*23 異世界より訪れし者と待ち焦がれた者の在りし日
「――はい!承りました!!それではこれからよろしくお願いします!」
ジンたちはセーラス国内のギルドに来ていた。カルメンの業務が終わるまでの一週間の間だけギルドの依頼を受けていく事にしたのである。
「それでは早速どの依頼を受けましょうか!ジン様!!」
(どうしようかな……如何せん依頼の数が多すぎんだよな……)
ジンはギルド内の依頼を確認していた。前にいたギルドとは難易度もその量も違っていたのだ。
悩んでいるジンだったが、ある一つの依頼に目星をつけた
(【魔王軍幹部の足掛かり】ね……なになに、【セーラス国周辺にある廃墟に最近魔物が集まっている光景が幾度となく目撃されている。もしかしたらそこに何か重要な手掛かりがあるかもしれない。王国の危機になりうるので誰か調査してもらいたい】……なるほど)
更に読み進めて行くと、どうやら集まる魔物の種類にも特徴があるとのこと
(【まずこの周辺にはいない筈の魔物が集まっている点からもやはり魔王軍の重要な存在がその廃墟にいるのかもしれない】なるほど?で、報酬金は……8000ポイント!?すげぇな!!)
(まぁ……どうせ魔王は倒さなきゃいけないし、これを受けてみますかな)
そうしてジンは、その依頼書を持ってアイリたちの承認を得た後すぐに出立した。
「魔王軍の幹部の足掛かり……」
「大丈夫かな?」
(頑張りますか……!)
それぞれの思惑を乗せた馬車は目的地に向かっていた。
◆◆◆
「漸く来たんだ!この時を待っていたよジン!!君に会えるのを!!」
おどろおどろしい雰囲気を漂わせる場所……【魔王城】の玉座にてとある少女が興奮したかのように歓喜していた。
その口ぶりからして彼女はどうもジンの素性について知っているようだが……?
「でもね、あの少女に私の名前を付けるのはちょっと許せないかな」
「まぁ、そこら辺がジンらしさなんだけどね!」
暗い筈のその玉座の間に雷の光が差し込む
そこに照らされたその顔は……
「グレイは私の名前なのにね!!」
現在ジンの仲間のグレイと同じ灰髪かつ……同じ顔がそこにはあった
「まぁ、いいやジンには僕を殺せるまでの力を付けてもらうんだぁ……」
その顔には光悦とした感情が浮き出ていた。しかし突然その顔から表情が消える
「……でもジンにあれらのスキルを授けたのはどこのどいつだ!!私のジンにあれらを渡したのは!!!!」
魔王たる少女の怒りに感応して再び雷が降り注ぐ、それはまるで彼女の底知れぬ怒りを体現しているかのようだった。
「まぁ……あのスキルたちが無かったらジンがここまでの短期間で成長することは無かっただろうし。そこだけは感謝しようかな」
「あっちの世界でジンは少々強引な方法で殺しちゃったけど……」
彼女の口から語られた衝撃の事実
それは前世のジンの死因が彼女によるものであることあった。しかし彼女が問題にしているのは其処では無かった。
「本来ならジンは死んだあの状態からすぐにこっちにくるはずだったけど……多分ここに来る前に何かがあったんだろうね……」
「まぁ!どっちでもいいや!!早く来ないかな……ジン!!来てくれないと……」
「この世界もあの世界もぶっ壊しちゃうかも!!」
魔王はずっと待ち望んでいた。自分を完全に殺しうる力を持った存在を
……自分の思い人との再会を
――魔王は限りなく全能に近かった。かつて魔王はこの世界と異なる別世界に訪れたことがあった。
その時には周囲に合わせて自分の服装を変化させ、年相応ともいえる軽めの女児の服を着た。そして侵略の下見として周囲を散策しているとある子供と出会ったのだった
『ねぇー?キミひとり?』
声を掛けている存在がまさか別世界の魔王であるとは知らず声を掛けたその子供は……
『ボクはたちばな じん!キミは?』
その子供は純粋な瞳で魔王たる少女を見ていた。
魔王は初めてだった
産まれついての強者であった少女は、誰からの愛を向けられず常に畏敬の視線を向けられていた魔王にとって初めてのことだった。
故にこの子供に興味が湧いた魔王は……
『私グレイって言うの!よろしくね!』
この子供と接することにした
『グレイちゃんはどこからきたの?』
『私はね……遠くの国から来たの』
『とおくのくに?それってどれくらいとおいの?』
(何だろう……凄く胸がポカポカする……)
魔王はこの時始めて心からの笑顔をしていた。これまで自分が笑った時などあっちの世界の人類を蹂躙し尽くした時でさえ無かったのに
(……これはなんだ?私は……この少年に何を抱いているんだ?)
魔王の表情に曇りが見えてきたところでジンは
『どうしたの?グレイちゃん?ないているの?』
『ううん……分からないの……胸がポカポカするの……ジンと話していると』
魔王は分からなかった。自分の心を支配しているこの暖かい何かが。この少年との会話に何を感じているかさえ
だからこそ純粋な疑問が魔王の口から漏れ出した。それに対してジンは
『それはきっとたのしいだよ!』
『……楽しい?』
『うん!だってグレイちゃんぼくとはなしているときも、ずっとえがおだったじゃん!!』
(そうか……これが【楽しい】か……)
魔王はどこか救われた気がした。自分の世界がこの少年によって広がった感覚がした。暗闇に光が差し込むような気分だった。
『ふふっ……ありがとうジン』
『どういたしまして!』
『明日も私はここにいるけど……会える?』
『うん!またあしたね!グレイちゃん!!』
それからしばらくの間魔王は幼きジンとこの公園に集まって遊ぶことにしたのだ。
魔王にとってこの日々は何物も代えがたい宝物となった。だからこそこれを手放すことはしたくなかったのだ
『あっ、もうじきかえらなきゃ!!』
『ジン……いいかな?』
『どうしたの?グレイちゃん?』
魔王がこの世界に滞在できる限界が訪れていたのだった。
『実はね……私……国に帰らなきゃいけなくなったの』
『……え?そんな!!もうあえないの!?いやだよ!!!!』
ジンが涙を流しながら魔王を引き留める
『うん……ごめんね……ジン』
『そんな……そんなのって……』
ジンが崩れ落ちて大粒の涙を流し始める。それをみた魔王は心が痛む思いだった
『……ジン、私のお願い聞いてくれる?』
『グスッ……おねがい……?』
『うん、良い?ジン。私はもうここにはいられないけど……何時か会えるようにこれを付けてもらえる?』
そう言って魔王はジンにとあるペンダントを渡した。それにはあちらの世界での魔王軍のシンボルである紋章が刻まれていた。
『これを……?』
『うん。私たちがまた会えるためのおまじない。ジンが……大人になったら会えるようにってね』
『……うん!わかった!!グレイちゃん!!』
このペンダントはいわば、ジンの安全を守るものであるが、本領はとある性質にあった。
『じゃあね……ジン。忘れないよ……』
『グレイちゃん!ボク、なるよ!オトナになってキミにあうよ!!』
『……でもごめんね』
『グレイちゃん?なに……を……?』
魔王はジンの頭に手を置いて魔法をかける。それは【忘却】という魔法であった。
あちらの世界に戻る際に現地人の記憶を消さなければならない縛りが魔王に課されていたのだった
だが同時に魔王はジンに《約束と再開のカウントダウン》という呪いを授けた。
このスキルは掛けられた人物の寿命を決めるという《死の宣告》と本質は変わらないが、《約束と再開のカウントダウン》の本領は『対象者は定められた時に必ず死ぬが、その時が来るまで絶対に死ぬことはない』というものであり、更に『対象者が死を迎えた際に魔王の世界に飛ばされる』という《転移》と《宣告》の組み合わせものであったのだ
これを可能にしたのはあのペンダントであった。言うならばあのペンダントはスキルを授ける為のプレートの役割を果たしていたのだった。
こうしてジンは18歳に死亡し、この世界にやってくるという結果を迎えたのだった。役目を果たした《約束と再開のカウントダウン》は消滅した……というのが真実だったのだ
「ジン……待ってるよ……♡」




