8話 最大火力。
一説には、この【妖樹の森】の中に生えている木は、すべて妖樹の成れの果てだという。
つまりは、僕がいま樹上で身を潜めているこの森の中で一番大きなこの木も、かつてはいま目の前に新たにそびえるような【大妖樹】だったのかもしれない。
もちろん、本当のところは知らないけれど。
「撃て撃て撃て撃て、撃てぇっ!」
ドドドドドドドドドッ!
『ギュィィィィィィ……!』
見下ろせば、リーダーであるブッフォンの号令の下、呪紋使いの少女をのぞいた冒険者パーティー【猟友会】の【大妖樹】への火の玉、氷の矢、石つぶてといった攻撃魔法と弓矢による一斉攻撃がはじまっていた。
判断としては、けっして悪くない。
敵が臨戦態勢を整える前の最大火力での奇襲。
さっきの魔狼の群れのときの結果を考えても、よっぽどの大型魔物でもこれには耐えられないだろうし、たとえ倒せなくても十分に大打撃を与えられるだろう。
ただ惜しむらくは、この魔力に満ちた【妖樹の森】の中で魔法植物の一種である【大妖樹】相手では、おそらく。
「ブフォッフォッフォッ! どうだ化け物め! どんな巨体であろうとも、これほどの一斉射をくらってはひとたまりもあるまい!」
『ギ……ィィ……ィィィィ……!』
……効果は如実に表れていた。
ほとんどの枝を折られ、太い幹の大部分を剥がれ落ちさせた【大妖樹】。
その内部に隠された核を半ば露出し、表面には何十本もの矢が刺さっていた。裂け目のような口を模した木の虚からは、苦悶の叫びにも似た音が漏れだしている。
だがそれは同時に、聞くものに不安を掻きたてる凶兆のようでもあって――
「ブフォフォフォッ! なかなかしぶとい化け物だ! だが、次の一斉射で――」
「うわあっ!? リ、リーダー!?」
――すでに異変は現れていた。
いつのまにか、この森の中の広場中に張り巡らされた【大妖樹】の根。
そこからいままさに次々と新たな妖樹たちが生みだされようとしていたのだ。
「ブッフォ……!? いや! 雑魚にはかまうな! 我が友たちよ! この化物にもう一度火力を集中するのだ! おそらく、この化け物を倒せば、その雑魚どもも――!?」
判断としては、けっして悪くない。ただ惜しむらくは、一手遅かった。
『ギュィィィィィィ……!』
【大妖樹】が口を模した木の虚から複雑な響きをもった咆哮を上げる。
すると、それに呼応したように、剥がれ落ちた幹の表面を木の繊維が生き物のようにうごめきだし、次々と結びつきはじめた。
さらに半ばから折れた枝をグングンとのばすと、葉をふたたび青々と茂らせはじめていく。
「ブフォッ!? な、なんだとぉっ!?」
『ギュィィィィィィィィィッ!』
その数秒後には、完全に【大妖樹】はもとの天高くそびえる威容をとり戻していた。
そう。この超再生力。
これこそが、この【妖樹の森】の中で【大妖樹】が最大最悪の魔物といわれるその所以だった。
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