*74 集いしすべての色
ファブニールを倒し、雷電の下に戻ってきたジン達が目撃したのは、全身血塗れで虚ろな表情をしながら立ち尽くす雷電の姿だった。その傍には中身の無い甲冑が無造作に転がっていた。また、その傍にはまるで墓標のように槍が立てかけられていた。
「雷電様!?」
(なんだ!?その傷!?)
袴には血が滲んだ痕があり、左手からはぽつぽつと僅かに血が垂れていた。それらには雑に焼き留められていた痕跡があったが、徐々に傷口が開きつつあった。加えて足元には夥しい量の血が広がっていた。
雷電が虚ろな眼をジン達に向けると途切れ途切れに話し始めた。
「――あぁ……ジン達か……その、様子だと……あの竜は、倒せたようだな……私も、今しがた終えた所だ……」
ふらりと雷電の身体が前のめりに倒れ始めた。既に雷電には限界が迫っていた。ドラークとの闘いで多くの傷と槍で腹を貫かれ、多くの血を失ったことが原因であった。咄嗟にジンとアイリが駆け寄り、雷電の身体を支えた。その体は見た目よりも軽く感じてしまえるほど雷電が消耗していることが彼らに伝わったのだ。
「か、軽すぎる!!」
「ッ!!《緊急治療》《錬血》!」
(やべぇ……!このままだと!!)
グレイは咄嗟に雷電の身体についた傷口を修復し始め、更に雷電の一滴の血を《錬血》で増幅して雷電の身体に失った血を入れ始めた。顔色が少し良くなった雷電を見て、ジンが背中に雷電を背負い、急いで雷神城に向かって行った。
◆◆◆
「兄上!あぁ……何とお労しい姿に……!」
「心配を、掛けた……今は、何とか持ちこたえたぞ……」
『鳴る神の間』にて龍我は、ドラーク及びファブニール討伐の報せを受け取り、ジン達の帰還を待つ傍ら書類仕事と復興の為の準備を進めていた。しかし、待っていたのは重傷の雷電がジン達に担ぎ込まれてきたことだった。
雷電は医務室に行く前に先に龍我と話すことがあると言ってジン達に頼み込んできたのだ。幸いにも鳴る神の間と医務室は近くにある為、いざとなればいつでも医者が飛んでくるようになっているのだ。
そして雷電はゆっくりと自分が戦ったドラークの正体とその目的を龍我達に伝えた。
「まさか……雷霆国第4代頭首『龍光』様の兄の、龍雷様だったとは、――確かにこの国を裏切ってからの行方がしれないと古い書物には書いてあったが、まさか魔王に寝返っていたとは……」
「ところで……ドラークが、言っていた蜥蜴ってもしかして……」
「あぁ、【雷神 ケラヴノス】様のことだ」
「ということは、この国にケラヴノス様がいらっしゃるのですか!?」
(……でも、道中でもそれらしき存在を見なかったな……)
「あぁ、ケラヴノス様は……」
「兄上、ここは私が」
「……それもそうだな。ジン、アイリ、グレイ、龍我について行くぞ」
アイリがドラークの目的であった【雷神 ケラヴノス】の抹殺について浮かべた疑問について雷電は応えようとした。しかし龍我が自ら説明するとしてゆっくりと立ち上がり、ジン達を案内し始めた。
道中満身創痍の雷電を見て仰天する御付人とのいざこざがあったが、それでも一行は階段を下りていき何やら一つの大きな空間がある地下室にたどり着いた。そこには厳重に警備が為されており、龍我が一声かけると門番たちは鍵を解き、鉄扉を開けていった。ズズズ……と重苦しい音を立てながら扉が開かれると、そこにはこれまでジン達が見てきたような意匠が刻まれた扉が見えた。
「この球体……それにこの模様は!」
「ジンが新しい力を手に入れた時と同じ!」
(――ッ!何だ!?突然体が……ッ!?この感覚……前と同じだ!!)
「……ここに来るのも久方ぶりだな」
ジンが何かに引っ張られるような感覚に襲われたと同時にその扉が黄色に光り、独りでに奥に開いていった。そしてその先に待っていたのは、黄色の宝玉を掴んだ龍の石像だった。そしてジン達があっけに取られていると龍我が話し始めた。
「これが、ケラヴノス様である。だが、当の昔に力尽き果て、今はその御身に力を蓄える為こうして石になっておるのだ」
「この石像がケラヴノス様なのですか!?」
「そして……ここで私は【黄色の雷鳴】を継承したのだ」
そして暫く佇んでいると突然、ケラヴノスの手に握られた宝玉が光り始め、やがてその光の奔流がジンに流れていった。
「これは……!」
前触れなく出現したジンの大鎌にその奔流が流れ、変化をもたらした。
まず鎌の刃の部分に稲妻にも龍にも見える意匠が施され、刃がまるでチェーンソーにように雷が走り始めた。更に宝玉が棒の先端部位に生成されると共に持ち手に向かって雷が侵食していった。
――【色付き】その最後の力である【黄色の雷鳴】の力を融合させた《黒騎士の黄鎌》の誕生だった。
「これで……ジン様はすべての力を継承なされたのですね!」
「――ッ!?」
「ジン?どうしたの?」
(何だ……!まだ、体が震えて……ウォッ!?)
「なっ……!ジンの武具が……?!円を……?」
ジンは先程とはまた違った体の震えを感じていると、その刹那空中にこれまでジンが継承してきた武具がまるで円を描くようにして回っていたのだ。そして、その中心に漆黒に輝く大剣が収まり、強烈な光を放ったかと思うとジンの脳裏にある光景が流れた。
(ッ……!!これは……!!ヘファイトスの……いた所……?)
そこは嘗てジンが訪れたことのある場所。ヘファイトスが封印されていたあの迷宮だった。そしてその光景を目の当たりにしたジンは最後に訪れる場所はここだという確信を持った。
そしてどうやら同じ光景を目の当たりにしたアイリとグレイもジンと同じ確信をもってこれから最後に向かうところを確認し合った。
――そう、【アライブ迷宮】である
《黒騎士の黄鎌》……【黄色の雷鳴】の力を継承したジンが扱えるようになった大鎌。刃先が電動ノコギリのように細かく高速に回転しており、切れ味が格段に上がり確実に刈り取ることが出来る。
そして【黄色の雷鳴】の力である高速移動や、空中跳躍が可能になったことで【黄色の雷鳴】と同等の機動力を手に入れた。




