73話 あたしがつくる!
※第2部【死霊行軍】1章開始回。まだ平和です。
「わぁ……! ロココちゃん! その服、と~っても可愛い! 似合ってる~!」
「ありがと。ディシー」
「うんうん……! あたしの思ったとおり! じゃあ、これをベースに~! これと~これを~ジョキジョキ~!」
……そんな華やいだ声とハサミで布を切るような音が薄っすらと店の奥から漏れ聞こえてきた。
犯罪組織【はき違えた自由】、そして一歩まちがえば大災害にもなりかねなかった【超大暴食黒粘体】の事件を経て、晴れてディシーが【輝く月】に加入した次の日。
僕たちはふたたびロココのまとう純白のケープマント【六花の白妖精】を購入したサーシィさんの服飾店【戦乙女】を訪れていた。
というのも昨晩、乾杯のあとにこんなやりとりがあったからだ。
「ねえ? ところで、ノエル! なんでロココちゃんに上着だけで、中にちゃんとした服着せてあげてないの? もしかしてノエルって、えっちなの? 変態さんなの?」
「ぶっ……!?」
思わず口にふくんだ葡萄ジュースを噴き出してしまった。
いまも手にしたままの、すでに何本も空けた高級蜂蜜酒でもうすっかりできあがってしまったらしいディシー。僕は誤解を解くべくあわてて呪紋使いの特性を説く。
「ふ~ん……。で?」
「え? だ、だから……」
「そんなの関係な~い! いい、ノエル!? 女の子が自分からあんなに肌をさらしていいわけがないでしょ~!? それでも、ロココちゃんが着れる服がないっていうなら~!」
「な、ないなら……?」
「あたしがつくる! こ~んなに可愛いロココちゃんのためだもん! ね~! ロココちゃ~ん!」
「ディシー。くるしい……」
ぎゅ~っ! と力いっぱいにロココを抱きしめて頬ずりをするディシー。
そのいつもとは違う迫力に僕が戦々恐々としながら、こうして3人になった新生【輝く月】の最初の予定は決まったのだった。
……ひとって、酔うとけっこう変わるんだね。
そんなふうに昨夜のことをしみじみと思いだしながら、「ここから先は男子禁制!」といわれた僕は、ひとりさびしく店の手前のほうで椅子に座って待っていた。
手には、サーシィさんがそんな僕を不憫に思ってか、手ずから淹れてくれたハーブティー。
……あ。これ美味しい。後味がなんだかスーッとしてる。
お茶を淹れるのも上手いんだな、サーシィさん。ひょっとして僕に女の子の服を着せようとする趣味さえなければ、完璧なんじゃない? あのひと。
「そんな、完璧だなんて照れますわ。ノエルさま」
「ぶっ!?」
思わず口にふくんだままのハーブティーを噴き出してしまった。
せ、背中!? い、いつのまに!? っていうか、ごく自然に心を読まないでよ!?
「うふふ。恐縮です」
だから褒めてないって! ……はあ。もういいや。
このひとに理屈を考えるだけ無駄だ、と早々にあきらめた僕は残りのハーブティーを飲みほし、すっと立ち上がった。
「お待たせいたしました。ノエルさま。ロココさまとディシーさまの準備が整いました」
「うん。ありがとう。サーシィさん。あ、ハーブティーごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
「うふふ。恐縮です」
眼鏡の奥の瞳を細めて、とても上品に、それでいてうれしそうにサーシィさんが微笑む。
……本当にずるいなあ。このひと。
「では、こちらへ。……きっと、ノエルさまもとっても驚かれますよ。少なくともわたくしにはない発想でしたから」
「へえ……! サーシィさんが……? それはとっても楽しみだね……!」
普通の服を着れないロココのために、サーシィさんの力を借りつつディシーがつくったという服。
……このときは、まだ知らなかった。
あのとき規格外の大きさのやわらかなふくらみによって窒息しかけた衝撃とは別で、でもある意味同等のディシーによってもたらされる2度めの衝撃が僕に待ち受けているとは。
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※なんてちょっとだけ不穏な雰囲気をだしましたが、この【戦乙女】での話は箸休めのコメディ回です。ただし、第2部最初で最後の。
ここでの話が終われば、あとは【死霊魔王】との戦いに向けて怒涛のごとく突き進むことになります。新たな出逢いや再会を交えつつ。
それでは、引き続き第2部よろしくお願いいたします。





