*64 悪意は取り除かれた
――ジンが『魔王崇拝』のリーダー格を倒す少し前の出来事
「うぅ……怖いよぉ……」
「大丈夫ですよ……あの人たちがやっつけてくれますからね!」
「……うん」
少年の保護の為に一人残ったアイリは馬車の中で心配そうな表情をする少年を元気づけていた。そしてアイリは再び馬車の外に意識を向けて警護にあたっていた。馬車の周りにいる『ガーディアンゴーレム』は定期的に馬車の周りを歩き回り、こちらも警護にあたっていた。
「……一つ言い忘れていたことがありました」
アイリは馬車に背を向けたまま呟いた。その声は先程までの穏やかな物ではなく、冷徹さを感じさせるような声色だった。
しかし次の瞬間
ガキン!
「なっ……しm」
「……私を人質に取るならもっと巧妙に化けるべきでしたね」
「御免」
アイリの背後には、先ほどまで村の中にいた筈の雷電と少年に化けていた『魔王崇拝』の女がそこにいた。
そして雷電に斬り返されて体勢を崩した直後、その両手と両足は一瞬の内に雷電の刀に斬り飛ばされ、辺りの雪には紅い鮮血が飛び散り、女は苦痛の叫びをあげた。
一方、村を占領していた『魔王崇拝』のリーダー格の男を始末して、村人たちを解放したジンの前にフラムが遅れてやってきた。しかし、傍に雷電はいなかった。
「あぁ、ジン達が先に着いたか」
「あっフラム!……あれ?雷電は?」
「あぁ……今頃アイリの嬢ちゃんの下に行っているだろうさ」
(……やっぱりか)
◆◆◆
――話は『魔王崇拝』の連中を蹴散らす寸前にさかのぼる
「……ここで良いか」
「あん?どうした雷電?」
馬車から離れて、暫くした頃唐突に雷電が立ち止まり、ジン達の方を振り向いた。
「話がある」
そう言って雷電はとある事実を告げた。
「まずあの少年は、奴らの手先だろう」
「はぁ?!何でそう判断したんだ!?」
(ファッ!?)
衝撃の事実に雷電以外は驚愕し、フラムが雷電に詰め寄った。続けて雷電はその根拠を話し始める。
「……私の故郷でもあのように無力な少年や少女に化けて暗殺をする不埒な者どもが居たのだ。かくいう私も幾度となくそうした襲撃を受けたことがある」
「そ、それで……あの坊主が、やばい奴だと気づいたのか!?」
「さらに言えば……恐らくあの少年の中身は……恐らく女性だろう」
「「ええっ!?」」
(……マジか……)
雷電の口からもたらされた衝撃的すぎる内容にフラムとグレイは開いた口が塞がらず、ジンも兜の下で目をかっぴらきながらひたすら驚愕していた。
「……私は戦うことしか能が無い。だからこそ、人を殺すことに手慣れている連中の動きの癖は大体把握できる。あの者が歩く姿を見た時どうも年齢不相応な動き方に違和感を感じたのだ」
雷電は更に、あの少年の喉仏が女性のそれであること、ジン達に見せていた涙が嘘であり嘲りの表情を隠していたことをジン達に告げた。
フラムは少しうなだれたかと思うと、眉間に青筋を走らせながら魔力を滾らせた。その表情は憤怒に染まっており、『アイファーフランメ』に取り付けられた『マグマタイト』がその怒りに同調するかの如く発光し始めた。
「あの野郎……!よくも俺をだましやがったな……!!」
「で、でもそれじゃあアイリが!!」
(……そうだよ!今アイリは1人じゃねえか!)
怒りに震えるフラムだが、グレイとジンがアイリを1人にしていたことに気づき、グレイが雷電に問い詰める。それに対して雷電は刀が無い鞘を見せる。
「アイリ殿には私のもう一つの刀を持たせてある。私のスキル《避雷針》で私は一瞬であの刀の下に移動できる。加えてあの刀に《黄色の領域》を仕込んである。これによってアイリ殿に危害が加えられそうになった瞬間に自動で飛ぶことが出来る」
「な……成程……」
「じゃあ、俺たちは村を解放するために動いとけばいいんだな?」
「そうだ。私が消えた後の事も考えてフラム殿と私が組むようにしたのだ」
雷電は手慣れた様子で作戦を立てていた。その様子は到底宿での失態は想像できない程だった。その手腕にはフラムも舌を巻き、見事としか言わざるを得なかった。
「では、これより『魔王崇拝』の連中を討伐するとしよう」
◆◆◆
「ありがとうございます!何とお礼を言えばよろしいのか……!」
「おうおう、気にすることはねぇぜ。これであの狂信者共はこの村から撤退するだろうよ」
「あ、あの、黒騎士様ありがとうございました……!!」
「黒騎士様ありがとう!」
「……(……やっぱ人だかりは慣れないぃ……)」
村を虐げていた『魔王崇拝』の連中が軒並み片付き、解放された村人たちは口々にジン達に礼を述べていた。フラムは寒さに震える村人たちの為に己の火で簡易的な暖房を作ったりしながら村人たちの安否を気にしていた。
ジンは牢屋に閉じ込められていた村人たちから感謝されており、彼らは畏敬の念を込めてジンの事を『沈黙の黒騎士』と呼んだのだった。図らずも同じ二つ名を付けられたジンは内心驚愕しつつも慣れない人だかりに戸惑っていた。
一方グレイは同年代位の村の子供たちと教会前の公園で戯れていた。
「《炎龍》!」
「うわぁ……かっこいい!!」
「おねえちゃんもっと!みせて!!」
空に竜を模した炎が上がった光景を見て目を輝かせる子供たちと笑顔を浮かべるグレイ、その光景にジンは胸がほっこりしていた。
というのも同年代の子と触れ合えたグレイは心なしか嬉しそうな表情を浮かべており、それはジン達にも見せていた笑顔とはまた違ったものだったからだ。




