52話 お花畑。※
※別視点でお送りします。
「ほらほら、ディシーちゃん? 早くしないと始まっちゃうよ~? もっとしっかり歩いて~?」
「う、う~! で、でもこ、こんな格好……! あたし、やっぱり、恥ずかし……!」
「もう! いまさらなにいってるのよ~? 私だって、ほ~ら……!」
「わひゃっ!? ル、ルアさん!? そ、そんな……こんな街中で……!?」
「あはは! ディシーちゃん、おっかし~! そんなに心配しなくても大丈夫だってば! 誰も見てないって!」
新しく入ったあたしのために【最高に自由】のみんなが仲間内を集めて開いてくれるという歓迎イベントが行われる【リライゼン】の端の倉庫区画へと向かう道中。
くすくすと楽しそうに笑う【最高に自由】のメンバーのルアさんを前に、あたしは気が気ではなかった。
だって、いまのあたしの格好……! い、いくらルアさんを含めたほかの参加者の女の子も同じ格好とはいえ、こ、こんなの恥ずかしすぎるよ……!
「あはは! ディシーちゃんったら、本当に初心だよね~! しっかり上にコート着てるから大丈夫だってば! 見えない見えない! それに、そんなに恥ずかしいんだったら、さっさと会場に着いちゃえば恥ずかしくなくなるよ~? だから、早く行きましょ~!」
「わわわっ!? 待って、ルアさん!?」
むずがるあたしの手を引いて、先を行くルアさんがどんどんと前へ歩を進める。少し早足なその歩調に遅れないように、あたしは小走りになって歩を進めた。
だんだんと街の中心部から外れて、明かりが少なくなってくる。暗いのは正直あんまり得意じゃない。
ルアさんがいてくれてよかった。あたしひとりだったら、無事に会場の倉庫までたどり着けたのが正直怪しい……道もわかんないし。
「あ! ディシーちゃん! もうすぐだよ! あそこの倉庫! あそこだけひとが立ってるのが見えるでしょ?」
「あ、うん!」
ルアさんのいうとおりだった。すっかりと魔力街灯がまばらになった倉庫区画。
その中のひとつだけ、閉ざされた入り口の前に男のひとがふたり立っている。雰囲気としては【最高に自由】のリーダーさんたちと似た感じの。
「ん~? 見ない顔じゃ~ん? ってことは、君が今夜の〜? へ〜え? こいつはなかなか……!」
入口に立っている男のひとのひとりがあたしを見て、いぶかしげに眉を動かした。それからじろじろとコートを着たあたしの全身を丹念にながめまわす。
……【最高に自由】のリーダーさんたちもこういうところがあるけど、正直あたしはあんまりこうやってじろじろと見られるのは好きじゃない。
でも、【闇】属性のあたしを受け入れてくれたみんなといっしょで、その仲間のこのひともきっといいひとだと思うから。
だから、あたしは笑顔で返す。
「あ、はい! ディシーです! 今日はよろしくお願いします!」
「あはは! よろしくよろしく~! っていってもオレたちは見てのとおり仕事中だから、参加できるのはだいぶあとのほうだけどね~! ま、そのときはふたりでたっぷり楽しもうよ~! こう見えてもオレ、けっこう上手いほうなんだぜ~?」
「あ、はい……!?」
……思わず返事しちゃったけど、ふたりで楽しむってなんのことだろ? イベントのことかな? でも、上手いって……? ん~、なんか変な感じ……?
「じゃあ、ディシーちゃん? 会場に入る前にちゃんと用意された衣装にならないとね~!」
「わぴゃ!? ル、ルアさん!? も、もうここでコート脱いじゃうの!?」
ルアさんはそういっておもむろにコートを脱ぎ捨てた。はっきり言ってひとのを見るだけでも恥ずかしい。
おへそ丸だしで胸元と背中が大きく開かれて、それに足先から太ももの付け根あたりまで大きくスリットの入った、とても大人っぽい黒のドレスが露わになる。
でも、あたしと歳もほとんど変わらなく見えるのに、どうしてルアさんはこんなに似合ってて色っぽく見えるんだろう?
それに、こうして人前で肌をさらすのに全然ためらいがないし……さっき街中でだって平気そうだった。
「ほらほら、ディシーちゃん? いいかげん覚悟を決めちゃえ! それ~!」
「わぴゃあ!?」
そんな物思いにふけっていると、不意討ちで後ろからバッっとルアさんにあたしのコートを剥ぎとられてしまった。
「おおっ!?」
「うわっ! すっげ……!」
露わになったルアさんと同じデザインの、色だけは白のドレス。
背はぜんぜん伸びなかったのにそこだけ不つりあいなくらいに大きくなってしまったあたしの牛みたいな胸に、倉庫の前に立っていた男のひとたちの好奇の視線が突き刺さる。
「う、う~! ル、ルアさん!」
「あはは! ごめんね~! でも、ディシーちゃんなかなか覚悟が決まりそうにないし? だから、しかたないじゃない~?」
しゃがみながら胸元を必死に両腕で隠して涙目で抗議するあたしに、けどルアさんは楽しそうにくすくすと笑うばかりだ。
……確かに自分でコート脱ぐ覚悟なんてなかったけど、でも! こんなのって、ひどい!
「ふふふ……! じゃあ、そろそろ会場に入ろっか? もう入口も開いたことだし」
「あ……」
ルアさんの言うとおりだった。いつのまにか倉庫の入り口がぽっかりと開かれている。
ただ、その向こうに見えるのは、なにも見えない真っ暗闇で……足を踏み入れるのがなんだか、急に怖くなった。
「さあ、ディシーちゃん? 行きましょ? ほらほら、私が背中を押してあげる!」
「え、あ……」
ルアさんに手を引いて立たされ、背中を押されてどんどんと前に押しやられる。
そして、あと一歩で会場の中というとき、後ろでルアさんがぽつりとつぶやいた。
「じゃあ人間の怖さ、少しは知ってくるといいよ? 引きこもりで田舎者で、頭お花畑のお嬢ちゃん」
「……え? あうっ……!?」
同時に強く背中を突き飛ばされ、真っ暗闇の中へあたしは転がり落ちた。
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