*79 ちょっとの騒動とささやかな贈り物
セーラス国の城下に広がる商店街は非常に広大で、大陸の中で一番栄えていると言っても過言ではないという文言がある通りの賑わいを見せていた。ましてやジンとヴィクターが戦うという知らせが各地に行き渡った結果、普段よりも多くの人が訪れていた。
その中にはシニアーク王国や雷霆国等の遠くの国からも今回の闘いを直接見に来た人々やこの機会を逃すべく商業を展開する者たちで溢れかえっていた。
そんな人だかりをかき分けてジン達はグレイの求める物を買う為に商店街の一角に訪れていた。ジンが人目につくような白いローブを身に纏っているのにも関わらずあまり騒がれていないのは、ひとえにビアンカの加護のお蔭であった。そして肝心の目当てはアイリとグレイが予め決めていたらしく、目的地までひたすら人根をかき分けて歩いていた。
それから暫く歩いていると一つの店にたどり着いた。品出しされている商品はネックレスや宝石等の装飾品であることからここが宝飾店であることは推測できる。そしてグレイが店番の二十代くらいのおっとりとした女性に声を掛けた。
「こんにちは!」
「あらこんにちは! 可愛いお嬢ちゃん。何を買いに来たのかしら?」
「うん。実はね……」
グレイが店員に耳打ちすると、店員は少し考えるそぶりを見せて、笑顔でグレイに待ってもらうように告げると店の奥に入っていった。
「ちょっと待っててね! ジン!」
「楽しみにしててくださいね。ジン様」
(何を選んだんだろう……? 気になるわぁ……)
「お邪魔するぜ」
ジンがグレイの選んだ贈り物に考えを巡らせていた時、店にガラの悪い連中が入ってきた。彼らはセーラス国の兵士が身に着けているような装備ではなく、まさに荒くれ者といったボロボロの衣服を身に纏っていた。彼らは店内を舐めるように見渡すと、アイリとグレイに目線が向いた。
可憐な美少女であるアイリと介護欲を煽る美少女であるグレイを見るや否や彼らは下卑た笑みを浮かべながら近づいていった。
「おうおう。随分と可愛い子ちゃんじゃねぇか」
「……何ですか貴方達は」
「おっ、良い反応するじゃねぇか。俺は君のような反抗的な女を屈服させるのが好きなんだよ」
「ヒューッ! お頭手を付けるのが早いですね!」
(はぁ……何処にでもいるよなこんな奴らは……)
アイリが冷めた目線で彼らを見つめたが、頭と呼ばれた男は意に帰さない様子で凡そ初対面の人物に向けるべきではない下品な発言を繰り返した。その言葉からは薄汚れた欲望が感じ取れる。
グレイが楽しみの時間を台無しにされたと感じて手を掲げ、魔法を行使しようとした。その時ジンがアイリ達の前に立ち、彼らを威圧した。
「あぁ? なんだ? 俺たち『餓狼盗賊団』に歯向かおうってのか?」
「やめとけやめとけ! 大人しく後ろの子たちを引き渡して有り金を置いていけば命は助けてやってもいいぜ?」
「へっへっへっ……」
「失せろ」
ジンが殺意を込めながら盗賊団ににらみを利かせると、彼らはジンの殺気に当てられて竦みあがった。ジンは内心アイリ達との楽しいひと時を邪魔されて頭にきていた。だからこそ、そこに込められた一言の圧は彼らは疎かたまたま店の外を通った人々にも伝わった。
「な……何だおめぇは!? お、俺たちとやろうってか!?」
「さっさと失せろ。二度言わすな」
「て、てめぇ!」
盗賊団の下っ端らしき男が右手で殴り掛かってきた。ジンは男の拳を左手で受け止め、男の拳を握りしめた。そしてジンは力を軽く力を込めた。
しかし
「が、がぁあああああああ! て、手が潰れるぅううううう!?」
(思ったより弱い……)
「て、てめぇ!?」
(ここでは、迷惑が掛かるな……店の外に連れ出すか)
ジンにとっては軽く握りしめたつもりだったが、拳を握られた男は悲鳴に似た絶叫をあげた。それを見て盗賊団の仲間たちがジンに敵意を向ける。この時ジンは店の中で面倒ごとを起こすのは得策ではないと考え、店の外に誘導することを考え、人差し指で店の外を指した。だが彼らは頭に血が上っているのかその意図を無視してジンに手入れさせれていない短剣を向け襲い掛かった。
「……ふん」
「――なッ、離せッ!?」
「お、お頭!?」
ジンは迫りくる短剣の刃を掴むと力を込めて、根元から短剣の刃を折った。それを見た盗賊団は顔を真っ青にし、外から店内の様子を見ていた人々も唖然としていた。
そしてジンは頭の顔面を掴むと店の外へ向けて放り投げた。大の男が宙を舞うその光景にすっかり周りは静まり返り、店内にいた盗賊団のメンバーも口をあんぐりと開けながらジンを見つめていた。そしてジンが後ろを振り返り、盗賊団を睨んだ。すると何人かは余りの力の差を感じ取ったのか、怯えた様子で各々店から逃げ去った。
「お、お前ら……ヒィッ!」
「……失せろ」
ジンが眼前に立つと男は怯えたような表情を見せつつ腰を抜かしていた。そしてジンのドスの聞いた声で男を威圧すると男はたちまち人根をかき分けて逃走した。周囲の人たちは暫くジンを見つめていたが、続々と足を動かしていった。
(はぁ……余計な所で目立ってしまったか……)
「グレイちゃ~ん。用意できましたよ~」
間延びした店員の声に釣られてジンは店の中に戻っていった。
◆◆◆
――数分後
「これでいいですか?」
「うん! ありがとう!」
贈り物を選び終えたグレイが店員に料金を支払って商品を箱に詰めてもらっていた。ジンはまだ見ないで欲しいと言われたのでグレイたちに背を向いている。ジンは内心何が来るのかが気になり、ワクワクしていた。
そしてジンの下にぱたぱたと近寄ってきたグレイがジンに手のひらサイズの箱を手渡してきた。
「はい! ジン受け取って!」
「ありがとう」
ジンが箱の中身を開けると……そこには金色に輝く十字架が収まっていた。
「……綺麗だ」
「えへへへ」
「ほんとに綺麗ですね……」
十字架には鎖のようなチェーンが繋がれており、首に掛けるネックレスのような物であることを知ったジンはフードを取り、甲冑の上からかけた。白い外套と黒い甲冑の中心で光輝く十字架は、とても美しく、ジンはとても気に入った。
「ありがとう、グレイ」
「私こそ何時もありがとう!」
「素敵な贈り物ですねグレイちゃん!」
それからジンは十字架を肌身離さず身に着けるようになった。




