*46 死を冒涜する死者
――翌朝
「準備は出来たし、ルリジオンを出発するよ」
「……おうよ」(若干寝不足)
「はい……」(寝不足)
「すぅ……すぅ……」(眠ってる)
「……」(重度の寝不足)
「……馬車に乗ったら寝て良いから」
昨日の出来事もあり、睡眠時間が3時間も無かった一行はヒュドールを除いて寝不足に陥っていた。フラムは初めてジン達と邂逅を果たした時のようにテンションが低く、アイリは夢現になっており、グレイに至ってはジンの背中で寝ていた。ジンは目が死んでいた。
眠気が取れない一行(1名を除く)で何とか出立の準備を済ませた後なだれ込むように馬車に入っていった。
「じゃあ、行くよ……ってもう皆寝てるし」
ヒュドールが出立を告げる頃には既に全員夢の中にいた。なお馬車の中で食べるために買ってきた料理はジンの《収納》で既に保管を済ませており、いつでも新鮮な料理を食べられるようになっていたのだった。
「そういうところは準備良いんだね……」
呆れながらヒュドールは本を取り出し読み始めた
◆◆◆
馬車に乗って数時間が経過し木々の間を通る一本道に入ったころ、突然馬車の動きが止まった。そしてその衝撃で眠っていたジン達が起き上がった。
「なんだ!?どうした?!」
「……外に何かいるみたいだね。はぁ……《青の探知》」
この時ヒュドールの手のひらに丸い水の球体のようなものが形成されるとやがて馬車を中心として青い波動が発せられた。
そして手のひらの上の球体の形状が変化してまるで潜水艦のソナー探知機のように変わり、周囲の状況を映し出した。
「……既に囲まれてるね」
「まじかよ……!って、ほんとに囲まれてやがる!!何だあの量は!?」
「い、いつの間にこんな大量のアンデットが!?」
《青の探知》に映し出されたのは馬車を取り囲むように存在する無数の探知反応だった。それを見たフラムとアイリは馬車の窓から外を見るとそこには無数のアンデットが馬車に向かってゆっくりではあるが明確に近づいてきていたのだった。
しかしヒュドールは危機的状況下にあるにも関わらず再び本を読み始めた
「おい!?ヒュドール?!本読んでいる場合じゃあ……」
「《浄化の涙》」
馬車の上に水滴が当たるような音がしたかと思えば、急に雨が降り出した。《浄化の涙》と呼ばれた雨は、聖なる力を含んでいる雨を降らせるスキルであり、ヒュドールが以前ヴィヴィアンと接触した際に手に入れたスキルの1つだった。
「オオォオオ……」
周囲のアンデットがどこか解放されたようなうめき声を上げながら徐々にその数を減らしていった。そして雨が止むと周囲からアンデットが残らず消えていた。
「はぇ~……」
「凄い……」
フラムとアイリがヒュドールに感心しているとヒュドールが再び馬車を走らせた。その時ふとグレイが窓の外を見た。
「あっ、虹!」
(……綺麗だな)
グレイは窓の外から見えた虹を見て喜び、ジンもそれにつられて外を見て空に鮮明に描かれた虹に対して素直に驚き、見とれていたのだった。
「じゃあ、さっさと目的地にいくよ」
ヒュドールは本を読み始め、馬車も再び動き始めた。空には彼らの旅路を祝福するような綺麗な虹と太陽が輝いていた。
◆◆◆
「さて、漸くついたみたいだよ」
「やっと着いたか!」
「ここが……『セイクリッド王国』」
馬車の外を見ると、そこから見える建物は疎か国全体が半透明なバリアである《聖壁》に覆われている光景が見えたのだった。
「止まれ!ここに何をしに来た!!」
十字架のような装飾が施された重装備の騎士が馬車の外から声を掛けてきたのでヒュドールが対応することにしたのである。
「ボクたちこういうものなんだけど。これを上の人に渡してくれる?」
「これは……少々お待ちを!」
ヒュドールは一通の手紙を取り出し、番兵の騎士に渡した……その時だった
「ま……またアンデットが来たぞ!!」
「何だって!?」
何やら慌てた様子で走ってきた男がアンデット襲来を伝える。それと同時に馬車から水のような波紋が広がる
「《青の探知》……ホントみたいだね。結構な数だな」
「「「!!」」」
咄嗟にヒュドールが《青の探知》を行った。そこに映し出されたのはさっきとは比べ物にならない程のアンデットが『セイクリッド王国』入り口目掛けて押し寄せていたのだった。
「クソっ……なんてことだ……!そこの方々!今すぐこの国に避難してください!!ここは私たちが……!」
「で、ヒュドール。あいつら浄化できるのか?」
「さっきと同じタイプのアンデットだからね。早速やろうか」
「旅の方々……?」
「おう。ここはこいつに任せておきな」
馬車から外に出たヒュドールが再び魔力を漲らせ、両手を徐々に天に向かって伸ばしていった。
「《浄化の涙》」
今度は先程よりも広範囲に広がった雲が空を埋め尽くし、聖なる力が込められた雨を降らせた。そしてアンデット達は為すすべなく浄化されていったのだった。
その光景を目の当たりにした番兵は思わずあっけにとられ驚愕した。
「あ……あなた方は一体……?」
「まぁ……通りすがりの訳アリの旅人かな」
◆◆◆
「フム……成程。奴ラガ私ノコトヲ嗅ギ付ケタカ」
ジン達が最初にアンデットに襲われた地点でとある異形の存在が君臨していた。その手には禍々しい程の光を放つ宝玉が埋め込まれた杖が握られていた。
「全クモッテ鬱陶シイ……奴ラモ私ノ兵隊ニ加エテヤリタイガ……骨ガ折レソウダナ。マァ、既ニ私ハ骨ナンダガナ!」
かっかっかっかっか……と骨をこすり合わせたような笑い声が響き渡る。
絢爛な装飾が施されたマントと羽織物の下には肉が無くただ骨が見えているだけで、頭部にある頭蓋骨の瞳の奥には2対の青い炎が浮かんでいた。
「サテ……我ガ兵士ヨ、今一度目覚メヨ!」
地面に向けてかざされた手から放たれる邪悪な光が周囲に行き渡ると……何処からともなく無数のアンデット達が地面から湧きだし、周囲を埋め着くしたのだった。
「サテ……私モサッサト【ブレイブ墳墓】ニ行クトスルカ。サテ、イコウジャナイカネ?『イーツ』に『エレ』ヨ?」
「……」「……」
異形の骸骨……【冒涜者 テラ】の背後にはジン達に倒された筈の【大喰らいのイーツ】と【紋章卿エレ】が虚ろな表情で佇んでいた。




