53話 【封魔(シール)】。※
※前回に引き続き別視点でお送りします。
「あうっ……!?」
痛いくらいの力で突き飛ばされ、なにも見えない真っ暗闇の中へあたしは転がり落ちる。
「な、なに……!?」
ひんやりとした固い床の上に這いつくばりながら後ろを振り向いたときには、すでに入口の扉は閉ざされていた。
『さあ! 一発決めるぜぇ! せーの!』
「「「乱し! 封じ! 枷に嵌めよ! 【封魔】!」」」
「ひうっ!?」
混乱するあたしの背中にさらなる混乱が襲いかかる。
それは、魔力。それも悪意を持ったおびただしい数の。ひとつひとつはたいして強くはないけれど、確実にその数はあたしの魔力抵抗をすり減らし、そして――
「あ……!?」
――はっきりとわかった。あたしの体に魔力が通わなくなったのが。
『さぁ! 今回も勝率10割のオレたちの必殺戦法【封魔50連発】がバッチリ決まったところで、まずは恒例の自由コールからいってみようかぁ!』
「ひっ!?」
高く響く陽気な声とともに、真っ暗闇の中にパッパッ、といっせいに大量の魔力照明が灯って、まぶしいくらいに照らされたその空間の全貌が露わになる。
「あ、あ……!?」
それは、異様な光景だった。
真っ先に目に映るのは、広々とした倉庫の真ん中にでかでかと置かれた巨大なベッド。いくつものベッドをつなぎあわせてつくったと思われるそれは、10人以上がそこに寝てもまだ余裕があるほどの大きさ。
そして、その巨大ベッドを中心に倉庫内の壁際にとり囲むようにずらりと何十人もの男たちが。それもみんな上半身裸の姿で。
その男たちは使い捨ての魔法札を放り捨てると、いっせいに右腕をかかげ、拡声魔力器を使った男の声にあわせて、なにかにとりつかれたように叫びだした。
『女を食うのも?』 「「「「自由!」」」」
『女を売るのも?』 「「「「自由!」」」」
『魔薬漬けにして沈めちゃうのも?』
「「「「自由!」」」
『バレなきゃなにやっても?』 「「「自由!」」」
『さあ、最後! 無数の隠れ蓑を着ては好き勝手する! そんなオレたちは?』
「「「【はき違えた自由】!」」」
「あ、あ……!? あ……!?」
座りこんだまま、足がカタカタと震えていた。頭の中で、さっき聞いたばかりのあの冷たい声が何度も何度も反響する。
『じゃあ人間の怖さ、少しは知ってくるといいよ? 引きこもりで田舎者で頭お花畑のお嬢ちゃん』
『さあ! コールも終わって結束を深めたところで、本日のイベントの主役にご登場いただきましょう! 隠れ蓑のパーティー名【最高に自由】が本日捕獲したばかりのあわれな白い小羊――ディシーちゃんです!』
「あ、あ……!?」
パッパッ、とまばゆい光があたしの体にあたる。男たちの好奇の――這いまわるような粘つく視線が露出の多い白いドレスを着たあたしの体を舐めつくす。
「よーう! ディシーちゃん! その白いドレス超似あってるじゃん! さあ、じゃあいっしょにベッドまでいこうぜ? ここにいるみんな、ディシーちゃんと仲よくなりたくてうずうずしてるんだからよぉ!」
上半身裸の【最高に自由】のリーダーが現れ、あたしをパーティーに誘ったあのときと同じにやついた笑顔を向け、手を差しのべてきた。
……いや違う! なんでいままで気づかなかったんだろう? この目はあたしなんか見ていない。あたしの体しか、見ていない……!
「いやっ!?」
それに気づいたあたしが思わず体をバッと両腕で隠すと、いらだちを隠そうともせずにリーダーがこれ見よがしに舌打ちをする。
「ちっ! なんだよ! いままでせっかく優しくしてやったのによぉ! まあいいや! あとで死ぬほど自分の立場、わからせてやっからよ! おいお前、そっち持て!」
「い、いやっ!? いやあぁっ!?」
座りこんだまま立てなくなったあたしの両腕をふたりの男が無理やりにその肩にかつぎ上げた。
そのままズルズルと引きずられ、中央の大きなベッドに無理やり投げだされたときには、いやがおうでも実感せざるをえなかった。
「うぁ……! うあああぁぁぁぁぁっ……!」
あたしは――選択をまちがえたのだと。
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