66話 【攻撃手(アタッカー)】。
「……情けない話だけど、やっぱり僕に【盾役】は向いてないな」
『ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!』
「くっ……!」
魔力照明でまぶしいくらいに照らされた倉庫の中。
ズキズキと痛む体を奮い立たせ、ふたたび襲いくる【超大暴食黒粘体】の触手を斬り落とす。
さっき僕がたたきこんだ緑刀はもうきれいさっぱりその体内からなくなっていた。
毒の分解ももうだいぶ進んだのか、攻撃の手がだんだんと勢いを増していく。
『ビィィィィッ!』
「ぐうっ!?」
脇腹を浅く裂かれる。だんだんとさばききれない攻撃の数が増えてきた。たぶんこのまま正面から守りに徹していても、もう長くはもたないだろう。
……だったら! 【隠形】!
「うおおおおおっ!」
『ビィィィギャァァァァッ!?』
【超大暴食黒粘体】の視界から姿を消し、死角から一瞬で襲いかかる。
【盾役】が無理なら、僕の本業【攻撃手】として、足止めし続けてやる!
『ビィィィギャァァァァォォォッ!?』
「うおおおおおおおおおおおっ!」
ただし、これはいうまでもなく最後の手段。こうして延々と攻撃し続けるのは、ただ防戦に徹するよりも僕の体力をはるかに削る。
だから、この足が動かなくなったとき――それが僕の最後だ。
『ビィィィギャァァァァァッ!?』
「うおおおおっ!」
「ぐっ……! あ、足が……! もう……!」
……そして、ついにその瞬間はやってきた。
『ビィィィィィィィィィィィッ!』
ガクガクと震えながらひざをつき、いま【超大暴食黒粘体】に開けたばかりの風穴が修復されていくのを、新たな触手が生成されていくのを、ぼうっと力なく見上げる。
そして、深く息をついてから、つぶやいた。
「助かったよ。でも、ずいぶん遅かったね? ロココ」
「苛み、縛れ! 尽く!」
『ビィィィィィィィィィィィッ!?』
床から伸びる無数の赤い呪紋が幾重にもその巨大な体に絡みつき、【超大暴食黒粘体】の動きを止めた。
ふわり、と純白のマントを翻し、銀色の髪をなびかせながら、そっとロココがひざをついたままの僕のとなりに並ぶ。
見上げると、少し潤んだ青い月のような瞳が僕を見つめていた。
「ごめんなさい、ノエル。思った以上にディシーの奥深くまで【封魔】が絡みついていて、解除するのに時間がかかった」
「ううん。僕こそいじわるいったみたいで、ごめん。ロココ、本当によくやってくれたね。ありがとう。それで、ディシーはなんとかできそう?」
「うん。ノエル。ディシーは、すごい」
「そうか。じゃあロココ。僕たちは少し下がろうか? ディシーの構築する魔法の邪魔にならないように」
「うん。わかった」
立ち上がりながら小さな手をとり、その華奢な褐色の体を腕に抱いて、ふたたび後ろへ向けて跳躍する。
ちょうどそのとき。尋常ではないほどの魔力の迸りとともに、ディシーの詠唱が始まった。
「我が名はディシー・ブラックリング。我は紡ぎ手。我は世界と融け合いしものなり。いまここに我に許されし切りとられし世界の欠片に我が魔力を以て、新たなる魔の理を刻みつけん……!」
跳び上がった空中から見下ろす。
ディシーの胸の前で向かいあわせた両の手のひら。なにもない場所から真っ黒な【珠】のようなものが生みだされた。
それは、彼女にその支配者として振る舞うことが許された、切りとられた世界の欠片。
【黒元の精霊魔女】。
それは、単なる魔法使いを超える――魔の理を紡ぎ、新たなる魔法を創る存在。
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