【契約】の項目を更新してみることにした。
[契約]
【契約】
・住居の料金の支払い (0/9000)
・奴隷の所有権 (0/2000)
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「……ッ!!」
「ジ、ジン様!?」
ジンは思わずプレートを力強く握ってしまい、アイリがその様子を見て驚いてしまった。ジンはこの少女に課せられた値段がスライム数匹の価値しかないと言われているような気がしてジンは激昂した。
(同じ生きている人間なのに?……この値段を付けた糞野郎は命をなんだと思ってるんだ!)
しかし、2000ポイントならジンとアイリの手持ちでどうにかなる金額だが、借金返済まで遠のいてしまうのも事実であり、それがジンを悩ませた。
「……(アイリちゃん……)」
「……ジン様が仰りたいことは分かりました……このアイリのポイントもお使いください。」
「お金はまた貯めればいいですから」
「……ありがとう」
「ジン様……」
こうしてジンとアイリは契約の項目を選択し、同時に手持ちの1000ポイントを振り込む。
【契約完了】:契約対象者『タチバナ ジン』、『アイリ ハイルロッテ』の両名を『対象』の『契約者』とする
ジンとアイリのプレートにメッセージが流れてきたと思うと少女の首から【隷属の証】が消えていった。そしてアイリが少女を抱きしめる。しかしジンは
(……逃げようとしても無駄だ)
「ヒィッ!」
(油断も隙も無い……)
ジンが拘束し損ねた奴が逃げ出そうとしたが、ジンは相手の顔すれすれにナイフを投擲した。そして完全に動けなくなったところに近づいて顔面を殴りつけ、気絶させた。
「じゃあ、こいつらをギルドに送り届けましょうジン様」
(そうだねアイリちゃん)