91話 二度目。
『サァ……! 死霊ドモノ怨嗟ト呪詛二焼キツクサレルガイイィィィッ……!』
ガルデラ山の奥地。高く上る太陽が照らす下で。
鎧を着た髑髏の巨人【死霊将軍】が放った、到底避けきることのできない範囲を持った黒い炎の壁がニーベリージュを含んだ僕たち4人に迫りくる。
「ディシー!」
「う、うん! ノエル! と、とりあえず【クロちゃん】! お願い! えぇぇいっ!」
僕の呼びかけに応え、ディシーが魔法を刻まないただの魔力のかたまりとして、精霊を黒い炎の壁に向かって投げつけた。
その結果、高密度の魔力同士の衝突により、溶けるような音とともに黒い炎の壁の一部が消滅する。
「よし……! みんな、あそこだ!」
「わかった」
「う、うん!」
その消滅した部分にロココとディシーを移動させ、そのさらに前に僕は陣どった。
消滅したといっても、それはごくわずかな部分で、せいぜいぎりぎり直撃を避けられる程度。ならば当然その余波からは、ふたりを守らなければならない。
まがりなりにも前衛職である僕が、後衛職のふたりを――
「退け」
――そう決意を固める僕を押しのけて、ニーベリージュがさらに最前列に陣どった。
「【霊力場】」
見えないなにかを広げたニーベリージュに向けて、黒い炎の壁の余波が襲いかかる。
「犬死に……か。ああ。そうなのだろうな」
その身をていして僕たちを守りきったニーベリージュがなにかを悟ったような声でつぶやいた。背中を見せたまま振り返ろうとはせずに、さらに続ける。
「だが、ノエル。君たちとてそれは同じだろう? 【死霊将軍】の放つ一撃をこうしてかろうじて一回防ぐことが精いっぱいの君たちでは、到底――」
「助けてもらったことには礼をいうよ。ありがとう。けど、いまのあなたといっしょにしないでもらえるかな? ニーベリージュ」
「……なに?」
「ロココ! 頼む!」
振り返るニーベリージュに答えるかわりに、僕は行動で答えを指し示す。
「穿ち、抉れ!」
ぶわり、と魔力を含んだ風が巻き起こり、【六花の白妖精】の六枚の純白の花弁とともに白、青、透明、金、色とりどりの長い布がふわりと舞い上がり、波のように広がった。
ロココから伸びるいくつもの赤い呪紋はまっすぐに【死霊将軍】を目指し――
『グガオオォォォォォッ!?』
――そして、ことごとく突き刺さった。
自らを守っていた黒い炎のようなものを根こそぎ僕たちに放ち終え、無防備となったその髑髏の巨躯へと。
『オノレェェェェェェェッ! 一度ナラズ二度マデモォォォォォッ! 許サンゾォォォォッ! 人間ドモォォォォォッ! 集エェェェェッ! 哀レデ惨メナァァァッ! 死霊ドモォォォォッ!』
痛みに悲鳴をあげる【死霊将軍】。
だが、またしてもあたりの死霊系魔物の残骸から次々と黒いなにかが集まり、その巨体を揺らめく炎のようなもので覆いつくしはじめた。
同時にロココの赤い呪紋がはじかれる。
「はー! なるほど! そういうことかー! あいつのあの黒い炎の壁、すっごく強力だけど、さっき攻撃を受けているときにノエルが見破ってあたしたちに教えてくれたとおり、自分の防御も全部ひっぺがしちゃう諸刃の剣ってことだね! でも、またすぐに戻っちゃいそうだし~。え~っと、ならあたしが【クロちゃん】に刻むべき魔法は~」
僕のうしろにかばわれながら、ポンと手を打ったディシーが、ぶつぶつと【死霊将軍】を倒すための魔法構築を始める。
「き、君たち……は……?」
そう。これが僕たちの答えだ。
呆然とつぶやくニーベリージュに、いまこそ僕はその言葉を告げる。
「僕たちは、いまのあなたとは違う。いつだって勝つために全力で戦っているんだ。いまも、そしてこれからも。……ねえ、あなたは、どうしたい? ここで、どこかで、ただ独り犬死にして終わるの? 本当にそれがあなたの望みなの? それよりもさ」
そこで一度言葉を切り、その紫と赤の色違いの目をまっすぐに見つめた。
「僕たちといっしょに――【輝く月】に入って、本物の【英雄】にならないか? ニーベリージュ・ブラッドスライン」
――それは、二度目の勧誘。
心からの僕たちの願い。この言葉を彼女に伝えるそのために、僕たちはここに来た。
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※というわけで、パワーアップした【死霊将軍】にまずは一矢報いつつ、二度目の勧誘でした。
次回「だれもとなりには立てはしない。でも」真の章タイトル回収回です。別視点でお送りします。





