*72 【至る者】と【禁忌の竜】
「……あっけない物よな……さて、あの蜥蜴を始末しに……!?」
ファブニールの猛烈な業火によって雷電を始末できたと確信していたドラークだった。しかし煙が晴れるとそこには青く輝く障壁が待ち構えていたのだった。それはジンの《黒騎士の蒼盾》であり、間一髪ジンはファブニールの業火を防ぐことに成功していた。
「……!そうか貴様が【黒色の武装】か!」
(気づくのが遅いんだよ!)
ジンは心の中でドラークを罵倒しながらも《黒騎士の蒼盾》を構えたままドラークに向けて武器を発射し始めた。しかしドラークは縦横無尽に迫りくる武具に対して槍を巧みに扱い、器用に逸らしていった。その所作は洗練されており、その場から大きく跳躍したかと思うと、空中で体を回転させながら、次々と襲い来る刃を掻い潜っていった。
「中々に面倒だ……では、分断するとしよう」
そう言ってドラークはファブニールに指示を出し、雷霆国の反対側に向かわせた。それを見たジン達は焦りを覚えた。しかし雷電はそれを見るや否や、ジン達に
「……あの男は私に任せてくれ。ジン達はあの黒竜を!」
「分かりました!……グレイちゃん!」
「うん!予めあの城にマーキングしていたんだ!《転移》!」
ジン達は雷神城まで一瞬で転移し、その場にいるのは雷電とドラークの二人のみとなった。そしてドラークは槍を構えなおし、雷電は大鎌を両手で握りしめ腰を深く落とした。
「参る!」
「――参る」
◆◆◆
一方ジン達は、雷神城に転移した後、とある広場にてファブニールと会敵していた。
ファブニールの狂気と憎悪の込められた視線にジン達は足がすくみ、震えあがるような感覚を覚えた。その漆黒に輝く鱗は、太陽の光さえも飲み込むほどであり、頭部に生えた二本の禍々しい角は天に反逆するかのように逆立っていた。周りの建物よりも大きな巨体であり、口元に垣間見えるその牙は多くの命を喰らってきたことを容易に想像させた。
数多くの国々で接近禁止命令を下されて入るのだが、生憎ジン達はそれを知る由も無く、ただただ危険な存在としか認識できなかった。だが、その認識は間違いではないことをジンは本能で悟った。
「何という……威圧感!」
「ピリピリする……」
(コイツ……強い……!)
「グゥオオオオオオオオ!!」
身の毛もよだつおぞましい咆哮と共に羽を広げるその姿は正に圧巻である。ジン達はそれぞれの得物を握りしめ動向を伺った。
するとファブニールの背後に鉛色に輝く魔法陣が空を埋め尽くす勢いで浮かび上がり始めた。やがてその魔法陣からは、ファブニールを人間サイズにまで縮小させたような半透明の竜が現れた。そして、まるでミサイルのようにジン達に向けて突撃し始めた。
(撃ち落とす!)
ジンはファブニールの展開した魔法陣の数と同等かそれ以上の武具を空中に展開し、発射した。
突撃して行った小型の竜は、ジンに撃ち落とされていった。そしてそれを見計らってアイリとグレイがファブニールの足元に向かって行った。
ファブニールは足元にいるアイリ達に向けてブレスを放った。アイリは跳躍して回避し、グレイは近くの高台に転移して回避した。
そしてアイリは飛び上がった後、落桜を構え、身をよじり、落下の勢いに合わせるように刀を振り下ろした。
「《雷鳴斬》!」
雷電の技から着想を得たアイリの落雷のごとき一撃をファブニールはまともに受けた。しかし技を放ち終わったアイリに向かって視界の外から小型の竜が顎を開けて突撃してきた。アイリを喰らうつもりであった。
だが、アイリに直撃する寸前で竜の身体にジンの槍が突き刺さる。そして竜の身体を突き破る様に槍が飛び出し、竜は消滅した。
しかし、アイリの一撃を受けた筈のファブニールは損傷らしい損傷が見えなかった。そしてアイリを爪で切り裂こうとした。その瞬間ファブニールの腕に虹色に輝く光線が直撃した。
「グゥウウウウ……!」
ファブニールは思わず苦悶に満ちたうなり声をあげた。
光線を受けたその箇所の鱗は溶け始めており、じわじわとする痛みがファブニールを襲っていた。グレイの《元素爆発》を受けたファブニールは明確なダメージを初めて負った。
そしてグレイを第一に排除することを決めたファブニールは高台にいるグレイに向けて大きく顎を開け、ブレスを溜め始めた。しかしその瞬間ファブニールの頭部に黒い閃光と共に強烈なダメージが入った。ファブニールにむけて跳躍していたジンが《黒い剣》が込められた大剣でファブニールの頭部を斬りつけたのだ。
「グァアアアアアアアア!」
ブレスの発射を阻止されたファブニールは口の中で貯めていた魔力が暴発し、内側からの爆発に襲われた。その結果ファブニールの口内からは煙が噴き出し、苦痛に満ちた声を上げた。
そしてその様子を見たジン達は、ダメ押しと言わんばかりに追撃を加えた。赤く胎動する《黒騎士の赤槌》を構え、うなだれているファブニールの顎に向かって叩きつけた。ファブニールは咄嗟にジンの真上に先程の魔法陣を展開し、ジンを殺そうとした。
しかし、竜が出現した瞬間アイリに全て撃ち落とされた。そして今まで感じたことが無い程の強烈な衝撃がファブニールを襲った。《黒騎士の赤槌》が振り下ろされた。
「――ッ!」
「ギャアアアアアアアアアアア!!!!」
振り下ろされた部位は爆発し、ファブニールの顎が外れた。既に顎を閉じることが出来ず、口内が外界にさらされていた。そしてその瞬間を見計らってジンが《黒騎士の緑槍》をファブニールの口内に突き立てた。
「――これで、終わりだッ!!」
次の瞬間ファブニールの身体からは無数の槍と、一際大きな大樹が身体を突き破った。その大樹はファブニールの魔力や生命力を吸収して聳え立った。その大樹は、やがて付近を覆いつくすまでに急成長を遂げた。
「やりましたね……やはり直接体内を狙って正解でしたね!」
というのもここに来るまでにはファブニールを外側から攻撃するのではなく、内側を攻撃するという作戦を立てていたのだった。
「あの鱗凄い耐性を持っていたからね!」
「……作戦、勝ちだな」
ジンは効果的で効率的にファブニールを仕留められたことを喜び、声を出した。未だ途切れ途切れだが、確実にジンのコミュニケーション力は成長していっているのである。




