*63 我欲に溺れた狂信者
「おい、生贄たちはどうなっている?」
「あぁ、それなら問題ない。この村の中心に位置する大教会の地下室に全員詰め込んだ」
「……そうか、それなら問題ないな」
「今の所脱走者もいないしな」
フリーレン村の入り口で見張りをしている黒い外套の男が反対側にいる同じ服装をした男に問いかけた。彼らは、フリーレン村に入ってくる人間達を攫う役割を担っているのである。
――最も、その役割も今日で終わりになるとは予想だにしていないのだが
「そろそろ交代の時間か……一先ず向こう行ったら何か食うぞ……おい?どうs」
返事が返ってこないことに疑問を抱いた男だったが、次の瞬間男の視界には全身真っ黒な鎧に身を包んだ謎の人物……ジンが自分に向かって剣を振り下ろしている光景が彼の最後の記憶になったのだった。
ジンがやったことはいたって簡単なことである。ジンのスキルの《沈黙》の完全無音状態で隣の男を斬り伏せ、更に男を斬り伏せたのである。辺りは吹雪で視界が悪く、全身が黒色の鎧のジンでも見えるかどうかが怪しいくらい程の視界だった為より一層それが、ジンの隠密性に拍車をかけていたのだった。
(まずは……二人……確かこの後、もう2人来るんだよな……)
ジンは男たちの会話を思い出し、近くの建物の屋根に上り、奇襲の機会を伺った。するとすぐに黒い外套を纏った二人の人物が村の中心方面からやってきた。そして男たちの死体に気づくと動揺して硬直した。
「な……何があった!?」
「い、急いで連絡を……!」
(ふん!)
ジンは飛び降り様に二人を同時に斬り、辺りに鮮血が飛び散った。彼らは最後まで何があったか知らずにこの世を去ったのだった。
そしてジンが四人を倒したと同時にグレイがやってきた。
「ジンー!こっちも終わったよー!」
「……良くやった」
「えへへへ……//」
グレイの足元にはグレイの魔法によって意識を失ったまま拘束された『魔王崇拝』のメンバーが転がっていた。ジンはグレイの頭を撫でてグレイを褒めた。グレイは嬉しそうに目を細めた。
「……次だ」
「うん!私頑張る!」
ジンは村の中心部に向かって進んでいった。その間も村を徘徊している『魔王崇拝』の連中を的確に処理して行ったのだった。
◆◆◆
一方フラム達も順調に『魔王崇拝』のメンバーを蹴散らしていった。……とは言っても殆ど雷電が蹴散らしているのだが
「は、速」
「め、目で追えn」
「な……なにg」
戦場を駆け巡る黄色い雷……雷電のスキル《電光石火》により雷電は尋常ではない速度で瞬く間に『魔王崇拝』のメンバーを次々と斬り捨てていたのだった。比較的障害物も多い通りであるにも関わらず、縦横無尽に稲妻が駆け巡るその様に『魔王崇拝』の連中は為すすべが無かった。
「……俺いるか?」
「せ、せめて貴様だけでも……ギャアアアアア!!?」
「……俺いるわ」
フラムが自分に向かってきた『魔王崇拝』の男に『アイファーフランメ』を叩きつけたと同時にあらかた片付いたのか、雷電が刀を鞘に収めていた。フラムは『アイファーフランメ』を肩に掛けながら雷電の下に近づいた。
「お、終わったか。じゃあ……次だ」
「そうだな」
彼らはジン達と同じく村の中央に向かって連中を蹴散らしながら進んでいったのだった。
◆◆◆
『フリーレン大教会』
フリーレン村の中心にそびえたつその大きな教会は、村の始まりからずっと存在しており村の発展を見守り続けてきたとされている。また、大きな戦争下における医療施設として運用されてきた歴史があり、その教会の地下には嘗ての医療関係の資料や、患者用のベッドなどが今も設置されているのだ。
そして、現在でもその地下室は嘗ての医療の象徴として残されているのである。だが、現在その地下室には、大勢の人間が幽閉されていた。
「グスッ……グスッ……怖いよぉ……」
「大丈夫よ……大丈夫……」
「クソッ!何だって俺たちが閉じ込められなきゃいけないんだ!!」
ガシャンと元は病室だった場所に魔法で創られた檻を叩く青年の声に同調するように多くの人が不満を上げるが、彼らはこれを幾たび繰り返しているため、どこか諦め気味だった。近くではまだ幼い少女が母親に泣き付いており、中は悲惨な状況になっていた。
その時地下と地上を結ぶ階段から金属音が混じった足音が聞こえてきたのだった。
ガシャン ガシャン
「ではこれより、儀式を始める。その中から1人選べ」
「「「「なっ……!?」」」」
現れたのは『魔王崇拝』のリーダー格の男だった。
彼は続けざまに生贄を1人選べと村人たちに宣告した。当然その意見に賛同する者はおらず、皆口々に声を上げるが、
「では、1人を除いた全員が生贄となるか?」
「……クソが!」
「何て卑怯なの……!」
「何とでも言え、諸君らは所詮生贄にすぎん。何なら貴様らを奴隷として裏市場に流してもいいのだぞ?」
心なしか愉快そうな視線と共に村人たちに告げる男に対して苛立ちと怒りはあれど、口を出せなくなってしまったのだった。
……というのも現在の彼らはこのリーダー格の男の『所有物』扱いにさせられているのだった。
「忘れないことだな。諸君らは私の《奴隷化》によって人権すらも私に握られていることを」
「……だったらもう少し食事を増やせ!子供が泣いてんだよ!!」
「ふむ?奴隷に差し出す飯があるだけありがたいと思わないのか?」
「……腐ってやがる!」
はっはっはっ、と余裕そうににったりと笑うその姿が村人たちの怒りを誘うが、生殺与奪の権利をこの男に握られている今、不用意な発言は自分の死を意味するため、青年はとても悔しそうに顔をゆがめながら、牢屋の壁にもたれかかった。
「おっと、もうこんな時間か。さて、私はここいらで飯とするかね」
「お腹……すいたよ……お母さん……」
「ごめんね……ごめんね……!」
「はっはっはっ、奴隷が何か言っているな。まるで羽虫のようだ」
「……糞野郎が……!」
男が飯を催促するように手を叩く、これでいつも豪華な食事が地下室に運び込まれ、男は村人たちの前で見せつけるかのように食すのだ。
「……?どうした?なぜ来ない?」
「……なんだ?」
「何をさぼっているんだか……!」
男が更にもう一度手を叩くが、それでも料理は運び込まれてこない。不審に思った男が席を立ち、階段を見に行くとそこには誰もいなかった。更に男は階段を上がっていくことにした。
「……?なぜ誰もいないのです?」
地下の階段から上がり、教会の祭壇の後ろから出てきた男が目にしたのはもぬけの殻を化した教会だった。先日から常に『魔王崇拝』のメンバーが出入りしていたり、捕らえた美人をメイドとしてこき使っていたのだが、何故かそれすらも居なくなっていたのだった。
「一体何g「死ね」ガアッ……!?」
……地面に倒れ行く男が最後に見た光景は、己を背後から斬りつけた黒い騎士の姿だった。その死の間際に聞こえた声には怨嗟と憤怒の感情が込められておりまるで死の宣告だと言わんばかりだった。そして、その姿は己を断罪しにきた『死神』と呼ぶにふさわしかっただろう。
最後まで人を奴隷扱いし、優越感に浸っていた下衆の最後は、無慈悲な『死』だった。
――やがて男の意識は途絶え、二度と覚めることは無かったという――




