81話 【英雄】。
「あれが恐怖卿【血染めのブラッドスライン】か……!」
結局、引きとめることもできずに恐慌騎士ニーベリージュが冒険者ギルドから去ってからしばらくして。
「ブラッドスライン……!? それって、あの何代も前の王のときにあった戦争で立てた――たしか絶望的な戦場で殿を見事に務めあげて、味方の主力を逃がした――とかいう武勲で、【闇】属性でありながら異例に貴族にとり立てられたっていう、あの……!? さっきの黒い全身鎧の女がその一族だっていうのか……!?」
冒険者たちの中から口々にニーベリージュの一族についての噂が出てきた。
正直僕はあまりくわしくない。だから、少しでもなにか参考になればと聞き耳を立ててみることにする。
「ああ……! オレの位置からは兜の面だけ外した素顔がはっきりと見えたし、あのいけすかねえ【闇】属性のガキどもとの会話が聞こえたぜ……! 怖気のするような美人だったが、とても前に立っていられないほどに恐ろしかった……! なんで仮にもお貴族さまがこんな冒険者ギルドくんだりにいるのかは知らねえが、まちがいなくあれは強え……!」
「マジか……! けど、ならよ……? あながちあの噂も根も葉もねえ嘘じゃねえかもなぁ……?」
「ああ。あれだろ? 恐怖卿には、知性のある魔物……つまり、魔族の血が流れてるとかっていう……!」
「人間よりも優れた能力を持つ魔族……か! たしかにそうでもねえと、劣等属性の【闇】なんざにそんな力があるのは、理屈があわねえよなあ……!」
「ああ。ま、なんにしてもよぉ……!」
「ああ。その力を買われてお国にお貴族サマとして飼われてる身だ。せいぜい役に立ってもらわねえとなあ? あの自称【英雄】のお嬢サマにはよ!」
「はは……! 違えねえ……!」
せせら笑う冒険者たちの声がこだました。
……同時に、もう十分だと僕は情報収集をとりやめる。
冒険者ギルドを独り去っていく黒い全身鎧の背中がよぎった。
『孤高なる【英雄】の戦場にだれもとなりに立てはしない』
……ねえ、ニーベリージュ。あなたがどれだけ孤高であろうとしても、残念ながらどうやらだれも本心からあなたを、【ブラッドスライン】を【英雄】だなんて思ってはいないみたいだよ……!
『【リライゼン】にお住まい、ご滞在のみなさま! 緊急のお知らせです!』
失意と悔しさから僕が奥歯を噛みしめる中、冒険者ギルドの外に甲高い女性の声が響いた。
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※冒険者たちから見たニーベリージュとその一族の姿でした。
次回、【黎明の陽】。名前だけですが、彼らの登場です。





